第10話 ギルド試験③
訓練場の中央。
グランとガルスは向かい合っていた。
周囲は静まり返っている。
全員の視線が集まっていた。
本来なら存在しないはずの試合。
一人一試合。
それがギルド試験の規則だった。
だが。
無スキルという前例の無い存在が。
その規則を狂わせた。
魔法道具が適正な相手を選び出せなかった結果。
生まれたイレギュラー。
無スキルの少年。
そして。
二度目の試験へ呼ばれた狼獣人。
誰もが異常だと思っている。
誰もが結果を予想している。
それでも。
試験は始まろうとしていた。
試験官が二人を見る。
「準備はいいな」
グランは頷く。
ガルスは木剣を肩に担いだまま動かない。
「始め!」
開始の合図が響く。
グランは木剣を構えた。
だが。
先に動いたのはガルスだった。
ゆっくりと歩く。
一歩。
また一歩。
それだけなのに。
重圧があった。
戦場を生き抜いてきた者だけが持つ空気。
グランは息を吐く。
怖い。
本能が告げている。
目の前にいるのは格上だと。
それでも。
逃げる理由にはならなかった。
ガルスが距離を詰める。
そして。
一歩踏み込んだ。
「っ!」
速い。
肉体強化は使っていない。
それでも速い。
グランは反射的に木剣を合わせる。
激突。
衝撃。
腕が痺れる。
身体が後ろへ弾かれた。
土を削りながら踏み止まる。
重い。
今まで受けたどんな攻撃より重かった。
ガルスは追わない。
ただ見ている。
立てるかどうかを。
グランは再び構えた。
会場がざわつく。
「受けたぞ」
「今のを?」
「普通なら吹っ飛んで終わりだろ」
ガルスが再び踏み込む。
二撃。
三撃。
四撃。
木剣が唸る。
重い。
速い。
正確だ。
グランは必死に受ける。
避ける。
受ける。
避ける。
技術ではない。
経験でもない。
ただ。
倒れたくなかった。
気付けば。
十合。
二十合。
周囲の空気が変わり始めていた。
「まだ立ってる」
「なんでだ?」
「おかしいだろ」
誰かが呟く。
その言葉が全てだった。
強くはない。
速くもない。
上手くもない。
だが。
倒れない。
ガルスの攻撃を受け続けても。
折れない。
逃げない。
目を逸らさない。
ロイドは腕を組んで見ていた。
「なるほどな」
隣の試験官が尋ねる。
「何がです?」
ロイドは答える。
「あいつは弱い」
即答だった。
「技術も未熟」
「身体能力も平凡」
「冒険者としては下の下だ」
試験官も頷く。
否定できない。
事実だった。
だが。
ロイドは続ける。
「普通なら終わっている」
視線はグランへ向いていた。
「普通なら心が折れる」
グランは息を切らしていた。
腕も震えている。
全身が痛い。
それでも。
木剣を下ろさない。
「……異常だな」
ロイドが呟く。
「耐性か」
その時だった。
ガルスが初めて大きく踏み込む。
今までで最も速い。
グランは反応する。
木剣を動かす。
だが。
間に合わない。
激突。
鈍い音。
木剣が弾き飛ばされた。
宙を舞う。
勝負あり。
訓練場が静まり返る。
グランは肩で息をしていた。
全身が痛む。
腕は痺れている。
それでも。
膝はつかなかった。
最後まで立っていた。
試験官が宣言する。
「勝者、ガルス!」
歓声が上がる。
だが。
誰もグランを笑わなかった。
試合前とは空気が違う。
無スキル。
平凡。
弱い。
それは変わらない。
だが。
最後まで立ち続けた。
それを全員が見ていた。
ガルスは落ちた木剣を拾う。
そして。
グランへ差し出した。
グランは受け取る。
ガルスは短く言った。
「悪くない」
それだけだった。
だが。
会場がざわめく。
ガルスが他人を認めた。
それだけで十分だった。
グランは木剣を握る。
「ありがとう」
短く答えた。
試験は終わった。
だが。
ロイドの視線はまだグランへ向いていた。
まるで何かを見定めるように。




