第33話:突入せよ!
「何これ……通りにくいって」
ホコリっぽい空気を手で払い、ハルミがボヤいた。
環境系テロリストのアジトは、その中に築かれたバリケードのせいで、容易に進むことが難しくなっている。
その上、彼女らが装備している二重の盾の大きさと重さを鑑みると、相当に機動力を削がれてしまうのだった。
「お前らがデカいから通りにくいんじゃろ」
先頭を進むユカリンが、余計なことを言った。
「大体は先に突入した機動隊が、露払いをしてくれとりゃぁええんじゃがの……
まぁ、ワタシらで、破壊プログラムを奪取、または破壊するんで」
現場は割れた窓ガラスや、壁のかけらなどが散乱し、ハルミとジュリアは、ブーツで来て良かったと思った。
確かに露払いができていれば良いのだが、この混戦とガレキである、どこから敵が飛び出してくるか、どこから狙われているかわかったものではない。
周囲に気を飛ばして、慎重に進む。
「あぁ〜……ヤニが切れてきた。息が切れちゃう〜」
ハルミがボヤくので、
「……いや、それなんか逆じゃない?」
後ろからの襲撃を警戒しながら、しんがりを務めるジュリアが冷静なツッコミを返した。
「なんか、サバゲーみたいだね」
体勢を低く構えてハルミがつぶやく。
「やったことあんの?」
同じく低く構えたジュリアが問う。
「うん、ガルバのお客さんに誘われて、一回行ったんだよね」
「どうだったん?」
「……隠れながらヤニ補給でタバコふかしてたら、なんか渋い傭兵みたいって言われた」
「ウケる。センスあんじゃん、そいつ」
その時だった。
ドザァァァァァァァァァ……
それはバケツをひっくり返したという表現では足りないほどの水が、頭上から彼女らに降り注いだ。
「何これ〜」
ハルミが悲鳴に近い声を上げた。
全身すっかりズブ濡れである。
「放水が始まったんじゃ! 高圧の放水で、窓付近のヤツらの銃を撃てんようにしてから、ぶち倒するためにの……作戦通り、ええがいに進んどるわい。」
笑みを浮かべたユカリンもまた、ズブ濡れであるが、そんなことは意にも介さない様子で、傾いだ扉を蹴破っていく。
「えぇ〜、ウチらも行かなきゃダメ?
……これじゃメイク取れちゃうって〜」
頭の先からびしょ濡れのハルミのつけまつ毛が取れかかっていた。
「まて……」
ユカリンが手をあげて進行を制した。
「あそこじゃ……ほれ、あそこ。無造作を装っとるようじゃが、他のゴミやバリケードとは違う」
ハルミは目をすがめて見たが、違いは分からなかった。
「盾だけは、しっかり持っとれよ……チャカやったらシャレにならんけぇ……」
三人はやけに静かに感じる喧騒の中を、ゆっくりと進む。
その時、
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!」
鉄パイプを振りかざした男が物陰から躍り出た。
「ヒッッッ?!」
ハルミが反射的に二重盾でその攻撃を受け止めた。
ガンっ! っと軽めの金属を打つ音が響く。
「手ぇ痛ぁぁぁっ!」
盾の持ち手に伝わる衝撃にハルミが泣き言を言う。
「テメェ、危ねぇだろがぁぁぁぁぁぁ!」
ジュリアが、二重盾をフルスイングして、暴漢の側頭部に叩き込んだ。
鼻血を噴きながら、糸の切れた操り人形よろしく、脇のガレキに突っ込んだ。
「あー、怖かった〜♡」
ジュリアが柄にもなく“きゃろるん”っとした表情で微笑んで見せた。
「ええスイングじゃったのぉ! 赤ヘル軍団からスカウトされるかもしれん」
ユカリンが、ご機嫌に特殊警棒を振って見せた。
「とはいえ、なんも無さそうなトコに人を置くっちゅうことは……この奥がニオウのぉ」
ユカリンが積まれたコンテナを蹴り飛ばした。
音を立てて崩れるコンテナの数々。
「なんか出てきた……扉?」
舞い上がる埃に目を細めて、ハルミが言った。
崩れたコンテナの先に、丁寧にもハシゴを組んで行く手を阻むようなバリケードが組まれていた。
「なんか、行かせたくないっていう意思を感じるわね」
ジュリアが背の低い扉を見下ろしてつぶやく。
三人で協力しながらハシゴを放り投げると、安普請の木戸が姿を現した。
「これなら蹴ったら壊せるかも?」
ハルミがヤクザキックの構えを見せると、ユカリンが言った。
「それこそワナかも知れん……蹴破った先に何がおるか……」
「わかった」
そう言うと、ハルミは二重盾で木戸をぶっ叩いた。
ズドン!
野太い銃声が響いて、木戸が蜂の巣になった。
扉前に突撃隊を認めて散弾銃を撃ってきたのだ。
「ひいぃぃぃっ!」
ハルミは恐怖で叫んだが、身体はそれより早く反応したようだ。
ドガっ!
ハルミは盾を構えたまま突進し、次の瞬間には扉奥の散弾銃射手の腹に、重たい厚底ブーツのヤクザキックを叩き込んでいた。
げぇぇぇぇぇぇ……
腹にめり込むほどの蹴りをくらった散弾銃男が、吐瀉物をぶち撒けて昏倒する。
「汚っ! このやろっ!」
汚物に汚されたハルミが、怒りの追撃を倒れた男の頬をトゥキックで蹴り上げた。
「こりゃしばらくは再起不能じゃろうの……」
ユカリンが、伸びた男の頬を叩きながら、さりげなく散弾と散弾銃を奪い取った。
「倒した敵は、アイテムを落としょーるけぇ」
悪い笑みを浮かべて、ユカリンは散弾を制服のポケットに捩じ込んだ。
目の前には狭い階段が続いている。
厳重な隠し扉に、門番が二人。
よほど守りたいものがあるに違いない。
「ユカリンさん、ここにおいででしたか!」
背後から戦場に不釣り合いな鈴の音のような声がした。
「なんか?!」
ユカリンが応じる。
「はい、警備局付通信班のチャンユイであります!」
小柄でクリっとした目の少女がユカリンと似た制服を着込んで敬礼をしていた。
「放水作戦に合わせる形で、大鉄球による大拡声器破壊作戦が決行されます」
「鉄球?」
ユカリンの顔色が変わった。
「はい、解体用の大鉄球で拡声器塔ごと破壊するとのことです」
「中に隊員が入っとるんぞ」
チビっ子二人の絵面に似合わぬ会話である。
しかしここは今も絶えず変化している現場なのだ。
情報の齟齬はすなわち命に関わる。
「それに、破壊プログラムはどうするんじゃ?」
「おっしゃる通りですが、今は一刻も早く、プログラムの演奏を止めることが優先との判断です」
「ワタシらが捜査を諦めたら、そりゃ軍隊じゃろが」
ユカリンが苦々しく呟いたが、その意見を具申するには、チャンユイをもう一度本部に走らせるしか方法がなく、そんな時間もなければ、ただ彼女を危険に晒すだけになってしまう。
「……わかった」
「それでは鉄球作戦前には、サイレンを鳴らしますので、建物から退避してください。以上です」
チャンユイが敬礼をするので、ユカリンも不承不承ながら返礼した。
「こりゃ、どえらいことになったで……」




