第29話:終末のラッパが鳴る空
「あうぅ……うぐぇぁ……」
「あっああぁっ……くぁwswdrftg……」
ギャル二人の、蹴り(ハイキックとヤクザキック)をそれぞれくらって、うずくまった男たちに、ユカリンが手錠をかけて回っていた。
今回のことで、オレはあの二人についてわかった事がある。
『強そう』ではなく『強い』と言うことだ。
「ご苦労さんじゃったの」
ユカリンがギャル二人に向き合った。
「アイツらも、懲りとるじゃろの。女に舐めた態度を取った罰じゃ」
「しかし二人が、こがーに喧嘩が強いとはの」
ユカリンが、ハルミとジュリアを見上げた。
「まぁ、なんて言うか……“色んな”バイトしてたし〜」
ジュリアが含みを持たせた答え方をすると、
「繁華街でばっかり、バイトしてたしね」
と、ハルミが真実の外縁部をなぞる程度の答えをボソっと付け足した。
「それに、ウチらが出てかないと。ユカリン、その人たちのことぶっ殺しちゃうんじゃないかと思って」
ハルミが言葉を選ばずに言う。
「ワタシも治安維持局の人間じゃぁ、ポンポン虫ケラ殺すみたいに、ヒトは殺しゃーせんよ」
そう言ってヒトの悪い顔で笑った。
「まぁ、一生後悔するようなトコを、吹っ飛ばすかもしれんがの」
ユカリンは、それはもう眩しいくらいの笑顔で言った。
しかしユカリンが言ったので、全然笑えなかった。
◇◇◇
「さて、コイツらに尋も……取り調べをせにゃいけんの」
手の警棒をペチペチと弄びながら、ユカリンが笑った。
「また怖いことしようとしてる〜」
ハルミが呆れた声を上げる。
「こういう人には、じーーーーーーっくりと、関係性を深めていけば、教えてくれるわよね」
ジュリアが男たちと距離を詰めながら言う。
男たちが全く身動きが取れないのを確認すると、ジュリアはそっと彼らに身を寄せた。
「キミたちは……何してたのかな?」
はるかに上空から見下ろされた男たちは、震えながらも、口を割らないという意思を見せた。
「正直に話してくれたら、みんな幸せになれると思うんだけど」
男たちの目の色が少し変わった。
「頑張り屋さんだね」
言葉が通じる方の男にそっと触れる。
顔を真っ赤に染めながらイヤイヤをするように目をつぶる男。
「ふーん、良いね。ねぇ……キミ、お仕事できる方って言われない?」
ジュリアが脚で男にそっと触れる。
「くぁwせdrftgyふじこlpー! くぁwせdrftg!」
すると、突然言葉が通じない方の男が喚き始めた。
「なんて言ってるんですか?」
オレがユカリンに尋ねると、
「……スタイル抜群の女神よ、その男はダメです。私はなんでも話しますから、私とお話ししましょう……だとよ」
ユカリンはそう言うと、いつものジト目より一層軽蔑の眼差しで、その男を睨んでいた。
あら〜。なんと欲望に忠実なヤツ。
「そっか……良いよ。キミは……言うことを”聞きたい“方って顔してるわね」
ジュリアがもう一方の男の胸の辺りを、ピンっと弾くと、男は情けない顔を晒しながら、何度も頷いた。
コレが言語を超えたコミュニケーションというヤツか。
ちょっと違う気もするが。
「ごめんね、痛かった? ……それとも痛くされたかった?」
声を掛けながら、優しく男の頭を胸に抱いた。
「おっ……おい! じゃない……あの〜、銀髪のお姉さん。そいつよりボクの方が色々詳しいですよ。なんか今日はボク口が軽い気がしますしお寿司」
横目で言葉が通じない方の男が優しくされているのを見かねた男が、見事なおじさん構文でジュリアの気を引こうとし始めた。
「ウチら、別に、あんたたちをどうにかしたいわけじゃないんだよね。大事なものを探してるんだけど、もしかしてソレ、お掃除ロボットに入ってたりする?」
ハルミが謎言語の男の方にゆっくり話しかけた。
「くぁwせdrftgyふじこlp……ふじこ」
「ねぇ? なんて言ってるの?」
ハルミがユカリンに尋ねると、
「女神が全然振り向かないけど、こっちのねーちゃんでも良っか……じゃとよ」
「なんだとコラぁ!」
ハルミが男の頬をギュッとつねり上げた。
「おうっ……」
意外とまんざらでも無いらしい。
「じゃぁ、お話ししよっか。ちゃんとお話しできたらうれしいな。答えてくれなかったら、また蹴っちゃうかも……」
話のわかる男がうんうんと頷くので、ジュリアがキチンと言い含める。
「わざと蹴られたいってのは無しね。ソレしちゃうと、あっちの怖いちびっ子が我慢できないって……発射」
男がちらりとユカリンを見る。
事態を察したユカリンが怖い顔で男を睨み付けた。
「ワタシたち、今日で永遠のお別れになるのって、寂しいじゃん」
そう言ってジュリアが、頬をペチペチと叩くと、男は涙目になって答えた。
「オレたちは、お掃除ロボットを回収してこいって言われたんだ。場所は指定されている……そう、お掃除ロボは担当区域を超えないからな。
中に何か入ってる? さぁ、そこまでは知らねぇ……回収したら、タンコー村のヤードまで持って行くんだ。トラックもそこで借りた」
男はそこまでを一気にまくしたてた。
「雇い主か? 環境保護団体だ……街の美化に関する調査だとか」
「他にチームがいるな」
ユカリンが割って入った。
「そうだ……オレたち以外にも、回収チームはいる。面識は無いが……」
「なんで逃げちゃったの?」
ハルミが単刀直入に質問した。
「あ、いや……反射的に」
男が口ごもる。
女性陣が男たちを詰めているので、オレは荷台のロボットを調べる事にした。
ロボットといっても、カバーが外されると“機械”という感じがする。
しかしどうやって集塵部を外すんだ……?
ふと見ると、原始的なホウキのように枯れた植物が束ねてあった。
「あ、コレはホコリ取りかな……」
するとオレの手元の【図書カード】がボウっと光った。
「調べてみるか」
半ば図書カードに促されるように、オレは【図書カード】を起動する。
そこに現れたのは、天狗が持っている八手のうちわのような細い葉っぱ。
「コレと一緒かぁ……って、コレ、た、大麻じゃ無いですか?!」
取り調べ中の男が、ギクリとオレの方を見る。
「こりゃ、色々と聞かにゃいけんもんが増えてしもぉたのぉ……」
ユカリンが警棒を肩に担いで、男たちに詰め寄った。
なるほど。
この男たちは、ロボットの回収は片手間で、他に本業があるらしかった。
コレは重大事件である。
観念したように俯く男たちの背後から、赤い光が幾筋も差し込んだ。
ユカリンがそれに気づいて振り向いた。
「んっ? 治安維持局の応援かの?! こんな大麻取締法違反程度に大袈裟じゃのぉ」
ユカリンが笑ったが、その数は想像をはるかに超えていて、法務省の車もチラホラと混じっていた。
何かがおかしい。
何がおかしいかはわからない。
だが、おかしいことが起こっているのだという不安だけは確かなものだった。
その赤色灯の群れはずっと遠くまで続いていて、蛇のように進んでくる。
《至急、本部より各車。タンコー村へ急行されたし》
ユカリンの小型警ら車から、くぐもった声が漏れ聞こえた。
《ディファレンス・エンジン破壊プログラムの奪還に向け、各自急行されたし。急行ポイントは各車で確認》
「お前ら、コイツらは後回しじゃ、乗れ!」
ユカリンが急いで蒸気車の圧力レバーを引いた。
ピーガガガガガガ……ピーガー……ビンビビン……
低く垂れ込めた雲を破るほどの大音量で、奇妙な機械音が鳴り響いた。
聞いたことはないのだが、
もし、『終末のラッパ』が鳴ったとしたら、こういう音なのだろうと、オレは本能的に理解した。




