暗闇の中の怪しさ
22日2021時
2人は戦線地帯に入った。ここにも光はないが、さきほどとはうってかわって、何らかの音が常に聞こえる。 戦線の本部はもう少し北進する必要がある。そこでバイクを置き、すぐに戦線に加わるフリをする。
依然としてバイクで移動をしているが、左ミラーがポッキリ折れているのと、オイルタンクの左側面にひどい擦り傷がある。戦闘があったわけでもないのにこれだけ損傷させたら、引き渡す時に理由を問われ、注意を受ける可能性があった。
「そろそろ一度戦線本部に連絡しますか」
里絵が司に尋ねる。
「じゃあ、おねがい」
「了解」
そのとき、自分の左側、つまり進行方向の右側に違和感を感じた。
ほとんど木はなく、背の低い林が広がっているだけのはずだが。
「やっぱ中止」
声色が変わったのを察知したのか、里絵も真剣になる。
「どうかしましたか」
「停車して、エンジン切って」
「了解」
司は体育座りをやめ、じっと違和感を感じた方向を凝視した。そのうちバイクが停車し、降車する。
「ライトをあっちに向けて」
里絵に指示する。里絵は《操作》と《加速》を発動させ、ハンドルを持ったまま、前輪をスッと持ち上げ、反対に倒し、方向を120度ほど変える。常人じゃできない芸当だ。
暗闇に包まれていた空間が明るくなる。
別段、怪しいところはない。
「気のせいだったかな。先の戦闘でも小さな違和感に気づいたし、今日はなんか変なことに敏感になってるかも」
司はツルを最大限発生させ怪しい範囲をまさぐる。が、異常はない。ここまでやっても異常は見つからない。だが、説明できない不信感は残ったままだった。
「ここに敵兵がいる可能性はあると思う?」
「ありえなくはありません。軍は、巨大遮断結界破壊に乗じる反抗作戦のために戦力を温存しているはずです。戦線の維持も少し苦しくなっているでしょう。縦仙基地が襲撃を受けたのも同じ理由だと思います」
「戦線本部裏に回り込まれるもんかなあ……。巻き髪に関しては話が別だけど」
「……」
里絵はハンドルを掴んでいた右手を離し、刀を抜く。同時に《排他》を発動する。
「勘違いかもしれないよ?」
「もしもの時のためです」
バイクから伸びる光は、林をまっすぐ照らしている。
「気のせいだったら私たちかっこわるいねー」
「……」
里絵から返事は返ってこなかった。
頭の中に、ある案が浮かんだ。
「芝刈りはお好き?」
「……好きではありませんが」
「まあいいや」
里絵はきょとんとした表情を浮かべた。
「……??」
「なんで気づかれたかなあ……」
敵国イーティルのラシド・ペルメは音にならない呟きを漏らす。
青年は必死に息を殺しているが、緊張と不安が汗となってとめどなく流れ出す。灰色で短い髪も、心境と同じく整ってはいない。その表情は言うまでもなく、いつも以上に余裕がない。
ラシドは光が見えたからとっさに隠れて、やり過ごそうとしたが敵兵に見事に感づかれた。理由は不明。このあたりは木が無く、見晴らしが良い場所ではあるが、草の長さ自体は人の腰くらいはある。こうして地に伏せていれば、気づかれることはまずない。ましてやこの暗闇。
敵兵は2人。ここから50mくらいのところにバイクを停車させた。地に伏せているせいで目で確認できないが、まだラシドには気づいていない。
辺りがバイクのライトで照らされる。ラシドが草を押しつぶしていることで生じる不自然な凹みもそこまで違和感はないが、近づかれたら気づかれるのは明らかだ。
自然と全神経が耳に集中する。色々な音が聞こえるはずが、今は敵兵たちの会話が小さく聞こえるだけだ。
「早くどっかいけ」
声を出さず、口のみ動かす。遭遇してから何秒たっただろう。敵兵は動く気配がない。
その時だった。遠くの方から轟音が響き渡り、こちらの方へ近づいてくるのを感じた。
バイクや、車両のような音ではない、物がなぎ倒されていくような奇妙な音がペルメに近づいて来る。
「くそ!!」
ラシドはすぐさま刀を抜き、その場から逃げようと立ち上がるも、それと同時に眩しい光でライトアップされる。
次回「トオる斬撃」




