第5話:黒崎ジュリアは困らない
吹き出す蒸気が軒先を濡らす。
そこから滴る雫で、年中乾くことのない路地裏。
ジュリアはゴミ箱の中で目覚めた。
「はぁ……ダル。なんか酔っ払ってたんだっけ……頭いたぁ……」
ジュリアは一度大きく伸びをしてから辺りを見渡した。
この夜の淫猥な雰囲気はよく知っている。
手には最新のスマートフォンが握られていて、ボタンを押すと、ハルミと撮ったツーショット写真が待ち受けが目に入った。
ガルバの誕生日イベントで撮ったものだ。
後ろに常連客たちも映っている。
ジュリアの画面割れスマホから、最新スマホへのデータ移行も済んでいるらしかった。
「はぁ……ハルミ、何してんだろ……」
ジュリアは懐かしい気持ちに少しの寂しさ感じながら、頭ではすでに現実的な問題について考えていた。
「うーん……財布、無いんだ?!」
通りに出ると、様々な看板が白熱球に照らされて、行き交う客を引き込まんと精一杯輝いていた。
「ふーん、別世界っていっても結構都会じゃん」
そう言って歩みを進めるジュリア。
ゴミから湧いて出たとはいえ、そこは高身長と、流れるような銀髪の美人である。
すぐに通行人の目を引いた。
「あれあれ……お姉ちゃん、ずいぶん美人だね」
ゆっくりと歩いていた男性が声をかけてきた。
「どうも」
「どう?」
男は手のひらをパッと開いてみせた。
「うーん……そっか、ちなみにオジサンは、なんでも言うこと聞きたい方? 聞かせたい方?」
ジュリアがチラと一瞥をくれると、男は縮み上がった。
「ふぅん……聞かされたい方ね」
男は何度も大きくうなずいた。
◇ ◇ ◇
「チョロ……」
ジュリアはブーツを履き直しながらつぶやいた。
「5分ですんだし……」
ジュリアの手には1万何タラと書かれた紙幣が5枚握られていた。
「あら? こんなところにお金が、ラッキーラッキー」
ジュリアはにっこりと笑顔を浮かべると、ソレを無造作にポケットへ捩じ込んだ。
「どっか泊まるところとか無いかな……あ、クラブでもいいんだけど……この街知らないしなぁ」
ジュリアが見上げた狭い空の上を、ゆうゆうと空をゆくクジラのような硬式飛行船が通り過ぎた。
「あっ……なんかカッケェ……」
ジュリアはスマホを空に構えてシャッターボタンを押した。
「おお……すげぇ、夜なのにキレイに撮れてるじゃん」
ジュリアは保存された写真を見て少し笑った。
「あとでハルミに見せてやろっと」
夜空の向こうを、巨大な飛行船がゆっくりと横切っていく。




