第17話:爆安の殿堂
爆安の殿堂は、蒸気の街にクロガネの城よろしく鎮座していた
正面看板には“バールのようなもの”を携えたシロクマのキャラクターが出入り客を見下ろしている。
店内に一歩足を踏み入れると、所狭しと商品が積み上げられ、頭上には色鮮やかな手書き風のPOPが乱立していた。
蒸気機関の部品。
何かの歯車。
驚くほど長いスパナ。
石炭ストーブ。
謎の缶詰。
重そうな軍用シャベル。
およそ統一感という言葉は、この店に存在しないらしい。
「ジャングルだぁ♪」
爆安の殿堂バールに入店した直後、ハルミが元の世界の方の歌を口ずさんだ。
「それはドンキの歌でしょ? こっちはバールらしいっすよ」
「同じようなもんっしょ、こっちは、ちょっと具体的になった感じ?」
オレのツッコミをジュリアが無効化した。
「あと、やっぱりこっちでも入り口に水槽を置くんだね」
ジュリアに近づいて行った魚が、急旋回してどこかに行った。
「本当にドンキなんですね……」
「だから最初からそう言ってるじゃん」
「なんかすっぴんでドンキ行くの緊張するかも」
ハルミが伏せ目がちにつぶやいた。
その表情のまま固定しとけばいいのに。
「韓国コスメとか、めちゃくちゃ売ってたら笑うよな」
ジュリアが軽口を叩いたが、そこはオレも気になった。
こっちの世界には外国というものがあるのだろうか。
軍用の飛行船があるということは……
などと考えていると、パーティグッズが売っているコーナーに差し掛かる。
「そうそう、こういうHAPPY BIRTHDAYみたいなアルミ風船を使ったりするんですよね…………?」
キラキラとした文字風船がズラリと並んでいる。
「1、9、1、9……I、K、1、Q……?」
随分変な並びだ。
「S、E…………えっく……あっ?! あー……いやいや」
どうせお客のしわざだろう……治安悪い?
「あっ、じゃねーよ。んなもんに、いちいち反応すんなし」
ハルミがオレの脇腹を小突く。
「いいじゃん。タクミくんなら、しかたないよねぇ〜」
ハルミにバカにされ、ジュリアさんには、もっとバカにされた。
「コスメ、買うんでしたよね」
オレは話題を変えようと、この来店の目的に触れた。
「うん、すっぴんとかヤバいし……早く買いた……あ、スウェットあるじゃん、これとかかわいくね?!」
途中のジャージ・スウェットコーナーにハルミが絡み取られた。
「スウェットいいじゃん、ハルミがスウェット買うならアタシも買おっかな〜……どうせならサンダルも買う?」
「それいいかも。流石にギャル服しかないのはありえんし」
二人がスウェットやジャージを見ているので、オレもその辺のTシャツを何の気なしに見て回る。
「……おもしろTシャツって、こっちでも需要あるんだ…… 」
変なTシャツも、よく見れば地域性があるのか、
“ボイラー冷えててムリ”
“復水器元に戻らず”
“缶水空欠要給水”
“安全弁作動中”
蒸気機関に関する用語でやる気のなさを表現したものが多い。
「お二人は良いの見つかりましたー?」
衣類が所狭しと並んでいるが、(暫定の)美少女二人が長身なのでよく目立つ。
「これとかどう?」
ハルミが見せてきたのは、オーバーサイズのフード付きパーカーと、ゆったりとしたシルエットのスウェットパンツ。
ピンクのラインが通っているが、そのラインが豹柄だ。
「めっちゃギャルですね」
オレが率直な感想を伝えると、ハルミは不満だったようだ。
「かわいいかどうか聞いてんのに」
「かわいいですよ」
「心こもってへんなぁ」
「タクミくんは、こういうのが好きなんだよね〜」
ジュリアさんがヘソ出しタンクトップにゆったりしたジャージを合わせて、腰のくびれを見せつけた。
「おぉ!」
これには思わず声が漏れた。
すごいボディだ。
しなやかな筋肉に皮を貼っただけっていうか、ここまでくると、なんか競走馬が頭によぎる。
「ジュリ〜、タクミがエロい目で見てるよ」
ハルミがジュリアをからかう。
「ふふん、タクミくんがその気なら、アタシは良いけどね〜」
「やめてください、悪いイジりですよ」
「そう? こんなこと、ガルバのお客には言ったことないけどな」
「……………………そうなんすね」
「へいへいへい、タクミよぉ、その間はなんだ、その間は?」
すかさずハルミが割って入って言った。
「サンダル見に行くよー」
テートシティにも、きっとヤンキーはいる。
名称がヤンキーかどうかはわからないが、よしんばそういう存在がいないのだとしたら、この目の前にある白いネコちゃんのキャラクターと豹柄が組み合わされた健康サンダルが売られている理由が見当たらないのだ。
ハルミはこういうの買うんだろうなぁ。
くわえタバコでサンダルを引きずって歩いている姿が目に浮かぶ。
「こっちにキティちゃんのサンダルありますよ」
オレが声をかけると。
「ムリー、メンズしか入んない」
と、ハルミの声がした。
「タクミくんって、そういうマイヤン系の娘がいいの?」
ジュリアの声が飛んでくる。
どうやら二人の趣味ではないらしい。
やはりオレにファッションは難しすぎる。
「ウチはこれにしよっかな〜……えっと、シロックス? まぁクロックスみたいなもんか。26cmでいいや」
ひょいとクロックス的なサンダルをオレのカゴに入れるハルミ。
こいつ足のサイズ、オレと変わんないのかよと思いながら、
こっちの世界もセンチ表記なんだなと、感心した。
「何これ……アルキのベリンゴ? “ナイ”キのベ“ナッシ”の異世界版かしら」
27cmのベリンゴ(?)をジュリアさんがオレのカゴに放り込んだ。ジュリアさんって、身長も足のサイズも、全部オレよりデカいんだよなぁ。
二人のダル着とデカいサンダルで、オレのカゴは両手共にパンパンになっている。
言い忘れていたが、今日は地図係と荷物持ちを兼ねているのだ。
「マジでドンキだったじゃんね」
ハルミが飛び跳ねるように言った。
「夜遅くまで開いてるとこまで同じだし、案外この異世界ってやつも暮らしやすそうね」
「じゃぁ、これでお会計よろしく」
ジュリアさんが札を裸でオレに渡した。
「あの……」
「お釣りは取っといて」
ジュリアさんらしい豪快さはいいのだが。
「みなさん、コスメを買いに来たんじゃないんですか?」
「あっ!?」
「ホントだ」




