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剣も魔法もない異世界でギャルと帝都を歩く  作者: 如何那


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第27話:停車命令の時間じゃぁ!

 ドガっと音がして、オレはまた天井に頭をぶつけた。

 もう何度目かわからない。


「ちょっとユカリンさん。マジで運転荒いですって! 

 もうちょっと安全運転してくださいよ」


 小型の蒸気警ら車の後部座席は、完全に人権を失った密室と化していた。


 オレとハルミの二人が密着してやっと座れる程度のスペース。

 意外にもハルミは身長が170センチ近くあるデカいギャルなので、オレたちが二人で並ぶと、肩から腕、腿から膝にかけて、隙間なくびっしりと互いの体が密着してしまう。


 さらに先程から、車酔いで具合の悪くなったハルミが、抱きつくようにオレの首から肩へ、長い腕を回し、頭を胸に押し付けるようにして体勢を保っている。


(……近い。近すぎるだろ、これ)


 隣から漂ってくるのは、ハルミの髪に染み付いた紫煙のニオイと、彼女自身のあたたかい体温。

 オレはただ必死に正面のダッシュボードを見つめる地蔵と化すのが精一杯だった。


 すでに頭の中は真っ白だ。

 心臓が跳ねすぎて、肋骨の内側を殴っているみたいに痛い。


「は……ハルミ……さん!?」


「……ん、こうすると、頭が固定されて……すごくラクだから……このままいさせて」


 胸元から、くぐもった声が聞こえた。ハルミの指先が俺のシャツをきゅっと握る。


「こういうの、慣れてる感じっすか」


 オレが思わずそう漏らすと、ハルミがわずかに顔を上げた。

 青白い顔のまま、口の端だけで笑う。


「あー……こんなの、彼氏とかにしか、しないって」

 そう言って、

「……タクミは、不慣れっていう顔してる」

 と、余計な一言を加えた。


「……悪かったですね」


「別に。……あ、そうだ。タクミってさ」


 ハルミが、少し息を整えるように間を置いた。


「彼女とか、いたことあるの?」


「は? な、なんなんすか、今する質問ですか?」

 暑くもないのに、汗が噴き出した。


「いいじゃん、答えて。気になっただけだし」


「い、いないです……いたこと……ないっていうか」


「ふぅん」


 短い相槌なのに、なぜか満足そうな響きが混じっていた気がした。

 ハルミの指先が、オレのシャツの裾をつまんで、意味もなく引っ張ったり離したりする。

 子供が退屈しのぎにする仕草にも見えるし、何かを確かめているようにも見えた。


「タクミってさ、全然手出してこないよね」


「あ、当たり前じゃないですか! ぐ、具合悪いんですよね?!」


(……ほんと不器用だね)

 ハルミはタクミの胸に顔を埋めたまま、小さく小さくつぶやいた。


 抱きつかれただけで固まって。

 こっちが具合悪いのに変な気まで遣って。


 でも。


 やっぱ、そういうとこなんだよなぁ。

 そう思って、ハルミはそっと目を閉じた。

 

 車の揺れに合わせて、二人の体がまた小さく密着する。

 オレは体を硬くして、揺れからハルミを支えつつ、己の頭がぶつからないか気にしていた。

 ハルミは何も言わず、揺れる車内でタクミの服を少しだけ強く掴んだ。


「いっつも、じゃかぁしぃハルミが、ずいぶん静かじゃないの? しおらしゅーすることにしたんかいの?」


 バックミラー越しに、ユカリンの声が響く。


「……大丈夫じゃないです。マジで目的地まで安全運転で頼みます……」


 オレは真っ赤になっているであろう顔を悟られないようにしてハルミの代わりに答えた。


 オレはただ、ハルミの体温と煙草の匂いに耐え続けることしかできなかった。


 ◇◇◇


 カシャ!


「いいじゃん、キレぇ……」

 ジュリアのスマホから写真を撮る音がして、そのレンズの方向に目を向けた。


 クルマは都市部を離れて、郊外へ続く道に差し掛かっていた。

 帝都を覆う煤煙は薄くなり、景色らしい景色が目に入るようになってきた。

 ジュリアのレンズが向けれらたのは、遠く高くそびえ立つ、山々の姿だった。


「ああいう自然が好きなんか」

 ユカリンが、ジュリアに聞いた。


「そうだね。キレイなものはなんでも好きだよ」


 カシャ!


 そう言い終わるが早いか、ジュリアはスマホで運転するユカリンの横顔を撮影した。


「な、何しとんじゃ?!」

 驚くユカリンにジュリアが答える。

 

「何って、アンタの真剣な表情がキレイだなって思って……ふと、ね」


「お、おべんちゃら使ぉても、なんも出りゃぁせんで」

 強い口調は照れ隠しだろう。

 ステアリングを握るユカリンは、ちょっとうれしそうだった。


 やがてのどかな風景に、鉄でできた構造物が混じるようになってきた。

 大きな鉄塔に滑車がついている。巻き上げ機だろうか。

 大地から突き出た構造物は、換気口の類だろう。


 オレたちはいよいよ炭鉱に近づきつつあるのだ。


「えーっと、ユカリンさん」

 助手席のジュリアがユカリンに声をかけた。


「あれって、あの鉱山のトラックじゃない?」

「どれかいの?」

 目をすがめるユカリン。


「ちょっと望遠で撮るね…… 」

 ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト……

 小型警ら車が小刻みに揺れながら進む。


「ねぇ、急いでるとこ悪いんだけど、写真撮るから、ちょっとゆっくりにできる?」


「お、あぁ、すまんの」

 トコトコトコトコ……

 ユカリンがレバーを操作すると、車速が緩やかに、乗り心地がだいぶマシになってきた。


「あ、いいかも……そのままね〜」


 カシャ!


「撮れた……」

 ジュリアがトラックの写真を、ピンチアウトで、さらに拡大して見せた。


「ほら、コレ、どう?」


 オレも後部座席から精一杯首を伸ばしてスマホの画面を覗く。

 小さな画面の中には、見覚えのある背が低くて丸っこいトラックが映っていた。


「確かに、蒸気発電機を載せとる……しかもコレは、お掃除ロボットじゃろか……カバーが外してあるみたいじゃの」


 田舎道をトコトコと、鈍足のトラックが進んでいる。


 カモフラージュのためか、鉱山で使う様々な機械を混載して、お掃除ロボットが目立たないようにしてあった。


 ユカリンがノッチを一段上げ、小型警ら車が火を噴いた。


「さて……ちゃんと停まってくれりゃぁ、ええがのぉ」

 

 拳銃を片手に握りしめて、ユカリンが不敵に笑った。

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