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司結の過去のこと


 司結に両親はいない。物心がついた時にはすでに二人とも他界していた。

 父親が刀術を所有していて能力戦闘員として軍に所属。母は非能力者だったが、兵站として軍に所属していた。


 そして、二人が任務に着いていた基地が敵に襲撃され、二人は殉職。当時2歳の司結だけが残された。


 戦争中、戦死者は当然多いし、残される家族も多い。遺族には国から遺族年金が出るが、幼い子供が残された場合、国が引き取り、育ててくれる施設があり、私はそこへ入った。


 司は何事も不自由なく育てられたが、9歳の時に転機が訪れた。刀術が発現したのだ。


挿絵(By みてみん)


 国民には定期的な検診があり、そこで身術、動術および刀術の発現検査がある。それが理由で発覚。発現した刀術は能力値も発現したばかりには割と高く、軍学校への入学を勧められた。


 司はすぐに軍学校へ入学した。能力発現時期は人によってまちまちなため、学校内のでは学年ごとに別けられたりしない。成人しているものもいれば、足し算もできない歳の子までいる。残念ながらクラスの中に9歳以下の者はいなかった。



 訓練が始まった。同期生の中には刀術と体術の両方の能力を持つ者もいたり、明らかに能力値が高い者もいた。司の刀術の能力値は、その時になると平均より劣っていた。基礎体力も高くなく、比較的低年齢による経験の差が顕著に出ていた。他人にできることが自分にできない。能力実技、基礎実技、座学、全てにおいて周りと差が開いていくばかりであった。


 低年齢の訓練生が周りに置いていかれるのは珍しいことではない。そのことを司は教官から言われてはいたが、それでも劣等感と焦燥感は消えなかった。何よりも他人に迷惑をかけているようで、申し訳なく司は感じた。


 身術、動術および刀術は基本的に血で受け継がれる。司に発現した刀術も父からもらったものになるのだが、その刀術を彼女は呪った。



 精神的にどん底だった時に、司はある一人の青年と出会った。


 その人は、司と同じく刀術士で、能力戦闘員として従事していた。そしてアドバイスをもらった。



「自分の力を呪いだと考えちゃダメだ。道具だと思え。それが本当の呪いだとしても」



「他人に迷惑をかけたくないと思うなら、一人で生きていく力を手に入れろ。その一番の近道は手柄を立てることだ」


 司はその言葉に救われた。そしてこの人に着いていきたいいつしかと思うようになる。


 だが、すぐにその人は姿を消した。それまで本部所属だったのが、急に単独潜入兵として従事することになった。


 司は迷わなかった。すぐに軍学校を辞めて、国境に向かった。軍に見つかったらすぐに拘束される状況だったが、なんとかその人に再会することができた。無理を言って本人にも軍にも、同行を許可してもらった。


 そこから司は戦闘のイロハを叩き込まれた。そして、その人から呪術【怨花】を授かった。

                                        




「司?」



 司はいつの間にか目を瞑っていた。どうも乗り物が出す振動は心地が良く感じてしまうらしい。



「寝てないよ」


「そろそろ結界を超えます」


「本部に最後の連絡しておいて」


「了解」


 後ろでごにょごにょ聞こえる。連絡は十数秒で終わった。


「結界通過前連絡を完了しました」


「ありがとう」


「司、話の続きを聞かせてください」


「どこまで話したっけ」


「司が戦闘のイロハを叩き込まれたところまでです」


「続きはまた今度ね」


「なぜですか」


「なんとなく」


「次はいつ聞かせてくれますか」


「さあね」


「遺憾であります」


「うっさい、すべこべ言ってるとまたくすぐるよ」


 言うと同時に里絵の両脇に手を入れた。


「司! やめてください! 運転中でs…あはははははは!」


 急に後ろブレーキがかかり、後ろのタイヤがスリップし、バイクが横滑りを起こし始めた。車体が左に向き始め、そのまま倒れていく。


「やべ……」


 司はツルを出し、里絵は《排他》を発動した。



次回「暗闇の中の怪しさ」

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