第31話:ぶち破れ!役所の壁
オレたちはユカリンの所属する治安維持局から、盾を支給され、現場へと赴くこととなった。
「ユカリンさん、マジでこの子らと行くんすか? それならワタシの方が良くないっすか!」
オレたちに盾を渡しながら、少し上背のある女性局員が言った。
「ダメじゃ。ホッチャンは誰かれ構わず撃ちまくるじゃろうが。ほじゃけ、突撃隊から外されたんじゃ。
銃後の守りも大事な仕事なんじゃけ、な!」
ホッチャンと呼ばれた女性局員は、ユカリンに諭され、不承不承、出撃を思いとどめた。
「おい、オオトモ。お前がいて、ユカリンさんになんかあったら、司法が許しても、アタシが許さんけんな!
……ホレ盾じゃ、いっぱい暴れて来いや」
不機嫌そうにオオトモを見上げながら、ホッチャンが盾を突き出した。
「大丈夫っす。ホッチャンさんの分も暴れてやりますから」
オオトモは、そう言って盾を受け取った。
「……頼んだぞ」
「おいそこのデカいの、盾持ってけ」
ジュリアとハルミに手渡しながらも、納得はいかないようで、
「なんでこんな素人が作戦に参加できて、アタシがバックスなんだよ」
苦笑いで盾を受け取って、二人は小声で言葉を交わした。
「まぁ、そういうトコだろうね」
「たぶんね。まぁああいうタイプも適材適所なんだろうけど……」
ジュリアはそう言いながら、盾とヘルメットを装着していった。
「あの……ちょっと良いっすか」
オレは気になっていた事をユカリンに話した。
「この状況なんですけど、オレ、すごく既視感があって」
「この修羅場をか?」
「もちろん体験したわけではないんですが……これ見てください」
オレが展開した【図書カード】の画面をユカリンたちが覗き込む。
そこには厳冬の山荘を、巨大な鉄球が建物に大穴を穿つ写真が映し出されていた。
「『浅間山荘事件』っていうんですけど、テロリストが占拠した建物を、こうクレーン車を使って、破壊するんです。もちろん警察の機動隊が突入するわけですけど、
今回の音波によるハッキング、つまり遠隔地からの破壊操作なら、あの巨大な拡声器を使えなくするのはどうでしょうか」
ユカリンがチラッとオレを見た。
「ええかもしらんが……ここでは許可が出せん。
ほうじゃ、ホッチャン! 出番で!」
「えっ!? あっ、自分っすか?」
後ろに控えていたホッチャンがびっくりした声を上げた。
「そこのタクミと組んで、許可取り行って来い。
装備課の本気見せちゃれぃ!」
「はい! 任せてください! 頑張るっす!」
ホッチャンが直立で敬礼するのを見やり、ユカリンは振り返った。
「じゃ、ワタシらぁは、突入して犯人ぶち回しに行こかいの!」
おー! っと勇ましく、ギャルとオオトモが声を上げた。
「みんな、怪我なく、無事で!」
「おう!」
とユカリンがサムズアップして答えた。
「タクミも頑張んなよ」
ハルミが背中を叩いた。
「流れ弾に当たんないでね」
ジュリアが縁起でもない事を言った。
◇◇◇
「さてと……」
オレとホッチャンの即席チームが誕生した。
ユカリンがホッチャンの上司に執りなしてくれたおかげで、まずはこのホッチャンとある程度自由に動けるようになったのだ。
だが……なんとなく初対面の人と二人きりというのは緊張するというか、なんというか。
「ホッチャンさんとか、ユカリンさんとか、可愛いお名前ですよね」
「そっすか? 赤ちゃんから死にかけの婆さんまで、ありふれた名前っすよ」
そうなんだ。ニックネームとかでは無いのか。
「例えば、オオトモさんとか、下の名前はアイチャンとかそういう感じだったりするんですか?」
「えっ……あぁ、青砥さんは転生者っすもんね。名前の感覚も違うかもですよね。オオトモはオオトモっていう名前っすよ」
苗字じゃないんだ……
「結構被っちゃったりしません?」
「被ったら、なんか問題あるんすか」
まぁ、紛らわしい。程度かな。
「名前の話題ついでっすけど、青砥さんは何て呼ばれてんすか?」
「タクミかな」
「オッケーっす! じゃぁ改めてよろしくっす、タクミさん」
ホッチャンが拳を突き出したので、オレも拳を当ててみた。ホッチャンはニカっと笑ったが、なんかこういうテンション恥ずかしい……ははっ、に、ニコっ。
ともあれ、オレたちは鉄球作戦を決行せねばならないのだ。
必要な資材と人員を確保しなければならないわけで……
「クレーン車と鉄球っすか……治安維持局にはそういう装備は無いっすね」
ですよね……。
あるとすれば、建設省やそれに相当する部署、あるいは民間業者ということになる。
「そうなると、手配が必要になるな……」
「その場合、上層部の許可取りも必要になるっす。あと省庁の垣根を超えるとなると、課長級のやり取りも必要かもです」
課長級というのが、民間企業でいうところの課長職では無いことは、なんとなくわかる。つまりオオゴトだということだ。
「課長級……気が遠くなりますね……ちなみに、こちらには?」
「どうっすかね、テートシティの本庁舎じゃないですか」
「やっぱり」
オレとホッチャンが顔を見合わせても嘆息しか出なかった。
「自分、ちょっと班長に緊急で掛け合ってみます」
そう言ってホッチャンが席を立つ。
現場はすでに加熱状態だ。
これから許可取りで、縦割り行政に横串を刺すとなると、許可取りを待っている間に、破壊プログラムが終奏してしまうだろう。
「タクミさん、タクミさん! 今回デカいヤマなんで、本部からヘッドが来てるらしいっす!」
ホッチャンが駆け足で戻るやいなや、興奮気味に話した。
「ヘッドっていうのは、ヘッドっていうくらいだから」
「はい、エラいっす! 普段はお見かけすることはないっすからね」
ホッチャンの様子から、かなりの権限を有する役職者が派遣されているようだ。
「その、ヘッドに取り次いでもらえるだろうか」
「正直わかんないっすけど、班長を通じて上に上げてもらいましょう。やってみなくちゃわかんないっすから!」
ホッチャンが局の上層部に向かっている間、オレは簡潔に情報を伝えられるよう【図書カード】から、必要な資料の選定と、順番を並び替える用意を進めることにした。
さすが昭和史に残る大事件である。
探せばいくらでも資料に行き当たった。
中でも当時の現場指揮をとっていた人物による小説は、作戦の組み立て、協力要請、補償、実行、処理に至るまで、細かに記されており、本作戦のプレゼンの基礎となった。
何度も重要箇所を読み返しているうちに、ホッチャンが帰ってきた。
「う、ウチの班長から上に行って、さらに上に行ったみたいで、なんとか上げてもらえました。
たぶん大丈夫です、話は通してもらえたっぽいので、このままヘッドの所に向かいましょう」
「わかった。ありがとう」
「あ、あったり前っすよ! チーム装備課で頑張りましょう!」
慌ただしく人が行き交う中を縫うように、オレたちは走った。
「ここっす。ヘッドの本部です」
発電用の蒸気機関が、煙と蒸気を吐き出している奥に、急ごしらえの天幕が張ってあった。
「失礼します! 装備課のホッチャンであります!」
ホッチャンが天幕の前でデカい声で名乗った。
「あ、入国管理局異世界転生者対策班嘱託の青砥と言います」
オレも恐る恐る、所属を伝える。
「治安維持局、警備局付警務局監察官 ナナサマだ。
よろしく」
騒然とした現場によく通る声で、彼女はそう告げた。
厳めしい肩書きとは裏腹に、椅子から立ち上がったのは、小柄な女性であった。
治安維持局には変わった名前の職員しかいないのだろうか。というオレの疑問は置いておいて、この目の前の人物が、この作戦の鍵を握っているのだ。
「そちらのマル転、失礼。転生者さんが、大胆な作戦をお持ちだと聞いたが」
ナナサマが口を開き、プレゼンのチャンスをくれた。
「はい、早速ですが、こちらをご覧ください」
オレは天幕の壁面にスキル【図書カード】の画面を投影した。
「ほう、小型の幻灯機か……」
ナナサマが目を細めた。
「今回、私が提案させていただくのは、クレーンとモンケンを用いた、対象物の物理的破壊であります……」
緊張のプレゼンが、始まる。




