第32話:射線に入る覚悟
「まず初めに申し上げたいのは」
警備局付警務局監察官ナナサマを前に、オレのプレゼンが始まった。
「本作戦の目的は、破壊、制圧ではなく、突入部隊を守ることにあります」
「ほぅ……」
ナナサマさんが小さく呟いた。
「ディファレンス・エンジン破壊目的で流されているこの音波プログラム、その発信元である拡声器塔を破壊し、敵組織の手段を封じます。
これが彼らにとっての“最後の砦”になることを防ぐところに、本作戦の意義があります」
オレは一息を入れ、さらに続けた。
「守るべき物のない戦いへ導くことで、いわゆる窮鼠猫を噛むかのような、必死の抵抗を防げるのではないか、ということです」
ぎしっと、ナナサマさんの椅子が軋む音がした。
「作戦の意義は理解した。だが我々にはそれを実行する術がない……そうだな?」
「はっ、はい。そうであります」
急に話を振られたホッチャンが、直立不動の姿勢で答えた。
「その通りです。そこで民間徴用のご許可をいただきたいのです」
オレの言葉に、ナナサマの顔色が変わった。
「それは、この現場に民間人を投入する危険性を考慮しての発言か?」
「…………っ」
このナナサマの反論に、オレは即答することができなかった。
「クレーン車のような目立つ重機を投入すれば、それだけで目立つ。目立つということは、犯人たちの射線に晒されるということだ」
ナナサマはさらに続けた。
「問題は重機ではない。誰を射線に立たせるかだ」
ナナサマの指摘はその通りだった。
オレは現代知識を軍師気取りで披露したに過ぎなかった。
あの浅間山荘の現場にも、そのリスクを取った人がいた。
そのリスクを承知で命令を下した人がいた。
現場は作戦図面上の問題ではなかった。
「た、タクミさん……」
ホッチャンが青い顔でこちらを見つめている。
それを見返すオレも、おそらく青い顔をしていたことだろう。
つまりそれは、このプレゼンの失敗を意味していたのだ。
冷や汗が背中を伝う。
目の前には監察官ナナサマ。
そして、この場にオレたちを繋いでくれた数々の中間管理職の人々。走り回ってくれたホッチャン……
オレの軍師ごっこに付き合わせてしまった、様々な人々。
視界がグラグラして、目の前の画面に表示された情報も頭に入って来ない。
と、その時だった。
「失礼します」
治安維持局の局員が、天幕を少し開けて顔を出した。
「よろしいでしょうか……」
全員の視線を浴びてたじろぐ局員だったが、気を取り直して探り探り口を開いた。
「あの……この者たちが」
治安維持局員に連れられ、二人の男が天幕の中へ入ってきた。
緊迫した作戦本部に場違いな風貌の男たち。
この顔、どこか見覚えがあるような。
「くぁwせdrftgyふじこlp、はっはっは」
開口一番発せられた男の言葉を、オレは理解できなかった。出来なかったが、聞き覚えはあった。
「おいおい、聞こえたぞ、クレーンにモンケンだと?
そんな古いやり方……
オレたちじゃねぇと出来ねえぞ」
そう、お掃除ロボットと大麻草を運んでいたあの二人だった。
「あ、あなたたちは?!」
「へへっ、あの後、怖いねーちゃんから引き継いだ治安維持局のにーちゃんが来てよ。召集がかかってっから、テートにも戻れず、仕方なくここへ連れて来られたってわけだ」
そう言って、男はニカっと笑った。
「くぁwせdr……ふじこ」
「そうだな、ははっ。そうだそうだ。
オレたちがその天幕のそばを通りかかった時に、クレーンだモンケンだと言ってたからな、そんな古いやり方、今時のヤツらにゃ出来ねえ仕事だつって言ってやったんだ。
しかもこの穴掘り屋の村じゃ誰もいねぇってな」
そう言うと男たちは豪快に笑った。
「そう言うわけで……」
治安維持局員の男が、制帽の縁に手をかけて言った。
「この者たちですが、住所不定の自称解体業、モンジとケンワースと名乗っています。小官は異界来訪者監理室のユカリンさんから公務執行妨害と大麻取締法違反で引き継ぎまして」
「モンケンで解体なんざ、今時誰にも用が無いのさ。モンケン解体一筋で名を馳せたオレたちモンケンブラザーズが、今じゃこのザマってわけだ。
おい、にーちゃん。良かったら、その話聞かせてくれねぇか?」
「わかりました……えっと」
資料を巻き戻しながら、チラッとナナサマの様子を伺う。
その意を汲んでか、ナナサマは「続けろ」と言った。
「では、説明を続けさせていただきます……」
そう言って、オレは、鉄球つまりモンケンで巨大拡声器を破壊する意図と、運用について説明した。
「なるほど……クレーンでモンケンを振り回して、あのデッカい拡声器をぶっ壊せばいいんだな」
モンジが言った。
「はい。ただ、建物の中には機動隊がすでに突入しています。彼らに注意を払って、拡声器だけをこの角度、この方向でモンケンをぶつけていただきたいのです。出来ますか?」
オレの説明を聞いて、モンジとケンワースが何言か言葉を交わした。
「はっはっは、こちとらな、にーちゃんが生まれる前からモンケンぶん回してんだ。それくらい路地裏のビルぶっ壊すより簡単だってんだ。なぁ兄弟」
「くぁwせdくぁwせd……だっはっはっは!」
二人の目は職人の輝きを取り戻していた。
「しかし、事前にお伝えしなければならないことがあります……」
「なんだ?」
一呼吸おいて、それを伝えるための整理をつける必要があった。
「重機は……必ず犯人からの射線に晒されます……オペレーターは……生命の危険が、あります」
言い終わって、オレは手にびっしりと汗をかいていることに気が付いた。
「なるほどなぁ」
モンジがそう呟いた。
「ちょっと一服いいか?」
モンジの言葉に、治安維持局の若い局員が立ち上がったのを、ナナサマさんが制した。
「へへ、心配すんなって、変な草じゃねぇよ……」
そう言って、局員を苦笑いさせると、ラークに火をつけた。
モンジは、ふぅ、と深く煙を吐いた。
ラークを挟んだ指で頭を掻いて、もう一度周囲を見渡す。
「まぁ、にーちゃんが行けとは言えんだろうし……そこの偉いさんも、まぁそういう権限はない」
モンジが一口吸うと、ボウっと火口が明るくなった。
「下げる頭はあるだろうが……まぁオレだってそうして欲しい訳じゃねぇ」
モンジはフィルター付近まで吸い切ってから、地面で吸い殻を揉み消した。
「志願するぜ、このモンケンブラザーズが、本物の解体ってやつを見せてやらぁ……なぁ、兄弟」
「くぁwせdrftgyふじこlpー!」




