第9話 ギルド試験②
戦闘試験会場は円形の訓練場だった。
地面は固く踏み固められている。
周囲には受験者達が集まっていた。
中央には試験官達。
その中には副ギルド長ロイドの姿もある。
受験者達が整列する。
やがて試験官が前へ出た。
「これより戦闘試験を行う」
会場が静まり返る。
「受験者には番号を配布する」
職員達が木札を配っていく。
グランの番号は四十七番だった。
「対戦相手は試験用魔法道具が決定する」
試験官の横には板状の魔法道具が置かれていた。
淡い光が流れている。
「身体能力」
「スキル」
「戦闘経験」
「適性試験結果」
「それらを元に可能な限り近い実力同士を選出する」
受験者達が頷く。
「剣士は剣士」
「魔術師は魔術師」
「槍使いは槍使い」
「公平な試験を行うためだ」
試験官は続ける。
「試合は一人一回」
「勝敗だけでは評価しない」
「技術」
「判断力」
「戦闘内容」
「全てを見る」
張り詰めた空気が訓練場を包む。
「相手を殺害した場合は即失格だ」
試験官が手を上げた。
「では始める」
魔法道具が淡く光る。
試験は次々と進んでいった。
グランは黙って見ていた。
足運び。
間合い。
剣の振り方。
相手を見る視線。
自然と目が動く。
どの戦いも違っていた。
力で押す者。
技で崩す者。
臆病な者もいれば、大胆に踏み込む者もいる。
初めて見る本物の戦いに。
グランは静かに見入っていた。
そして。
何人もの受験者の試合が終わった頃。
試験官が次の番号を読み上げる。
「二十五番」
会場が少しざわつく。
「あいつか」
「本命のお出ましだな」
人混みの中から一人の男が前へ出た。
狼獣人。
灰色の耳。
鋭い金色の瞳。
二メートルを超える巨体。
傭兵として鍛え上げられた巨躯。
無駄な肉は一切無い。
肩幅は広く。
一歩歩くだけで圧迫感があった。
手に握る木斧が小さく見えるほどだった。
ガルス。
元傭兵。
今回の本命。
ガルスは何も言わない。
ゆっくりと訓練場の中央へ歩いていく。
その姿だけで。
周囲の空気が変わっていた。
対戦相手も高評価の受験者だった。
決して弱くない。
むしろ上位の実力者だ。
だが。
勝負はあまりにも早く終わった。
「始め!」
合図と同時に。
ガルスが踏み込む。
肉体強化。
爆発的な加速。
距離が消える。
相手が反応するより早く。
木斧が振り抜かれた。
激しい音。
次の瞬間。
相手の木剣が宙を舞う。
勝負あり。
開始から僅か数秒。
訓練場がどよめいた。
「速ぇ……」
「今の見えたか?」
「別格だろ」
ガルスは何も言わない。
静かに元の場所へ戻る。
それが当然であるかのように。
試験は続いた。
そして。
受験者も残り少なくなった頃。
試験官が魔法道具へ目を向けた。
淡い光が流れる。
次の組み合わせが表示される。
「……ん?」
試験官の表情が固まった。
隣の職員も表示を見る。
「おい……」
「嘘だろ」
もう一人の職員も覗き込む。
驚きを隠せない。
ロイドも呼ばれた。
表示を見る。
そして僅かに眉をひそめる。
「……そうなるか」
短く呟いた。
数秒だけ考える。
だが。
首を横に振る。
「魔道具の判定だ」
「試験は続行する」
職員達は顔を見合わせた。
それでも反論はしない。
やがて。
試験官が前へ出る。
「次の組み合わせを発表する」
訓練場が静まり返った。
「二十五番」
ガルスが顔を上げる。
周囲がざわつく。
「またガルスか?」
「二回目だぞ?」
不満の声が漏れる。
そして。
試験官は続けた。
「四十七番」
グランが顔を上げた。
受験者達の視線が二人へ集まる。
「あの無スキルか」
「呪い耐性Sの」
「まさか……」
試験官は最後まで読み上げた。
「ガルス」
「グラン・ウォーカー」
一瞬。
訓練場から音が消えた。
そして。
次の瞬間。
爆発したようなざわめきが広がる。
「はぁ!?」
「待て待て待て!」
「無スキルだぞ!?」
「相手ガルスだぞ!?」
「なんだその組み合わせ!」
「故障じゃないのか!?」
「そもそもガルスは二回目だろ!」
もっともな反応だった。
本来。
戦闘試験は一人一試合。
それが規則だ。
ロイドが一歩前へ出る。
ざわめきが静まった。
「その通りだ」
低い声が響く。
「本来ならあり得ない」
受験者達が固唾を飲む。
「だが今回は前例が無い」
ロイドの視線がグランへ向く。
「無スキル」
その言葉に再びざわめきが起こる。
「魔法道具が適正な相手を選出できなかった」
静寂。
「その結果がこの組み合わせだ」
誰も納得はしていない。
だが。
ロイドは続けた。
「魔道具の判定は正式なものだ」
「試験は続行する」
異論は許されなかった。
ガルスは静かに立ち上がる。
「確認する」
低い声だった。
訓練場が静まる。
「相手は無スキルで間違いないな」
「ああ」
試験官が頷く。
ガルスは数秒だけ黙る。
そして言った。
「なら木剣を使う」
周囲がざわつく。
木斧を地面へ置く。
武器棚へ向かう。
手に取ったのは一本の木剣だった。
「スキルも使わない」
さらにどよめきが広がる。
ガルスは木剣を肩に担ぐ。
「それで十分だ」
静かな一言だった。
だが。
誰も笑わない。
言葉通りになると思っているからだ。
「おい……」
「本気かよ……」
「それでも勝つ気か」
ガルスは何も答えない。
ただ訓練場へ向かった。
グランもまた歩き出す。
周囲のざわめきは聞こえていた。
だが。
気にする理由は無い。
呼ばれた。
だから行く。
それだけだった。
無スキルの少年。
そして。
二人は静かに訓練場の中央へ向かう。




