第47話 新たなPTメンバー②
居間へ足を踏み入れると、木の香りがふわりと鼻をくすぐった。
夕暮れの陽射しが窓から差し込み、古びた木の机を柔らかな橙色に照らしている。
壁には使い込まれた武器や盾。
磨かれた床。
派手さはない。
それでも、この場所で長い時間を過ごしてきた者たちの息遣いが感じられた。
「どうぞ」
ミリアが静かに湯飲みを差し出す。
「……ありがとう」
シファは少し戸惑いながら受け取った。
湯気が立ち上り、香ばしい茶葉の香りが鼻を抜ける。
(挨拶だけのつもりだったんだけどな……)
今日、グランと出会い、その日のうちにPTを組むことになった。
だから、一応所属クランへ顔を出した。
ただ、それだけ。
挨拶を済ませたら帰る。
そんな軽い気持ちだった。
それなのに。
気づけば椅子へ案内され、お茶をご馳走になっている。
シファは思わず小さく息を吐いた。
エルドが湯飲みを静かに置く。
「グラン」
「はい」
「PTとは、互いを信じることじゃ」
その一言だけだった。
グランは真っ直ぐ頷く。
「はい」
シファも静かに湯飲みへ視線を落とした。
互いを信じる。
簡単な言葉ほど難しい。
部屋に流れる静けさが、その言葉をゆっくり胸へ沈めていく。
やがて、台所から食欲を誘う香りが漂ってきた。
ミリアが穏やかに顔を上げる。
「夕食の準備ができました」
シファは立ち上がる。
「それじゃ、私は――」
「帰るなら止めん」
レイナが腕を組んだまま言った。
一拍置き、続ける。
「食うなら席はある」
ぶっきらぼうな声だった。
だが、不思議と突き放す響きではなかった。
シファは少しだけ困ったように笑う。
帰る理由はある。
けれど、断る理由も思い浮かばない。
グランを見る。
グランは何も勧めない。
ただ、静かに待っていた。
「……じゃあ」
シファは頭を軽く掻く。
「お言葉に甘える」
ミリアが嬉しそうに微笑み、食卓の支度を始める。
グランは少し慌てたように椅子を引いた。
「あっ……どうぞ」
「ありがと」
自然と口をついて出た言葉だった。
並べられていく皿から、温かな湯気が立ち上る。
挨拶だけのつもりだった。
それなのに、気づけば夕食をご馳走になることになっている。
シファは湯飲みをもう一度口元へ運んだ。
温かな湯気が頬を撫でる。
「……本当に、変な人たち」
誰にも聞こえないほど小さなその呟きは、立ち上る湯気とともに静かに消えていった。




