第13話:赤石ハルミは生き急いでる
煙が漂い、ソファがヤニで黄色くなるのではないかと思うような光景に、オレはどこか懐かしさを覚えていた。
「あれ? ねぇジュリア、あれって、大学生の人じゃない?」
甘ったるい煙を吐きながら、金髪ピンクのギャルがオレを見つけた。
ハルミだ。
「マジじゃん……てっきり、こっちでも死んで、また次の世界に行ってるのかと思ってた〜」
サラサラと流れる銀髪ギャルはジュリアだ。言いたい放題かよ。
「ウチらがまた一緒になったってことはさ」
「うん」
「あぁ」
ハルミが声をひそめるので、オレたちは耳をそば立ててうなずいた。
「またクルマが突っ込んできたりして!」
ギャル二人が大笑いし、オレはゲンナリした。
「マジウケる、ハルミやば」
静かなロビーに、ギャル二人のバカデカ笑い声だけが響いた。
「とこで、お二人は一緒だったんですか?」
オレは気になっていたことを聞いてみたら。
「うーうん、ちがーう。別々だったよね」
「そう」
「ウチは、なんか電車の中で目が覚めて、イコカも切符も持ってなかったからケーサツですって人に捕まって、色々話してたら、良い人かもって思って、それでここに連れてきてもらった」
ハルミがこれまでの出来事を“かいつまんで”話した。
「あははははっ、何回聞いてもヤベェよなぁ……転生初日にポリにパクられてんだよ。さすがハルミは生き急いでるって感じがするわ」
面白いかどうかはさておき、ハルミもオレと同じような治安維持局に連れ去られたケースか。
「ジュリアさんは?」
「ジュリアのこと聞きたいの?」
「そりゃ、気になるじゃないですか……」
「ジュリアはね……」
「はい」
「こうやって、ブーツ脱ぐじゃん」
タバコの匂いに別種の匂いが混じり込む。
「あ、はい……ってかジュリアさんって素足でブーツ履いてたんですね。失礼ですが、蒸れません?」
「そりゃ蒸れるよ〜。すっごい、やばい」
女子でもやばいんだ、とオレは思った。それならばやめればいいじゃんとも思ったが……
「でっ。また履き直す頃には……こうなるの」
ジュリアはそう言うと、無造作に紙幣の束を取り出した。
「あれー? こんなところにお金が?! ラッキーラッキーってね」
なるほど……これは……深いっすね。
「えっと、タクミくんだっけ……ここにくるまでお金なくて困ったんじゃない?」
「ええ、まぁ……」
「そうだよね〜。じゃぁ、ジュリアのスキル。マネしていいよ〜」
そう言って、余裕を見せつけるように、その長い脚を組み替えた。
「使えなさすぎますよ、そんなスキル。それより、ジュリアさん、スマホ買ってもらったんでしょ?」
「いいっしょ?!」
ジュリアは三眼カメラの最新スマホをオレたちに見せびらかした。
「……高そうでいいですね。そのせいでオレ【大魔法使い】のスキルを貰えなかったんですからね」
うれしそうなジュリアに、オレは少しひがんでみせた。
「えー、スマホの方がいいじゃん。魔法使いは……あと数年でなれるっしょ。タクミくんなら」
どういう意味だコラ!
という気持ちをグッとこらえて、ジュリアに向き直る。
「オレは30歳で自動付与される魔法使いには興味がないんで、すぐにでもその権利を破棄したいくらいですよ」
「そうなんだ〜、あれ? もしかしてウチらでワンチャン捨てる気だった?」
ハルミがふざけた声を出して、ギャル二人が大爆笑した。
「……とにかく、神様からもらえるポイントがなくなっちゃって、大変だったんですから。
ジュリアさんはそのスマホを何に使うつもりだったんですか? そもそもこっちの世界だと、電波通じないんじゃないですか」
「え、何って、ジュリアのスマホ、画面割れてたし、異世界の写真撮りたいし」
予想外すぎる理由だった。
「あ、そうだ! ハルミ。すごいのが空飛んでたんだけど、見る?」
ジュリアがスマホを取り出して画面を点けた。
「見る見る〜」
ハルミが覗き込み。
オレもその脇からちらっと覗き見た。
「これ、すごくない? デカすぎてウケるよな」
そこにはオレたちの上空を通過していったのと同じ形の硬式飛行船が夜空にハッキリと写っていた。
さすが最新スマホだ。
「って、まさかそれだけですか?
どこかと通信できるとか……
GPSでこの世界のどこでも地図と現在地がわかるとか……」
「いや。全然。 ここ日本じゃないし、ムリムリ」
眉尻を下げて、何言ってんのコイツみたいな表情でオレを見ないで欲しい。
「じゃぁ何に役立つんですか、そのスマホ?!」
「きれいなカメラ……思い出とか残せるじゃん」
ギャル二人が自撮りで、イエーイみたいなポーズをきめた。
「ハルミさんは……なんでしたっけ?」
なんかロクでもないことを言っていたような……
「あ、ウチ? ウチはねぇ……【魔法少女】になったよ!」




