表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣も魔法もない異世界でギャルと帝都を歩く  作者: 如何那


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/34

第8話:たぶん、魔法少女

「あっ……」

 ハルミが思わず声を上げる。

 逆光だが、この声はわかる。


「ジュリ?」


「おっ、ハルミじゃん!」


「うわああぁぁぁぁぁぁん、ジュリーーーーーーっ!」


「大袈裟かよ」


 グラン・ヴィアホテルのロビーで再会を果たした二人は、お互いを抱きしめる。


 胸元に顔を埋めるハルミの頭皮から、いつものタバコの匂いがした。

 ジュリアの胸元からは甘さを伴った汗の匂いがした。


 懐かしい、オールした後の、明け方の匂いだった。

 

「しかし、ハルミ、よくここ見つけたよな」


「うん、なんか電車でケーサツに捕まって、色々あって、ここに連れてきてもらった感じ」

 ハルミはここまでの経緯を“かいつまんで”

説明した。


「マジ? もうサツに捕まってんの? ウケる。

 やっぱやベェわ、ハルミは」

 そう言って、ジュリアは大笑いした。


「ジュリこそ何してたん?」


「そうだな〜、ブーツ履いたままだったじゃん?」

「うん」


「裸足で履いてるから、蒸れるっしょ?」

「うん」


「それを脱いだり、履いたりしてた」


「何それ、バカじゃん、あはははははっ」

 ハルミも大笑いした。


「あ、そうだ……これやるよ、ウチら金ないじゃん」


「そうだよ、ケーサツに捕まっちゃう」


「ん……これ、とりま3万ありゃなんとかなるっしょ」


 そう言って、ジュリアはくしゃくしゃの紙幣をハルミに3枚渡した。


「ありがと〜。ジュリ大好き! で、これ、見たことないお金みたいだけど、どうしたの? もしかして……窃盗?」


「いや、お前じゃないんだから……

 いい? こうやってブーツ脱ぐじゃん?」


 黒いブーツの中から、ジュリアの男並みにデカい足が出てきた。

 27cmあるとか言ってたっけ。物によっては28cmとか。


「うわー、相変わらずデカいね、ジュリアの足」


「うっせ。それをいうならお前もだろ。お前の26cmは小足じゃねーからな」

 ジュリアがそう言うと、ハルミは不満そうに口を尖らせた。


「そんで、これを履くだろ? ……これを何回かやると……まぁこうなる」


 ジュリアの手元にはまとまった金が握られていた。


「へー。すごいね。あっ、ジュリアもタバコ吸う?」

 ハルミが箱から一本立たせて、ジュリアに促した。


「あー、それかぁ……それ変な匂いするから嫌なんだよなぁ……セッター持ってない?」


「変な匂いって言わないで。すごくかわいいから、このタバコ」


「変な匂いは否定しないじゃん」


「いい匂いなの! でも、セッターはないよ」


「そっか〜……ハルミの変なラキストで我慢すっか……」

 

 その時。

 ハルミの手元のラッキーストライクが輝いた。

「なっ……何?」

 

 ブワンとブラウン管を点けたような音がして、目の前に画面のようなものが展開した。


「うわっ! びっくりした」

 ハルミが思わずタバコの箱を取り落とす。


「おっ! すげぇ、セブンスターが表示されてるじゃん……マルメンやパーラメント、こっちは、うるまもあんじゃん、どういうラインナップだ?」

 ジュリアが興奮気味に画面を覗き込んだ。


「セッター押してみる?」

 ハルミが問うと、

「おねがーい」

 と答えた。


 ポチっ!


 ハルミが画面を押すと軽やかな音がして、新たなメッセージウインドウが開いた。

 立体的なセブンスターがクルクル回る横に、600Jの文字が浮かんでいる。


「なんだろ……?」

「あぁそれね、多分これだわ」

 そういうと、ジュリアが先程の紙幣を取り出した。


「これ10000Jと書いて一万ジュール。だいたい一万円くらいの価値っぽい」


 そう言いながら、ジュリアが紙幣を画面に押し付けると、紙幣はスルンと取り込まれた。


「おお……」

 ジュリアが感心していると、お釣りとともに、画面が光って消えた。

 お釣りの額は9400ジュール。

 ハルミの手元にセブンスターが握られていた。


「あ、ハルミのラキストがセッターになっちゃった」


「すげぇな、なんか知らんけど。とりまラッキー」

 ジュリアが、ひょいと一本取ってセッターを口に咥えた。


「ラッキーじゃないよ、ウチのラッキーストライクが無くなっちゃったじゃん」


「まぁまぁ……落ち着こ。ほら、せっかくだからセッター吸えし」


「えぇ?! それ、ヤニきついじゃん」

 

「わかった、わかった。ハルミが吸わないなら、それちょうだい」


「いいよ、全部上げる」

 ハルミがジュリアに手渡すと、


「痛っ!」

 軽い電気のようなものが走り、ジュリアがセッターの箱を取り落としてしまった。


「いってて……静電気?」

「かもね〜」

 そう言いながら、散らばったセブンスターをジュリアがかき集める。


「裸で貰ってもなぁ……なんか箱ねぇかな」

 二人でタバコの自販機を探していると、

 手元でカサカサ……という音がした。


「んんっ?」

 ハルミが目をやると、空になったはずのセッターの箱がみっちりと20本、ちゃんといっぱいに詰まっていた。


「あれ? さっきバラバラになっちゃってなかった?」

 ハルミがジュリアに問うと、


「うん、バラバラだった。さっきのやつ、ここにあるし」


 そう言いながら、ジュリアが二本目の火を欲しがったので、ハルミが手慣れた手つきで点けてやる。

 ジュリアは目一杯に肺に入れてから、煙たい息を鼻から出した。


「魔法かも」


 視線をハルミのセッター箱に落としながら言った。


「えっ……魔法?」


「そう。魔法。タバコが増える魔法」


 ハルミはしげしげとセッターと化した箱を見つめながら言った。


「激アツじゃん」


「アツいね。しかもあれじゃん……ハルミ

 “魔法少女”になったってことじゃん」

 そう言うとジュリアがニカっと笑った。


「なんかウチら死んだとか言われたじゃん」

「うん」

「だから、魔法少女にしてくれたんだよ……たぶんな」


「やった! ラッキーじゃん」

「ラッキーだよ」


「でも、もうラッキーストライクじゃないじゃん」


「知らねぇよ……さっきの画面出したらいんじゃね?」

 なるほど、と思いハルミがセッターの箱を見つめる。


「……出ない。ねぇ、画面でないんだけど」


「んじゃ、魔法少女じゃないんじゃない?」


「えーっ……うん、そうかも」


「まぁ、あの変なタバコに変わったら嫌だから、今のうちにもうちょい貰っとくね」


 ジュリアが“箱”に手を伸ばしたので、また電撃に打たれたが、気にせず中身を取り出したようだ。


「チルベリー出ろ……チルベリー出ろ……チルベリー」

 ハルミがテーブルに置いたタバコの箱に両手をかざしながら念じる。


「それじゃ魔女じゃん」

 ジュリアが二本目のセッターをフィルターギリギリまで吸いながら笑った。


 ブオン!


「あっ! あの画面開いた」


「やるじゃん、ハルミ、魔法の才能あるんじゃね?」


「えーっと……ラキストはどこかな〜」

 ハルミが画面を次々にスワイプしてゆく。


「これじゃね?」

 ジュリアが指差したその先には、ハルミのタバコによく似たデザインのパッケージがあった。


「あ、これ? これはメビウスのオプションパープルってやつ。似てるけど違う」

 ハルミが違いを説明する。


「そうなんだ」


「無い無い無い……あった、えーっ、こんなに下の方なの?」

 不満そうなハルミだが、ジュリアが何かに気づいたようだ。


「そこ、うん……ハートマークあるじゃん。多分お気に入り登録とかだと思うんだよね」


「そうかも……ポチっと」


「セッターも登録しといて」

「はいよ〜」

 

 ポチポチと画面をタップすると、ジュリアが言うようにお気に入りが画面上部に固定表示された。


「んじゃ……タバコよラッキーストライクチルベリー8mgに戻りたまえ〜」

 ハルミが呪文風に唱える。


「ふふっ……さっきは、やってなかったじゃん……ふふっ」


「いいの、こういうのは気分が大事なんだから」

 

 すると見慣れたラキストの立体画像が、クルクル回って表示された。


「450Jだって……」

 ハルミがジュリアを見つめる。


「いや、そこはハルミが払えって」


「わかった」


 ハルミがジュリアからもらったばかりの紙幣を画面に押し当てると、お釣りとラッキーストライクが出てきた。


「やったー! 大成功」

「良かったじゃん」

「うん」


 柔らかな椅子に深々と体を預け、二人で好みのタバコをふかした。


 ジュリアが身体中にニコチンが巡るのを感じながら、再会できた喜びを噛み締めている頃、


 ハルミはフレーバーカプセルを噛み締めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ