第26話:爆走!進路を北に取れ
プッシューーーーーッ!
ジョココココココココココココココ!
クルマがスピードを上げると、景色は横薙ぎに流れてゆくが、ユカリンが雑に扱うこの狭い蒸気警ら車は、縦にも大いに揺れるのだ。
ガコンっっっ!
大人四人が押し込まれた車内で、オレの尻は何度目かの跳ね上がりを食らった。
「いって!」
荒れた石畳を踏むたびに、サスペンションが悲鳴を上げる。
ガタピシ、プシュプシュ! と派手な音を立てながら健気にタイヤを転がしていく蒸気警ら車。
「左カーブじゃ、お前ら左に寄れぃ!」
ユカリンが大声で指示を飛ばす。
「は?」
「いいから寄れぇ! ボサっとしとったら横転してまうぞ!」
「はっ、はいぃぃぃぃぃ!」
オレたちは訳も分からず、狭い車内で左窓に体を寄せた。
ギュアキュキュキュキューーーーーーーーーッ!!
小型蒸気車がタイヤを鳴らしながら、タイトな左カーブをクリアしてゆく。
「右じゃーーー!」
ギキキキィィィィィィィッ!
後部座席のオレとハルミはもう、ぶつかったり、抱きついたり、こけつまろびつ、狭いスペースでコーナリング用の重りと化していた。
「うえええぇぇぇぇ、目が回るってぇぇぇぇ」
ハルミは頭をぶつけまいと、オレにしがみついたままである。
小型蒸気警ら車は、人をかき分け、狭い路地をかっ飛ばし、謎のトラックの行方を探す。
「こ、こんなに飛ばして追いつけるんですかー?」
ドライブレコーダーのヒヤリハット詰め合わせシーンだけ見ているかのようだ。
「知らん! 知らんが、走らんと追いつけまーが!」
そう言ってユカリンは、もう一段ノッチを上げた。
ボゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
聞いたこともない音を立てる蒸気警ら車。
流石に不安になったジュリアがサイドミラーを確認すると、煙と一緒に火花を噴いているのが見えた。
「やべーわ、ロック過ぎ」
「そろそろ右じゃけ、準備しんさいよ!」
オレたちは、ユカリンに言われるがまま重りとなって、右へ左へと、急なコーナーを無理矢理“曲げて”いく。
「トラック見つけたらどうするんですーーーっ?」
オレが叫ぶ。
「決まっとろーが」
ユカリンがルームミラー越しにニヤリと笑った。
「“まず”停車命令じゃ」
「あ、ちゃんと警察っぽい」
「止まらんかったらのぉ」
ユカリンは出力弁をさらにひねった。
小型蒸気警ら車が悲鳴に近い咆哮を上げる。
「ぶち回してでも止めるんじゃ!」
◇◇◇
ユカリンが運転する警ら車は、サイレンを鳴らしながら、あらゆるものを蹴散らすように走っている。
「ユカリンさん! 目星はついてるんですか?! トラックなんていくらでもいますよね」
後部座席からオレが声を上げる。
「ちゃんとお前らが、証拠を撮っとったじゃろ」
ユカリンがジュリアをチラッと見やった。
「ありゃ、蒸気機関で発電して、電気で走るトラックじゃ。 トルクはあるが、スピードは出りゃせん」
「なんか、役に立つんですか? そんなトラック」
トルクが強いということは、つまり車輪を回す力は強いということだ。トラックらしい性格だといえる。
しかし遅いらしい。そんなクセが強いトラック、何の役に立つんだろうか。
「よう見てみぃ。この背の低ぅて丸っこい独特の形。
しかもスチームエレクトリックトラックの場合、ほぼ間違いなく炭鉱の坑道用トラックじゃ」
ユカリンが話した特徴は、オレたちが見たトラックそのものと一致する。
「でも、炭鉱の……その坑道の中で使うと、“煙”……まずくないんですか?」
狭い坑道の中で使うために、背が低く作ってあるというのはわかる。
だが、石炭を焚いた煙はどうするのだろうか、狭い坑道とあれば、あっという間に煙が充満してしまう。
「たしかに……ワタシの撮ったヤツでも、煙出てるし」
ジュリアがスマホの写真を見ながら言った。
「それは発電機じゃ。坑道では別の線から電気貰ぉて走りよる。外じゃ自分で発電するんよ」
「意外と凝った作りのトラックなんですね?」
「そうじゃ。じゃけん、こんな特殊な車両を使う連中なんぞ限られとる」
「炭鉱関係者……ということですか?」
「こがーな特殊なトラックは鉱山でしか見よらん、
帝都じゃ滅多に見ん
見かけたら大抵、北の炭鉱行きじゃ」
ミラー越しに見えるユカリンが頼もしい笑みを浮かべてステアリングを握っていた。
「ふふっ、少なくとも行き先は見えてきたの」
小型蒸気車は一路北に進路を取った。
「あの……ごめん。気持ち悪いかも……」
ユカリンの無茶な運転で、ハルミが車酔いをしたようだ。
「うぅ……ちょっと停めて欲しいんだけど」
ハルミがユカリンにお願いするが、
「すまんの、今緊急走行中じゃ。もうちっとすりゃ、着くでの」
一刻を争う事態に、ユカリンは取り合っている暇がない。
「あうぅぅ……」
だいぶ具合が悪そうだ。
「タクミ……悪いんだけど、ちょっと抱っこさせて」
そう言って、ハルミがオレの体に腕を絡ませ、まるで頭を擦り付けんばかりに寄せて来た。
「頭固定してないと、ヤバくて……うぅ」
タバコのニオイ、ハルミのニオイ、そしてハルミの体温を感じる。
「はっ、ハルミ、さん……」
「うぅぅ……なんか、ちょっとマシになってきたかも……」
青ざめた顔に少し朱が戻ったようにも見える。
「タクミ…………このままで良い?」
「…………はい、いいっす」
「ありがとね」




