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第41話 仲間探し

 朝の陽射しが、星塔の旅団の庭を優しく照らしていた。


 メイスが訓練柱を叩く。


 鈍い衝撃音が響き、グランはゆっくりと一歩下がった。


 肩で息をしながらも、初めてメイスを握った頃のように、武器の重さへ振り回されることはもうない。


「今日はそこまでだ。」


 レイナが短く告げた。


 グランはメイスを下ろし、深く頭を下げる。


「ありがとうございました。」


 縁側では、エルドが湯飲みを置き、穏やかに頷いた。


「グラン。」


「はい。」


「お前さんも初心者を卒業し、Fランクになった。」


 その言葉に、グランは静かに頷く。


「これまではレイナが教官として付き添い、安全を確保しながら塔へ潜ってきた。」


 エルドは優しい眼差しを向ける。


「じゃが、それも今日で一区切りじゃ。」


 グランは背筋を伸ばした。


「これからは自分で仲間を見つけ、自分で経験を積んでいくんじゃ。」


 レイナが腕を組む。


「あたしが隣にいて教えられることは教えた。これから先は仲間とぶつかって、仲間から学べ。」


「……はい。」


「ギルドへ行ってこい。」


 エルドが微笑む。


「仲間探しも、冒険者には欠かせん経験じゃ。」


 グランは力強く頷いた。


「行ってきます。」


 昼前の冒険者ギルドは、今日も活気に満ちていた。


 討伐帰りの冒険者が魔晶石を換金し、受付では依頼を受ける者たちが列を作る。


 武具の触れ合う音。


 酒場から漂う香ばしい匂い。


 賑やかな笑い声。


 その中を歩き、グランは募集掲示板の前で立ち止まった。


『前衛募集』


『回復魔法使い募集』


『探索役募集』


『経験者歓迎』


 一枚一枚、丁寧に目を通していく。


 どれも、自分には決め手がない。


 それでも、勇気を出して声を掛けた。


「あの……募集を見て来ました。」


 屈強な男が振り返る。


「武器は?」


「メイスです。」


「スキルは?」


 グランは小さく息を吸う。


「……ありません。」


 男は申し訳なさそうに苦笑した。


「悪い。今回は縁がなかった。」


「ありがとうございました。」


 頭を下げる。


 二組目。


 三組目。


 四組目。


 返ってくる言葉は違っても、結果は同じだった。


「悪いな。うちは駆け出しを育てる余裕がない。」


「前衛なら最低でもスキル持ちが欲しい。」


「メイス使いはもう足りてるんだ。」


「すまない。」


 断られるたび、胸の奥へ小さな重石が積み重なっていく。


 気付けば、夕陽がギルドの床を赤く染め始めていた。


(僕にできることは……。)


 メイスの技術も。


 盾の技術も。


 まだ仲間を安心させられるほどではない。


 スキルもない。


 自分を仲間へ迎える理由を、見つけられなかった。


 静かに踵を返そうとした、その時だった。


「敵は倒した。」


 凛とした少女の声が、ギルドに響いた。


「結果は出した。それの何が悪いの?」


 受付前で三人の冒険者と向かい合う、一人の少女。


 深い紺色のローブ。


 長い髪が揺れ、その指先には淡い魔力の光が揺らめいている。


 彼女の周囲だけ、空気がぴりりと張り詰めていた。


「結果だけじゃねぇ!」


 男が声を荒げた。


「お前の魔法で俺たちまで吹き飛ばされたんだ!」


「あの距離なら避けられたはずよ。」


「連携って言葉を知らねぇのか!」


「私は一番早く敵を倒せる方法を選んだだけ。」


 少女は一歩も引かない。


 その真っ直ぐすぎる物言いに、男は大きく息を吐いた。


「だから、お前とは組めない。」


 少女は少しだけ眉を動かした。


 悔しさか。


 怒りか。


 その表情はすぐに強気なものへ戻る。


「だったら最初から誘わなければよかったじゃない。」


 男たちは言葉に詰まる。


 受付嬢が困ったように声を掛けた。


「シファさん……。」


「何ですか?」


「皆さんのお話も、もう少し聞いていただけると……。」


「聞いたわ。」


 シファは淡々と答える。


「でも、私は間違ってない。」


 その一言に、周囲から小さなため息が漏れた。


「魔法の才能はあるんだけどな……。」


「あの性格じゃあな。」


「夜猫の帳も苦労してるらしい。」


「あそこ、また揉めてるのか。」


 そんな囁きが、グランの耳に届く。


 シファは募集掲示板の前へ歩いていく。


 だが、その姿を見ると、さっきまで募集をしていた冒険者たちは視線を逸らした。


 誰も声を掛けない。


 誰も仲間へ誘わない。


 シファは小さく鼻を鳴らし、黙って掲示板を見つめる。


 その横顔には、強気な表情の奥に、ほんのわずかな寂しさが滲んでいた。


 グランは、その姿から目を離せなかった。


 理由は違う。


 自分は実力が足りず選ばれない。


 彼女は実力があるのに選ばれない。


 それでも。


 誰にも必要とされず、その場に立ち尽くす姿だけは、どこか自分と重なって見えた。


 ふいに、シファが顔を上げる。


 二人の視線が交わる。


 ほんの一瞬。


 言葉は交わさない。


 シファは興味なさそうに視線を逸らすと、ローブを翻し、ギルドを後にした。


 夕焼けに染まるその背中を、グランは静かに見送る。


 まだ、この時のグランは知らない。


 あの日、ギルドで出会った一人の魔法使いが、自分の冒険を大きく変えていくことを。

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