第11話 試験結果
戦闘試験が終わった。
受験者達は再び広場へ集められていた。
先程までの熱気は消え。
代わりに張り詰めた緊張が漂っている。
合格か。
不合格か。
それが決まる瞬間だった。
グランは列の後方に立っていた。
腕にはまだ鈍い痛みが残っている。
全身も重い。
だが。
気持ちは不思議と落ち着いていた。
負けた。
それは事実だ。
だが。
本物の強者と戦った。
その経験は確かに自分の中へ残っている。
やがて。
副ギルド長ロイドが姿を現した。
広場が静まり返る。
「これより結果を発表する」
名前が呼ばれていく。
歓声。
落胆。
安堵。
様々な感情が交差する。
そして。
「ガルス」
全員の視線が集まる。
「適性試験A」
「戦闘試験A」
「合格」
会場がどよめいた。
「やっぱりな」
「当然だろ」
「文句無しだ」
誰も異論を唱えない。
ガルスは何も言わない。
ただ静かに結果を聞いていた。
そして。
「グラン・ウォーカー」
グランは顔を上げた。
「適性試験C」
「戦闘試験D」
一瞬の静寂。
「合格」
小さなざわめきが広がる。
「まぁ妥当だな」
「戦闘は負けたしな」
「でも最後まで立ってた」
そんな声が聞こえる。
グランは小さく息を吐いた。
冒険者になれた。
ただそれだけで十分だった。
発表は続き。
やがて全員の結果が出揃う。
「不合格者は退場」
ロイドの声が響く。
悔しそうに唇を噛む者。
肩を落とす者。
何も言わず立ち去る者。
様々だった。
そして。
広場には合格者だけが残る。
その時だった。
ギルド本部の大扉が開く。
重厚な音が広場へ響いた。
全員の視線が自然と集まる。
一人の男が現れた。
五十代ほど。
大柄な体格。
顔や腕には無数の傷跡。
鋭い眼光。
ただ歩くだけで周囲の空気が変わる。
歴戦。
その一言で表せる男だった。
ロイドが一歩下がる。
男は受験者達の前へ立った。
「俺はアストリア冒険者ギルド長」
「バルド・グレイだ」
ざわめきが起こる。
アストリア冒険者ギルド。
その頂点に立つ男。
普段は滅多に姿を見せない人物だった。
バルドは全員を見渡した。
「まずは祝おう」
低くよく通る声。
「諸君は本日より冒険者だ」
歓声が上がる。
笑う者。
拳を握る者。
喜びを噛み締める者。
様々だった。
だが。
バルドは続ける。
「だが勘違いするな」
一言で空気が変わった。
歓声が止む。
「諸君は試験を突破しただけだ」
静寂。
「冒険者としての人生は今日から始まる」
誰も口を開かない。
「そして」
バルドは続けた。
「願いの塔を目指している者も多いだろう」
多くの合格者達が反応する。
当然だった。
この街へ来た理由の大半がそれだ。
「だが」
鋭い視線が全員へ向く。
「願いの塔は個人では挑戦できない」
ざわめきが起こった。
「塔への挑戦資格はクラン単位で与えられる」
静寂。
「クランに所属していない冒険者は塔へ入る事すら出来ない」
グランは僅かに目を見開いた。
初めて聞く話だった。
「理由は単純だ」
バルドは続ける。
「塔は一人で攻略できる場所ではない」
「これまで多くの愚か者が死んだ」
「だからルールが作られた」
その言葉には重みがあった。
実際に多くの死を見てきた者の声だった。
「明日の明朝」
「ギルド本部にてクラン勧誘会を行う」
合格者達の表情が変わる。
「参加は自由だ」
一度言葉を切る。
そして。
「だが」
バルドの口元が僅かに歪む。
「願いの塔を目指す者は必ず来い」
その声に迷いは無かった。
「以上だ」
バルドは背を向ける。
「諸君の健闘を祈る」
そう言い残し。
ギルド長は去っていった。
重い扉が閉まる。
静寂が残る。
先程までの喜びは消えていた。
代わりに。
新たな現実が目の前に現れている。
冒険者になっただけでは駄目だ。
願いの塔へ挑むには。
クランへ所属しなければならない。
「名前を呼ばれた者から前へ出ろ」
職員達が箱を運んできた。
合格者達が順番に呼ばれていく。
そして。
「グラン・ウォーカー」
グランは前へ出た。
職員が差し出したのは一枚の銅製プレートだった。
ひんやりと冷たい。
表面には名前が刻まれている。
――グラン・ウォーカー
その下には冒険者ギルドの紋章。
冒険者登録証。
冒険者である証だった。
グランはしばらく見つめる。
村を出た日。
折れた木剣。
初めての戦い。
ギルド試験。
様々な出来事が頭を過った。
まだ弱い。
まだ何者でもない。
それでも。
一歩だけ前へ進めた気がした。
グランは銅のプレートを握り締める。
明日はクラン勧誘会。
願いの塔への道は。
まだ始まったばかりだった。




