第21話:狂犬vs素行不良
「真っ赤だな〜♪ 真っ赤だな……
景色が全部……真っ赤だな……うぅ……どうして」
窓枠に切り取られた景色が横薙ぎに流れていく。
どの景色も、赤色灯に染められて赤く色付いた景色だ。
オレはスリに押し付けられたパンチカード入りの財布のせいで、こうして蒸気警ら車に押し込められている。
ハルミにお小遣いをもらい、初めてのお使いよろしく帝都を歩いたと思ったら、暴漢に突き飛ばされて、ちっこいのと、デッカいのに絡まれたと思ったら、もう捕まってるんですけど?!
どうして?! 神様!
いくら転生しても担当の神様がポンコツならどうしようもないんですかね?
「またお会いしましたね」
オオトモがハンドルを握りながら言った。
「……ですね。前はこの世界のお上りさんで、今回は……犯罪者ですか?」
「いえ、そうと決まった訳じゃないっすけど……ユカリン先輩が引かなそうだったんで。すんません!」
オオトモは、デカい身体をなるべく小さく畳むようにしてオレに謝った。
「そういや、あのユカリンって人、オオトモさんの地元の先輩って言ってましたよね」
計器類の針が揺れるのを眺めながら、何とは無しに話を続けてみた。
「そうっすよ。ワタシにタバコを教えた悪い先輩っす」
「……それは悪そうですね」
オレの脳裏にユカリンの目つきの悪い顔が大写しになる。
「あ、悪いって言ったこと、絶対内緒っすからね」
オオトモが指を口の前に立てて、イタズラっぽく笑った。
「それにしても、お二人とも広島弁だと、すごい迫力っていうか……」
「えっ……なんでワタシの出身地知ってるんっすか? もしかして転生者の“能力”ってヤツっすか?」
「いや……なんていうか、聞いたままですね」
実際、聞いたままなんだよなぁ。
「ヒロシマ村ってところで、海軍省の基地がありますよ。デッカい蒸気鑑や、海軍の飛空艇の基地もあって、結構賑やかな街ですね。帝都に比べると、ちょっと訛りが荒っぽいですよね」
ちょっととは?
「さぁ着きました。とりあえず、タクミさんは被疑者ですので、そこんところよろしくっす」
オオトモが声をひそめて耳打ちした。
「あっ、はいわかりました……善処します。被疑者としての振る舞い方がわかるかどうかは置いといて……ですが」
◇◇◇
いつものホテルグラン・ヴィアが赤色灯に照らされているだけで、妙に居心地が悪い。
ただその原因の一端がオレに……あるらしい。
エントランスのドアが開くと、慌てた様子のギャル二人がロビーにいた。
「ま、またケーサツ?!」
吸っていたタバコを灰皿に押し付けて、ハルミが立ち上がった。
「タクミも捕まってんじゃん。マジでロック過ぎ」
ジュリアは大笑いしている。
そこへ、
「なんじゃぁここは? チンピラの集会所かいの」
ユカリンが後から入ってきた。
ハルミとジュリアの眉間に一瞬で縦スジが入るのがわかった。
「あぁ?」
ハルミの眉がぴくりと動いた。
「なんやこのチビ」
一段声を落としたハルミが、ユカリンを見下ろして立ち塞がった。
「なんじゃぁわりゃ、そがーな口ぶり、やっぱりチンピラじゃないの」
ユカリンはポケットに手を突っ込んだまま、下から見上げるようにハルミを睨みつけた。
「口の利き方も知らんようなクソガキが、ケーサツのコスプレして偉ぉなったつもりか? ……自分、ソレおもろい思てんのか?」
ハルミの口調はすでにチンピラのそれそのものである。
残念ながら、ユカリンの指摘は正しかった。
「まぁまぁ、ハルミ。こんな“小さい子”やねんから……シツケもクソもないの。そんなん、ゆーたらかわいそうやない。ねぇ」
ジュリアが立ち上がって加勢した。
ハルミをなだめるフリをしてはいるが、ユカリンを煽る気満々だ。
「能書きたれんな、ヒョロガリ女。ちと話ができる方か思うたが……お前もパープーじゃの?!」
……なんだかわからない事を言ってますけど、たぶんロクな事言って無いことだけは、ちゃんと伝わるなぁ。
「お前ら、これでもまだ、カバチたれよんなら?」
ユカリンが、ホルスターの留め具を弾いた。
指はすでに銃把に掛かっている。
ぽみっ!
ユカリンが拳銃を抜くより早く、
聞き馴染みのある音がした。
「……な、ナニをしよんなら」
警戒するユカリンを尻目に、ジュリアがハナダに視線を送った。
「ねぇ、こっちの世界って……こういうのOKな感じ?」
ジュリアの手の中のスマホ画面には、ユカリンが拳銃を引き抜く動作がライブフォトで何度も再生されていた。
「ふふふ……違法です」
ハナダが状況を楽しむように答えた。
「……だってさ。どうする?」
ジュリアは笑顔だが、目は笑っていなかった。
「お前よぉ……“チート魔法”の“マル注”じゃったんか……」
ユカリンは獲物を前にしたような猫みたいに、うれしそうな表情を浮かべた。
「違います」
ハナダが割って入った。
「私たちホテルグラン・ヴィアで、その辺りは調査済みです。ジュリアさんがお持ちなのは、活動写真が撮れる機械です」
ユカリンが信じられないとでもいうような目で、ジュリアのスマホを見つめている。
「それに、この方は、魔法をはじめ、いずれの能力も付与されずに転生されたようです。マル注どころか、マル転でも珍しい無能力者ですよ」
ハナダは、優しく落ち着いた声で、しかし毅然とユカリンに言った。
「そういうことなんで。ユカリン先輩、収めてもらえませんじゃろか?
ヒロシマの喧嘩いうたら、トるか、トられるかの二つしかありゃせんので」
オオトモが、ギャル二人とユカリンの分もまとめて頭を下げた。
「…………わかったけぇ、頭を下げんで。オオトモ」
ユカリンが、うつむき加減に拳銃を納めながら、つぶやくように言った。
「たいぎぃのぉ……」
ユカリンは大きなため息を吐いた。
「ほいで、その財布じゃ」
「…………?」
さっきまで殺気だっていたロビーの視線が、一斉にオレの手元へ集まった。
「そりゃよぉ、お前が思っとるより面倒なシロモンじゃ」
そしてユカリンはロビーの面々を一瞥すると、
「じゃけぇ、ワタシらぁが出張っとるんで」
そう言って八重歯を見せて笑った。




