第46話 新たなPTメンバー①
夕暮れの光が、古びたクランハウスの玄関を優しく照らしていた。
木の扉がゆっくりと開く。
「おかえ――」
レイナの声が止まった。
グランの隣に立つ少女を見つめたまま、数秒。
静かな沈黙が流れる。
やがて、レイナは額に手を当てた。
「……PTメンバーを探せとは言った」
深いため息が漏れる。
「よりにもよって、お前を連れて来るとは思わなかった」
シファの眉がぴくりと動く。
「どういう意味よ、それ」
「そのままの意味だ」
「初対面なのに失礼ね」
「初対面だから言ってる」
火花が散るように視線がぶつかる。
「あ、あの……」
グランが恐る恐る口を開く。
「グラン」
「はい」
「今は黙ってろ」
「……はい」
素直に口を閉じるグラン。
その姿を見たシファは、小さく目を瞬かせた。
レイナの口調は厳しい。
それでも、グランは反発しない。
言葉にはしなくても、そこには長い時間をかけて築かれた信頼があった。
廊下の奥では、ミリアが静かに立っていた。
何も言わない。
ただ、シファを見ている。
杖を握る手。
立つ位置。
視線の動き。
わずかな重心の移り変わり。
(立ち姿に無駄はありません)
(ですが……誰かの隣で戦うより、一人で戦う癖が残っていますね)
その観察を、表情には一切出さない。
奥から、ゆっくりと足音が響いた。
「ほっほっほ」
穏やかな笑い声。
エルドだった。
白い髭を揺らしながら、ゆっくりと玄関まで歩いてくる。
シファは姿勢を正した。
「初めまして。夜猫の帳所属、シファ・サイクロードです」
深く頭を下げる。
エルドは静かに頷いた。
「夜猫の帳か」
「はい」
その名を聞くと、エルドはどこか懐かしそうに目を細めた。
「あそこの団長とは昔から面識があっての」
シファは少し驚いたように顔を上げる。
「団長をご存じなんですか?」
「うむ」
エルドは優しく笑った。
「昔から一本気な男じゃ」
そして、シファをゆっくり見つめる。
「……少し似ておる」
シファは照れくさそうに苦笑した。
「それ、褒められてるんですか?」
エルドは答えず、ただ楽しそうに笑う。
レイナは腕を組み直した。
「じいさんは人が良すぎる」
その視線が、再びグランへ向く。
「グラン」
「はい」
「お前が決めた相手だ」
短い沈黙。
「最後まで面倒を見ろ」
グランは真っ直ぐ頷いた。
「……はい」
その返事を聞き、シファは静かにグランを見る。
その言葉は、自分へ向けられたものではなかった。
グランへ託された言葉だった。
レイナは扉の横へ身体を寄せる。
「入れ」
ぶっきらぼうな声。
だが、拒絶ではない。
グランは小さく笑った。
「行きましょう」
シファは一つ頷く。
「……うん」
二人は並んで玄関をくぐる。
木の床が小さく軋んだ。
どこか懐かしい木の香り。
夕食の匂いが微かに漂ってくる。
知らない場所。
知らない人たち。
それでも、不思議と冷たい空気ではなかった。
後ろで扉が静かに閉まる。
その音を聞きながら、シファは無意識に杖を握り直した。




