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第7話 冒険者試験

 グランはギルドの大きな扉を押し開いた。


 途端に熱気が押し寄せる。


 人。


 人。


 人。


 広い空間は多くの冒険者達で埋め尽くされていた。


 剣を背負う者。


 杖を持つ者。


 獣人。


 ドワーフ。


 エルフ。


 鱗に覆われたリザードヒューマン。


 天井に頭が届きそうな巨人族。


 見習いらしき若者達。


 酒を飲みながら騒ぐ者。


 依頼書を睨む者。


 仲間と談笑する者。


 誰もが自分の目的のためにここへ来ていた。


 グランはしばらくその光景を見ていた。


 これが冒険者ギルド。


 冒険譚の中で何度も読んだ場所。


 少しだけ胸が高鳴る。


 やがて視線を巡らせる。


 受付らしき場所を見つけた。


 列へ並ぶ。


 順番を待つ。


 そして。


「次の方どうぞ」


 受付の女性が声を掛けた。


 グランは前へ進む。


「冒険者になりたい」


 女性は慣れた笑顔を向ける。


「冒険者登録ですね」


「まずはこちらへご記入をお願いします」


 書類を受け取る。


 名前。


 年齢。


 出身地。


 戦闘経験。


 そして。


 スキル。


 グランの手が止まった。


 視線がその文字へ落ちる。


 無意識に眉が僅かに動いた。


 受付の女性が首を傾げる。


「どうかされましたか?」


 グランは少し迷った。


 だが隠すことではない。


「スキルが無い」


 一瞬。


 女性は意味が分からないという顔をした。


「え……?」


「無い」


 グランは繰り返す。


 女性の表情が困惑へ変わる。


「鑑定は受けていますか?」


「受けた」


「結果は?」


「無しだった」


 女性は言葉を失った。


 しばらくして。


「少々お待ちください」


 そう言って席を立つ。


 近くの職員へ何かを話している。


 職員も驚いた顔をした。


 二人で何かを確認する。


 そして。


 さらに奥へ消えていった。


 周囲の喧騒だけが聞こえる。


 グランは静かに待った。


 しばらくして。


 一人の男が現れる。


 四十代半ばほど。


 落ち着いた雰囲気を持つ男だった。


 受付の女性が慌てて頭を下げる。


 男はグランの前へ座った。


「君が無スキルの受験者か」


 グランは頷く。


「副ギルド長のロイドだ」


 ロイドは書類へ目を落とす。


 そしてグランを見る。


 もう一度書類を見る。


 しばらく沈黙が流れた。


「本当に無スキルなんだな」


「うん」


 短い返事だった。


 ロイドは腕を組む。


 そして小さく息を吐いた。


「正直に言おう」


「私も初めてだ」


 受付の女性が黙ったまま頷く。


「無スキルで冒険者になろうとする者を見るのは」


 静かな声だった。


 だが重かった。


 周囲には当たり前のようにスキルを持つ者達がいる。


 強い者も。


 弱い者も。


 才能ある者も。


 努力する者も。


 だが。


 スキルそのものを持たない者はいない。


 それほど異常な存在だった。


「冒険者は危険な仕事だ」


 ロイドは続ける。


「才能だけで生き残れる世界でもない」


「だが才能が無ければ、なお厳しい」


 グランは黙って聞いていた。


 言われなくても分かっている。


 十歳の時から。


 ずっと知っていた。


「それでも受けるのか?」


 ロイドが尋ねる。


 グランは迷わなかった。


「受ける」


 即答だった。


 ロイドはグランを見つめる。


 少年の目には迷いが無い。


 無謀なのか。


 覚悟なのか。


 その両方なのかもしれない。


 やがてロイドは小さく頷いた。


「分かった」


 判を手に取る。


「我々は可能性を決める立場じゃない」


「試験を受ける権利は誰にでもある」


 乾いた音が響く。


 書類へ判が押された。


「受験を許可する」


 グランは静かに頭を下げた。


「ありがとう」


 ロイドは少しだけ目を細めた。


 無愛想な少年だと思っていた。


 だが礼儀はある。


「試験は二つだ」


「適性試験」


「そして戦闘試験」


 グランは頷く。


 ダンから聞いていた。


 冒険者になるための最初の登竜門。


 ここを越えなければ始まらない。


「試験は明日の朝だ」


「今日はしっかり休め」


 ロイドは受験票を差し出した。


 グランはそれを受け取る。


 紙は軽い。


 だが。


 不思議と重く感じた。


 冒険者への第一歩。


 その始まりが記されているからだ。


 グランは受験票を握る。


 そして静かにギルドを後にした。


 明日。


 冒険者への第一歩が始まる。

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