壊れた目覚まし時計
22日1754時 縦仙基地 青仮面との戦闘後
里絵は作戦のための準備を済ませた。部屋の照明を消し、隣の司の扉をノックする。
里絵は司の返事の後、入室した。
司もほとんど準備が終了していた。裸足だった足の傷も完治しているのか、すでにミリタリーブーツを履いていた。
「司、時間です」
里絵が言う。
「まるで、目覚まし時計だな」
「……? 自分ですか? それも任務です」
里絵はそう答えた。ふと、司の部屋のデスクに置いてある小さな目覚まし時計に目がいった。時刻は現在の時刻を刺していない。約30分前の時刻を示していた。
里絵の視線に司が気づく。
「あ、これ? 仮眠のために目覚ましをセットしたんだけど、物音に気づいて止めようと思ったら、落としちゃって、壊しちゃった……。あげよっか?」
司は「いりません」という里絵の返事を期待した。
「いただきます」
司の期待に反して、里絵は壊れた時計を欲しがった。
「…………いるならいいけど…………」
22日1810時
任務内容が変更された。
司、里絵両二名は現時刻をもって縦仙基地を出発、北上し巨大遮断結界を突破。
その後、混戦地帯に侵入し、12時間以上の待機。
そこから隠密東進し、森林地帯に入る。
以後、先の命令と同様に北上し初蟹基地付近で待機。
前の命令は縦仙基地から西進して森林地帯に入るものだったが、本命令は一度北上して戦闘地帯に入る。
この作戦の変更は、縦仙基地が赤と青に襲撃されたことに起因するものだった。里絵も司も基地の防衛に参加してしまった。極秘作戦である以上、この暴露は明らかに失態なのだが、立参謀は二人に対して「被害を最小限にするためには必要な戦闘だった。まして、青の撃退は称賛に値する」と言った。
社交辞令ではない。しかし、その言葉に司は苦い顔をした。
日が落ちてから、縦仙基地より北は真っ暗になる。それはここも戦場の一部である事を示しているに他ならない。草原の中を伸びる一本の道。ずいぶん道幅が広く、しっかり整備されているのは物資がここを通るからだ。時折、銃声なのか砲撃音なのか判断つかない雑音がエンジン音の隙間から聞こえる。
二人が戦線まで移動するのには軍用バイクを使う。里絵が運転し、司がその後ろに乗る。
「司、その乗り方じゃないとダメなんですか?」
「青や赤が出てくるかもしれないじゃん。後方の警戒は必要よ」
司は里絵と背中合わせに体育座りをしている。後ろを注意する目的もあるが、司はなんとなく里絵に背後から抱きつくのが恥ずかしかった。運転している里絵にとっては落ち着かないだろうが、万が一、司が落ちそうになれば呪術を発動させればいいだけなので、安全上の問題ない。
視界が狭くなるためヘルメットは着用しない。これは司も里絵も、呪術士、刀術士も体術士も共通な事柄だ。お互いの言葉は着用したスロートマイクで聞こえる。今なら本部とも通信可能。結界を超えたらそれもできなくなる。
「敵出てくるかなあ」
「想像もつきません」
「赤はまだしも、青の行動原理は人間のそれとは思えないもんね」
「単純な戦闘要員として動いてない事が上層部の見解です」
「赤も青も、身術、動術、刀術のすべてを使える三重能力者。あれだけの人数をどうしたら用意できるんだろうね」
「青に限っては人間では無い可能性も示唆されています」
「さっきの戦闘も目的はさっぱりだし」
「青との交戦を避けるように言われているのを実感しました」
「無茶苦茶な強さだったね」
「肩の傷はもう治癒しましたか?」
「もう痕も残ってないよ」
「良かったです」
「青を倒すにはどうしたらいいと思う?」
「……また戦うつもりですか?」
「さあ」
司は言葉をにごす。
「なぜそこまで敵を倒す事に執着するのですか」
里絵からの質問。珍しい。
「なんでだろうね…」
「……」
里絵からの返答は帰ってこない。
「聞きたい?」
「はい」
「少し長くなるよ」
「構いません」
次回「司結の過去のこと」




