第18話:経験値の上げ方?
清潔な寝床がある。
美味しいご飯も三食食べられる。
暇な時には、こうして……
ブンっとブラウン管をつけたような音がして、目の前に図書館のユーザーインターフェースが現れる。
オレが神様からもらったスキル【図書カード】である。
いつでも閲覧可能だ。
衣食住が保証されていて、便利な暇つぶしアイテムもある。
なんと恵まれた生活なんだ。
そういえばあの白い部屋にいた、ジト目が印象的な神様のお使いも言っていたではないか。
「かわいそうだから」と。
であるならば、これくらいの厚遇はオプションのうちといって差し支えなさそうだ。
あいつ……今日もインシデント対応をしているんだろうな……。
そういうわけで、オレの異世界生活はお金はなくとも、大変充実している。
ギャル二人組は謎の資金源で遊びに行っているようだが、いったいどういうスキルセットをしているのやら……
まぁ、アレはアレ、オレはオレの時間を満喫することにしよう。
これぞ“高等遊民”というライフスタイルなのである。
さて話題作も一通りさらったし……
そろそろこの世界について調べてみるか。
ポチポチとキーワードを入力してみる。
帝都。
蒸気都市。
硬式飛行船。
それらしい資料には行き当たらない。
「小説なら『ディファレンス・エンジン』あたりは出てくるんだけど……」
でも、具体的な地名を入れた瞬間に何も出なくなった。
テートシティ。
コーガイ村。
入国管理局……ホテル グラン・ヴィア。
そういった具体的な地名に差し掛かると、全くヒットしなくなる。
このインターフェースの端にある“図書館レベル”というものが問題なのだろうか。
レベルは1の表記ながら、特に不自由のない読書ライフが送れている。
「つまりこのレベルを上げることができれば、この異世界の“知”にアクセスできるようになる、かもしれない……」
オレは読みかけの『ディファレンス・エンジン』を閉じた。
歴史改変SF小説というもので、いわゆるスチームパンクの古典ともいうべき作品だ。
ただ、こういったスチームパンク小説と違い、この蒸気の異世界は、スチームテクノロジーが、もっと“俗”に進化したような印象を受けるのだ。
巨大に成長する帝都と、妙に生活感のある人々。
事実は小説ほど意味などなさないのかもしれない。
人々を分断し支配するためのテクノロジーではなく、ただ生活を便利にするために、この街の石炭は燃やされているのだろう。
「たっだいま〜」
「お帰りなさいませ、赤石ハルミ様」
エントランスで聞き馴染みの声がした。
「あれ〜、今日もここで本読んでんの?」
ホテルに帰ってきたハルミに早速絡まれる。
あれ以来すっかりギャルメイクに戻っている。
「快適ですよ。高等遊民というやつです」
「江東区? ユーミン?」
「今日もどこか行かれてたんですか?」
「うん、どう? どう? 変わったのわかる?」
ハルミがやけにウインクして見せるので、何か目に関することなのでは無いだろうか?(名推理)
「もしかして、マスカラ変えたんですか?」
「えっ?! わかる? にゃは〜、やるじゃんタクミ、見る目あるねぇ……童貞なのにすごいよ」
まぁ、あれだけヒントを出されれば、いかにオレと言えどわかるだろう。
「じゃーん、コレ見てみ? “スチームプルーフマスカラ”っていうんだけど、急な蒸気の吹き付けにも耐えるらしくて……」
「どんな状況なんですか……急な蒸気って、そんなにあります?」
「あるある。街中歩いてると普通に配管から噴くし……この前なんてアタシ、大通りで顔面に浴びたからね」
「危なくないんですか?」
「危ないよ?」
「危ないんだ……」
「だからスチームプルーフってわけ」
火傷の心配をしたつもりが、メイク崩れの心配だと捉えられている気はしたが、ハルミの使うコスメまで、すっかり蒸気帝国仕様になっていることに驚くとともに、彼女のこの世界への適応能力の高さに、ただ感心し、尊敬すら覚える。
「タクミってさ、毎日ここで本読んでんの?」
ハルミが向かいの椅子に座って、タバコをくわえた。
「まあ、図書館みたいなもんです。それもとびきり快適な」
「そういや、その……『スキル』だっけ?」
「はい」
「漫画あんの?」
「ありますよ」
答えるとハルミは意外そうな顔をした。
「雑誌は?」
「あります」
「ギャル雑誌は?」
「ありません。大学の図書館なんで」
「なんだよ、使えねー」
ハルミが煙と一緒に吐き捨てた。
蒸気機関みたいな女だな。
「じゃあさ、その【図書館レベル】ってやつ何?」
ハルミが画面を覗きこんで言った。
「わかりません、これがなんなのか、どういう仕組みで上がるのか……経験値なのか……それとも」
「本をいっぱい読むとか?」
「そんなスタンプカードみたいなシステムですかね」
「あっ! わかった〜」
声高にハルミがひざを打った。
「タクミって、経験ないからじゃない?」
「なんのですか?!」
オレがムキになると、
ハルミはニヤニヤしながらタバコを指で挟んだ。
「ウチで経験しとく?」




