第8話 ギルド試験①
翌朝。
グランは冒険者ギルド本部を訪れていた。
昨日と同じ建物のはずなのに。
中へ入ると空気が違った。
熱気。
緊張。
期待。
様々な感情が混ざり合っている。
今日ここにいる者達は皆。
冒険者を目指す受験者達だった。
人間。
獣人。
ドワーフ。
エルフ。
リザードヒューマン。
巨人族。
様々な種族が集まっている。
剣を背負う者。
槍を持つ者。
魔術師らしき者。
自信に満ちた者。
不安そうな者。
反応は様々だった。
グランは静かに列へ並ぶ。
やがて。
一人の試験官が前へ出た。
五十代ほどの男だった。
傷だらけの顔。
鋭い目。
一目で歴戦の冒険者だと分かる。
「これより冒険者試験を開始する」
会場が静まり返った。
「試験は二つ」
「適性試験」
「戦闘試験」
試験官は受験者達を見渡す。
「受験者は全員、両方の試験を受けてもらう」
誰も異論は無い。
それが当然なのだろう。
「評価はEからS」
「どちらか一方でC評価以上を獲得した者を合格とする」
小さなざわめきが起こる。
「ただし」
試験官の声が低くなる。
「戦闘試験は必須だ」
「適性試験で高評価を得ても免除は無い」
「我々が見たいのは数値だけじゃない」
「実際にどう動くか」
「どう判断するか」
「どう戦うかだ」
会場の空気が引き締まった。
グランは黙って聞いていた。
ダンから聞いていた通りだった。
適性試験。
戦闘試験。
冒険者になるための最初の登竜門。
「まずは適性試験を行う」
試験官の隣には巨大な水晶玉が置かれていた。
透明な球体。
内部で淡い光が揺れている。
「この魔法道具へ触れろ」
「身体能力」
「耐性」
「スキル」
「総合的な適性を測定する」
「Dが一般的な基準」
「C以上で冒険者としての最低適性ありと判断する」
試験が始まった。
受験者達が順番に呼ばれていく。
D。
D+。
C-。
時折C評価が出る。
歓声を上げる者。
落胆する者。
悲喜こもごもだった。
やがて。
「グラン・ウォーカー」
名前が呼ばれる。
グランは前へ出た。
水晶玉の前へ立つ。
「触れろ」
グランは静かに手を置いた。
光が広がる。
そして。
文字が浮かび上がった。
【身体能力】
力 D
素早さ D+
頑丈 C-
【スキル】
無し
【耐性】
毒 B-
麻痺 B-
幻惑 D
魅了 A
呪い S
【総合評価】
C
静寂。
一瞬。
誰も言葉を発しなかった。
「……スキル無し?」
「嘘だろ」
「初めて見たぞ」
ざわめきが広がる。
試験官も眉をひそめた。
だが表示は変わらない。
そして。
さらに視線を集めた項目があった。
「呪い耐性S?」
「なんだそれ……」
「聞いたことねぇぞ」
「そんな数値あるのか?」
会場が騒ぎ始める。
グランは表示を見る。
スキル無し。
それは知っている。
十歳の時から変わらない。
毒耐性。
麻痺耐性。
そこには少しだけ心当たりがあった。
父が死んでから。
母を支えるため。
一人で山へ入ることが増えた。
食べられる木の実。
食べてはいけない茸。
薬草。
毒草。
父から教わっていた。
それでも間違えることはあった。
三日三晩高熱に苦しんだことがある。
息が出来なくなりかけたこともある。
毒虫に刺され。
半日腕が動かなくなったこともあった。
何度も死にかけた。
けれど。
生きていた。
だから。
毒と麻痺の耐性が高いことは少しだけ納得できた。
だが。
呪いだけは分からない。
そんなものを受けた覚えは無かった。
「静かにしろ」
試験官の声が響く。
ざわめきが収まる。
試験官は表示を見つめる。
そして短く告げた。
「測定結果に異常は無い」
それだけだった。
グランは元の場所へ戻る。
周囲から視線を感じる。
驚き。
好奇心。
疑い。
様々な感情が混ざった視線。
だがグランは気にしなかった。
試験は続く。
そして。
一人の受験者が前へ出た瞬間。
会場の空気が変わった。
「ガルスだ」
「元傭兵の」
「やっぱり来たか」
「今回の本命だな」
狼獣人。
灰色の耳。
鋭い金色の瞳。
大柄な身体。
背中には巨大な戦斧。
ガルス。
元傭兵として名の知られた男だった。
ガルスは何も言わない。
ただ水晶玉へ手を置く。
光が広がった。
【身体能力】
力 B+
素早さ B
頑丈 B+
【スキル】
斧使い
肉体強化
ハウリング
【総合評価】
A
会場がどよめく。
「やっぱり強ぇ」
「別格だな」
「A評価かよ」
だが。
ガルス本人は表情一つ変えない。
静かに元の場所へ戻る。
その途中。
一瞬だけ。
ガルスの視線がグランへ向いた。
金色の瞳。
無言。
何も語らない。
だが。
何かを確かめるような視線だった。
数秒後。
ガルスは視線を外す。
適性試験は終了した。
受験者達は次の試験会場へ移動を始める。
グランも人の流れに合わせて歩き出した。
その時だった。
少し離れた場所で試験官達が話している声が聞こえた。
「問題はグランだな」
「近い実力の相手がいない」
「無スキルなんて前例が無いからな」
「総合Cだが判断材料が少なすぎる」
難しい顔をしている。
「どうする?」
「少し上と当てるしかないだろう」
「様子を見る」
会話はそこで終わった。
グランはその場を通り過ぎる。
相手が誰であろうと。
やることは変わらない。
受験者達は次の試験会場へ向かって歩き始める。
グランもまた。
人の流れに混ざって歩き出した。




