第23話:オトリ
「ともかくじゃ……あのパンチカードは、猥褻図画筆記のためのプログラムであり、直接セントラルディファレンス・エンジンの破壊を企図するものではなかった……」
ユカリンが冷静に、あるいは冷静を装って言った。
「通常、拾得物は3ヶ月落とし主から連絡がない場合、拾得者にその所有権を認めるとあるがの……コレに関しては、押収物となるため、こっちで預からせてもらうけぇの」
残念か? とユカリンは余計なひと言を付け加えた。
「残念でもなんでもないです。そんなものより犯人を捕まえたんなら5000J返して下さいよ」
「その件なら安心しんさい。局から届けさせるけぇの」
ユカリンが普通のお巡りさん程度の笑顔度で答えた。
「しかし、あんのテロ豚ども、ロクでもないプログラムを作りやがってからよいよ!」
ユカリンは目の前でエロ漫画を描かれたことを根に持っているようだった。
「とりあえず、タクミは捕まらないってことであってる?」
ハルミがユカリンに聞いた。
「ほうじゃのぉ、まぁ一応は窃盗の被害者であるわけじゃけ……」
わかってるんなら、コレまでの扱いはなんだったの?!
と、くってかかりたい気持ちを心の中に収めた。
「良かったじゃんタクミ」
ハルミがうれしそうにオレの背中を叩いた。
「とりあえずこのお騒がせ事件は、ウチで預かるけ、ホテルの方はええように頼む」
ユカリンは勝手なことを言うだけ言って、ポケットからタバコの箱を取り出した。
「…………あ、しもた。タバコ切らしとってから、いけんのぉ」
胸と尻のポケットを探りながら残念そうにつぶやいた。
「あ、コレでよかったらどう?」
ハルミが箱から1本出して、ユカリンに勧めた。
「すまんの……ありがとね」
ユカリンがラッキーストライクをくわえると同時に、慣れた手つきで、すかさずハルミがライターを差し出した。
顔を近づけて、先端に火を灯す。
一息吸って。味わうようにゆっくり吐いた。
「そのフィルターのところを潰すと、味変できるよ」
ハルミが吸い口を指で刺してユカリンに教えると、
「んっ……これでええか?」
パチっと音がして、そのまま吸い込んだ。
パァっと火口が明るくなって、しばらくした後に、ユカリンはベリーの匂いがする煙を吐いた。
「……変わった味じゃが、悪くないの」
ユカリンが言ったのを良しと見て、ハルミもラッキーストライクに火を点けた。
ジュリアがセブンスター。
オオトモがマールボロのメンソールと、すっかりロビーが喫煙所になった。
マールボロのメンソールの匂いはオレを少しドキドキさせる。
「しかしウイルスプログラムではなく、エロ漫画を描くプログラムなんか持ち歩いていたんでしょうね」
オオトモが煙を吐いて誰に言うでなくつぶやいた。
「それも相当腕のいいプログラムパンチャーの仕事で」
ハナダは吸わないようだ。
「資金源……じゃないっすか?」
オレがオオトモに答えた。
「無修正エロ漫画を介した、なんらかのコミュニティがあるんでしょう。その地下組織とやらは、オートマトンの技術を使って、そういうものを製作していたんじゃないですか?」
「さすがオタクくんは詳しいねぇ」
ハルミが茶化した目でオレを見た。
「オレはオタクじゃないです。
でもオタクなら最高の技術をエロに注ぎ込むはずです」
「なるほどの……まぁ個人の嗜好にとやかくは言いたくないが、目につくようなら、資金源を断つためにも、やらにゃーいかんの……まったく、たいぎーて、かんわ」
気怠げなユカリンにハルミが話しかけた。
「そのテロ組織ってさ、すごいプログラムを作るんだよね」
「ほうじゃ」
「そんなヤバいヤツらが、エロ漫画作って金稼ぎやってたって……変じゃない?」
ハルミの疑問ももっともだが、ギャルはオタクに詳しくないので仕方がない。
「変じゃないんです。そのすごい技術を、己の欲望にだけ使っちゃうのがオタクなんですよ」
オレがオタク(テロ組織)を少し擁護する。
「オタクはそうかもだけど……もし私だったら、本物とオトリは分けるかな〜?」
ハルミが悪い顔で言った。
「その本物というのが、あのエロ漫画だったんじゃないんですか?」
オオトモが話に入ってきた。
「資金源だってタクミが言うから、その線はあると思うんだけど……なんかモヤっとするっていうか」
「そうね。国家の一大事が、実はエロ漫画でしたって言うの、笑い話としては面白かったけど、なんか面白すぎるわよね」
ジュリアがくわえタバコのままオレを見た。
「タクミくんは、どうやってその変な財布を手に入れたの?」
ジュリアの問いに、記憶を辿ってゆく。
「まず、朝。ハルミさんに5000Jをバイト代でいただいて……」
オレが朝から振り返ると、ハルミが、いいっていいって、という仕草をした。
「それから街に出て、治安維持局の人に追われている男にぶつかられました」
皆一様に興味がある様子で聞いてくれている。
「そこで財布がなくなっていることに気がついたんです。正確に言うと、オレの財布じゃない、パンパンの財布に入れ替わってたんです。
ちなみにオレのスキル【図書カード】はスられた財布に入っていたので、慌てましたね」
「マジ? じゃぁあのスキル無くなっちゃったの?」
ハルミが声を上げる。
「いえ、それは取り返した財布に入っていましたので無事です」
「そうなんだ、よく戻ったよね。ラッキーじゃん。
それで、どこで見つけたの」
ジュリアがオレに問う。
「それが、お掃除ロボットの目の前だったんですよ!
慌てて走って、危うくロボットに吸い込まれる直前に取り返すことが出来ました」
オレの話を聞くやいなや、ギャル二人組みが顔を見合わせた。
「それ……ロボに本物のヤバいヤツを吸わせてね?」




