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剣も魔法もない異世界でギャルと帝都を歩く  作者: 如何那


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第4話:目覚めたギャルはタバコに火を点けた

ハルミ転生回です。

 ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……


「んっ?! ……あ、なんだ寝ちゃってたわ……」

 ハルミは寝ぼけ眼をこすりながら伸びをした。

 

 ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……


 鉄と鉄がかち合う重い音が響き、目の前の景色が横に飛ぶ。

「んぁ? あ、あぁ、電車かぁ……ふあぁぁっ」

 ハルミが見渡す先には、木目の内装に、緑のモケットシートが続き、車内灯がほのかに灯った車両だった。


「あ〜……なんだ阪急じゃん……んっ?!」


 いつも乗り慣れた電車であることで安心したハルミだったが、少しいつもと様子が違った。


 席に座った乗客が、あちこちで紫煙を燻らせている。


「やっべ……激アツじゃん」


 ハルミは早速小さなカバンから紙巻きタバコの箱を取り出す。

 ラッキーストライク チルベリー8mg。

 黒地に紫と緑の派手なパッケージがかわいいので気に入っているタバコだ。

 パチッと音を立てて吸い口のカプセルを噛んで火をつける、立ち上る煙を見つめてから一気に肺に吸い込んだ。

 ベリーとメンソールの香りが一気に体になだれ込んでくる。


「ぶはぁぁぁぁ……」

 ハルミの口から、ベリー系の甘い匂いをまとった煙が吐き出され、立ち込める。


「喫煙車かよ。阪急あっつ!」


 ガタン、ガタン、ガタン、ガタン……


 激アツ阪急電車? は、ハルミと大勢の愛煙家を乗せて、猛スピードで駆け抜ける。

 窓の外はのどかな田園風景が広がっていた。


 ハルミは喉の奥で8mgタールのキックを味わいながら、随分田舎の路線だが、どこだろう、京都線かな? と思いながら、久しぶりに吸うヤニを味わっていた。


「次は“帝都蒸気動力研究所” “帝都蒸気動力研究所”です。お出口は右側です。扉付近のお客様は開く蒸気ドアーにご注意下さい。」


 鉄のかち合う音に割り込むように、ややくぐもった車内アナウンスが流れる。


「んはぁ……ふぅぅぅぅぅ……」

 ハルミは吸うたびに赤く光る火口を眺め、同じ数だけ甘い匂いの煙を吐いた。

 ふと見ると、座席に凝った意匠の真鍮製の灰皿が備え付けられているのが見えた。


「さすが阪急だよね……サービスがレベちだよ。わざわざ灰皿までつけてくれてるなんて」


 ハルミは気のきいたサービスにうれしくなり、ラッキーストライクをもう一本取り出した。

「あれ? なんか出にくいな……さっき3本吸ったんだけどな……」

 まぁいっか、と呟いて、ハルミは4本目のフィルター内カプセルを噛み砕き、先端に火をつけた。


 触り心地の良いフカフカしたシートに身を委ね、燻る煙を眺める。

 一定のリズムを刻む線路の音も心地いい。

「うまぁ……」


 高速で横に流れていく景色は、田園風景から一変し、煤煙にけぶる暗色基調の高層ビル群と、巨大な歯車が噛み合った謎の塔が林立する都市の姿であった。


 そこではちょうど巨大な硬式飛行船が、高度を落としながら街に向かっている様子が見えていた。


「でけ〜 何あれ……とりま写真撮るか……あ、そうだスマホ無くしてるんだったわ。もう、最悪……

 ……もう一本吸うか」

 電車の中で目覚めた時から、スマホが無くなっていることには気づいていたが、そのせいで、あのでかい飛行機が撮れなかったのは残念だった。


「あれ……また取り出しにくい……」


 ハルミはタバコを一本抜き取って口に咥えると手元のタバコの箱を振ってみた。

 カサカサと音を立てていた箱は、しばらくすると無音になった。

「音、消えたし」

 フタを開けて見ると、ラッキーストライク チルベリーは、ぎっちりと箱に詰まっていた。


「えっと…………ヤニクラかな?」

 ハルミは少し頭を振ってから、外の景色に目をやった。

 蒸気と煤煙にまみれた都市の景色が広がっている。


「次は“帝都中央大鉄空臨港駅” “帝都中央大鉄空臨港駅” です。右側のお出口が開きます。扉付近のお客様は、開く蒸気ドアーにお気をつけください」


 大きな荷物を持った乗客が一斉に降りていく。

 車内はだいぶ空いてきたが、車内は相変わらず煙でくすんでいた。


 先程の停車駅からだいぶ進んだだろうか、ハルミは突如声をかけられて驚いた。


「検札です。ご協力ください」


 濃いエンジ色の制服を着込み、深く被った制帽に指をかけながら車掌がハルミを見つめていた。


「けっ……ケーサツ?!」

 聞き間違いなのだが、ハルミの頭の中では、グルグルとこれまでしでかした様々な不法行為が思い起こされていた。


「やっ、や、ヤバい……ケーサツだ」


ハルミは反射的にシートの下へタバコを隠した。


「いや待って。今日なんもしてないし」


一秒後。


「いや、してるかも」


二秒後。


「あれ? してない?」


三秒後。


「分かんない! とりま逃げよ!」


 サッとタバコとライターを引っ掴むと、車掌の脇を抜けて走り出す。


「待ちなさい!」


 しかし、目覚めの一服を終えたばかりのハルミの動作は緩慢で、たやすく車掌に腕を掴まれてしまった。


「何があったか知りませんが、ケーサツではなく、検札です。切符を拝見いたします」


 車掌はハルミが脱走を試みたことを咎めず、落ち着いた声で丁寧に話した。


「えーっと、切符?」

 思い出せないのだ。

 少しヤニが回ってクラクラする頭を振ってみたところで、切符など買った覚えがないのだった。

 もしかすると、これまでの生涯で、一度も買ったことがないかも知れない。

「あ、あの……あ、そうだ、イコカ無くしちゃって……」

 ハルミは緊張で泣きそうになるのを堪えながら言った。

「イコカ? なんですかそれ」

 怪訝そうにハルミを見つめる車掌。


「えっと……もしかしたら、カードじゃなくてスマホの方のイコカかもしれなくて……でもスマホも無いんです」

 すがるように見つめるハルミを警戒しながら車掌が言った。


「なんですかそのスマホというのは、とにかく切符をお持ちでは無いのですね? この場でお支払いいただければ、こちらで発券できますので、どちらまでおいでですか?」


「おいで……? あ、いや……切符っていうか、スマホが無いんです。お財布もなくて」


「駅に入られた時にはあったのですか?」

「あった……んじゃ無いですか? 無かったら入れないと思うので」


 回らない頭で色々と考えを巡らすハルミ。

 なんとかしてこのケーサツから逃げなければならないのだ。


「もしかして、車内でスられたということですか?」

「スリがいるんですか?」

「はい特別警戒中です」


「……じゃぁソレです」

 ハルミは車掌の言葉に一縷の望みを見出していた。


「わかりました。調書を取りますので、駅に着きましたらご同行ください」


「えーっ?! 最悪ー! やっぱケーサツだった……」


「次は“帝国鐵道総省帝都中央大起点駅” “帝国鐵道総省帝都中央大起点駅” 終点です。両側のお出口が開きます。扉付近のお客様は、開く蒸気ドアーにお気をつけください。“帝国鐵道総省帝都中央大起点駅” 終点です」


 蒸気が立ち込め、ツヤツヤと黒光りするプラットホームに、車掌に付き添われたハルミが降りてくる。

 すでに連絡を受けていたのであろう、長い外套を着込んだ駅員が数名待ち構えていた。


「えーん、なんかケーサツの人増えてるし……えっ? どこにつれていく気なんですか? あの……あの……帰りたいんですけど」


 すがるようなハルミの声は、駅を包む巨大な鉄骨ドームに虚しく吸い込まれていく。


 見上げるほどに巨大な黒い蒸気機関車たちが、櫛形に並んだホームの奥で、まるで獲物を睨むように激しい白煙を吹き上げていた。

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