第24話:お掃除ロボットを追え!
「緊急配備じゃ! テートシティ中のお掃除ロボを回収するんじゃ」
ユカリンが勢いたった。
ギャルがふと口にした違和感。
「ワタシらなら、本物は回収しやすいところに捨てる」
そんなハルミの言葉が、場の空気を一変させた。
つまり、オレが押し付けられた財布に入っていた高精細エロ漫画プログラムはオトリ。
本命であるセントラルディファレンス・エンジン破壊用のプログラムは、すでに別の場所へ捨てられている可能性があるというのだ。
そして、その行方を追うための有効な手掛かりが、
テートシティ中を縦横無尽に徘徊する『お掃除ロボット』だった。
「待ってください!」
加熱しそうな現場に、オレの声が水を差した。
「このテートシティに、どれくらいお掃除ロボットがいるかわからないですけど、オレがちょっと歩いただけで、何体も見ましたよ。全数回収するのは現実的じゃない気が……」
「それくらい、わかっとる……
じゃとしても、コレはやらにゃぁいけんのよ」
ユカリンの目は熱かったが、言葉は冷静だった。
「異界来訪者対策室だけじゃ足りん。治安維持局総力……いや、ホテルにも出張ってもらわにゃぁ……」
ユカリンもオオトモも緊張の面持ちで、途方もない大規模プロジェクトの実現性について考えているようだ。
オレの脳裏に、ふと、コーガイ村の老人の言葉がよぎる。
『帝都というのはつくづく足し算しか知らん連中の集まりだと思い知らされるわい』
ロボットの数、治安維持局員の数……とても間に合うものではない。
犯人だって本命を回収するつもりだったはずだ。
捨てる場所を選んだのは、誰かに拾わせるためではない。
ハルミが言う通り、おそらく後で自分たちが回収するためだ。
ならば、全てのロボットを探す必要はない。
ゴミと一緒に吸い込んだパンチカードだけに注目すれば良い。
「回収されているロボットだけを確認するというのは、どうでしょうか?」
一同の視線がオレに向く。
オレは少し緊張しながら、しかし丁寧に説明した。
「えっと、パンチカードを回収出来さえすればいいのは、テロ組織も治安維持局も同じですよね。であるならば、この街の回収拠点や業者さんをチェックすればいいんじゃないですか?」
「…………確かにの」
ユカリンがアゴに手を当ててつぶやいた。
「やるじゃん、さすが大学生。頭いいじゃん」
ハルミが肘でオレを小突いた。
「それで行きましょう。ハナダ先輩、ホテルグラン・ヴィアからも応援を出せますかね」
パンっと手を打ったオオトモに、ハナダが答える。
「……そうね、あくまで“疑い”の段階で局全体を動かすのは難しいわね」
ハナダは思案顔をしていたが、何かを思いついたように顔を上げた。
「オオトモさんは今回、治安維持局側の連絡員として動いてもらって構わないわ」
了解っす! と大声でオオトモが答えた。
「ただ、人手が足りないのも事実なのよね……」
ちらりとハナダが、オレたちに視線を送った。
「この件、現場で動ける人間が欲しいのよね……
そうだ! ちょうど今、転生対策班の嘱託職員を募集してるんだったわ!
そうそう、確か……“3名”しか枠が無いのだけれど、皆さんやってみませんか?」
ハナダさんのわざとらしいセリフ回しに、オレとハルミとジュリアで顔を見合わせた。
「いいじゃん、面白そう」
ハルミが即答した。
「マジか……ハルミ。それ、めちゃくちゃ面白いじゃん。捕まる方のプロがサツやるとか間近でみたいに決まってるし」
ジュリアが笑いながら受託した。
「オレで良ければ、ぜひ協力させて下さい!
……つきましてはそれなりのお給料をいただけますと……」
背に腹はかえられないオレが参戦する。
「そうと決まれば、あくまで入国管理局所属の遊撃隊として動いてもらうわね。何かあったら、ワタシやオオトモさんに連絡を取って」
「わかりました!」
こうしてオレは、異世界で働きもせず、本を読んでご飯を食べるだけの自称・高等遊民から、入国管理局の嘱託職員となった。
成り行きとはいえ、この異世界で初めてのジョブチェンジだ。
◇◇◇
さて、街に出たはいいが……
テートシティの地図を広げてみる。
お掃除ロボットの管轄が帝都庁の清掃局だとは聞いたのだが、クリーンセンターはいずれも都心からはるかに離れていた。
「クリーンセンターまで歩きます?」
オレがギャルたちに問うと、
「えー、ムリ。発想が非モテ」
「ヒールで歩けない」
と即答で帰って来た。
「提案しただけなのに……」
オレが不貞腐れているのを気にも留めず、ハルミが言った。
「まぁそういう大事なところには、お巡りさんたちが向かっていると思うよ。
それに犯人がロボに吸わせたなら、現場付近に何か残ってるかも」
「そうね。あと怪しいロボットをみつけたりね」
ジュリアがくわえタバコで答えた。
「ほいっ!」
言いながらジュリアが吸い殻を道端にポイ捨てした。
ギュイーーーーーン! ギュイーーーーーン!
吸い殻を見るやいなや、雑踏をかき分けてお掃除ロボットが姿を現した。
健気である。
ギュイーーーーーン! ギュイーーーーーン!
ロボットは吸い込んだ吸い殻を処理すると、何事もなかったように掃除を続けた。
「うん、この子は正常」
そう言ってジュリアはロボットをいい子いい子して撫でた。
「どういうことですか?」
オレは訳が分からずジュリアを見上げる。
「うん、この子達は満腹になると、ゴミを吸わなくなるのよ。で、そのうち清掃局の人が来て回収していくの。
でもって新しいロボットと交換していくのね」
ジュリアは毎日の散策で、この街のシステムをオレより理解しているらしかった。
「結構素早く対応するよね。こないだウチの吸い殻吸いまくって止まったロボットがすぐ回収されたからね。ロボット担当の人がすごい目でウチのこと見てたわ」
反省してるんだか、面白がってるんだかわからない調子でハルミが笑った。
「ほいっ!」
ハルミも無限にタバコが出てくるのを良いことに、どんどん吸い殻をばら撒く。
なんと下品な!
一応掃除するロボが配備されている以上、捨てても良いわけではなく、捨てる奴が多いからであって、やはり積極的に捨てるのは抵抗があるというか……
「スゥ……ぷはっ! ほいっと」
また捨てた。
すると、遠くからわざわざ吸い込みに来たロボットが、ハルミの吸い殻を大量に吸い、そして停止した。
「ありゃ……満腹みたい」
ジュリアがポンポンとロボットを叩いた。
「じきに迎えにくるよ」
ハルミが言う。
「すごく手際がいいからタクミくんも見てったら?」
ジュリアがそう言うので、オレたちは近くのベンチで休憩することにした。
二人はまたプカプカとタバコを吸っている。
オレはジュリアさんの奢りでコーヒーをいただきながら、清掃局員の到着を待った。
通りをあっちこっちに行き交う人々を眺めていると、オレたちだけが取り残されたような感覚を覚える。それくらい帝都には人が多い。
そんな人々の生活インフラであるお掃除ロボットから、怪しい一台を探し出すことなんて可能なんだろうか?
そう思いながら、配管だらけのレンガ造りの建物を眺めていると、銀色の配管に黄色のランプが反射して点滅した。
「さすが清掃局。素早いね」
ハルミが言った。
「元いた世界よりだいぶ進んでるよね」
ジュリアが伸びをしながら、ポキっと関節を鳴らした。
清掃局のトラックは蒸気と煙を吐きながら、こちらへ近づいてくる。
目の前のロボットは、沈黙したままピカピカとランプを明滅させている。
何らかの発信ビーコンが組み込まれているのだろうか。
やがて、黄色灯を光らせたトラックは、オレたちからはるか離れた場所に停車した。
「………………?」
オレたちの目の前の満腹ロボより50mは離れているだろうか。
やがてトラックから清掃局員が降りて来て、さっきハルミの吸い殻を吸ったお掃除ロボットを抱え込んだ。
「なんか間違えてません? あの人たち」
オレが言うと、
「たぶん、あれももうすぐ満腹になるんじゃない? ついでに回収するんだと思うよ」
と、ハルミが答えた。
「それは効率良いっすね」
オレたちが見守る中、清掃局のトラックは満腹ではないお掃除ロボットを回収し、代わりの腹ペコロボを設置することなく走り出した。
「えっと……」
ゴシュゴシュゴシュゴシュゴシュ……
派手な蒸気機関の音を立てて、オレたちの目の前を走り抜ける清掃局のトラック。
「あれ、行っちゃった」
ハルミが視線で追うが、トラックは止まるどころか、ノッチを一段上げて加速した。
満腹でもないお掃除ロボットを回収し、代わりのロボットも積んでいないトラック。
オレたちの目の前の回収対象ロボットはほったらかし。
すると、また視界を清掃局のトラックが黄色灯を焚いてやって来た。
そして清掃局員は、オレたちの目の前の満腹ロボットを回収し、新しいロボットを設置していく。
ジュリアが言う通り、見事な手際だった……あっ?!
「あーーーーーーっ! アレ、さっきのやつ。
テロ組織のトラックだったんじゃないっすかーーーーーーー!」




