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第34話 盾という答え

 翌朝。


 朝露の残る中庭で、グランは訓練用の木製メイスを握っていた。


 昨日、エルドから勧められた武器。


 まだ身体に馴染んだとは言えない。


 それでも、剣を握っていた頃とは違う感覚が、少しずつ身体の中へ溶け込み始めていた。


 向かいでは、レイナが木剣を肩へ担いでいる。


「構えろ」


「はい」


 グランは腰を落とし、静かに息を整えた。


「来い」


 地面を蹴る。


 踏み込みと同時に、木製メイスを横薙ぎに振り抜く。


 重い一撃。


 しかし、レイナは木剣を軽く添えただけで、その軌道を外へ流した。


 勢いを失ったメイスが大きく流れる。


 その隙を逃さず、木剣が胸元へ伸びた。


 グランは反射的にメイスの柄で受け止める。


 乾いた音が響き、衝撃が腕を駆け抜けた。


「止まれ」


 レイナが木剣を下ろす。


「今のが、お前の悪い癖だ」


「反射で受けてしまいました」


「ああ。剣の癖が抜けてねぇ」


 レイナは武器棚へ向かい、一枚の丸盾を持って戻る。


 革張りの、ごくありふれた丸盾だった。


「持て」


 左腕へ通す。


 派手さはない。


 だが、腕に吸い付くような安定感があった。


「覚えとけ」


 レイナは自分も盾を構える。


「メイスは殴る武器だ」


「守る役目まで背負わせるな」


 言葉が終わると同時に木剣が迫る。


「止めるな」


 グランは盾を前へ出した。


「違う」


 鋭い声が飛ぶ。


「流せ!」


 盾をわずかに傾ける。


 ガンッ。


 木剣は盾の表面を滑り、横へ逸れた。


 腕へ残る衝撃は驚くほど軽い。


「もう一回」


 再び木剣が迫る。


 盾で流す。


「今だ!」


 グランは踏み込む。


 腰を回し、足で地面を踏み締める。


 木製メイスが低く唸った。


 レイナは半歩だけ身を引く。


 風圧が頬をかすめ、猫耳がぴくりと揺れた。


「……悪くない」


 それだけ言うと、木剣を肩へ担ぐ。


「その借り物じゃ、この先は話にならん」


 グランは顔を上げた。


「ミリア、こいつを連れて行ってやってくれ」


 見守っていたミリアが一歩前へ出る。


「はい。お任せください」


 昼過ぎ。


 二人は街の武具店を訪れた。


 店内には武器や防具が整然と並び、鉄と革の匂いが漂っている。


 店主はグランを一目見ると、静かに問いかけた。


「探し物は」


「メイスです」


 店主は一本目を差し出した。


「振ってみな」


 グランは構え、振る。


 身体がわずかに前へ引っ張られる。


「重い」


 短い一言だった。


 二本目。


 軽く振り抜ける。


 だが、手応えがない。


「軽すぎる」


 三本目。


 握りが細く、力が逃げる。


「握りが合ってねぇ」


 店主は四本目を差し出した。


 飾り気のない黒鉄のメイス。


 グランは静かに握る。


 自然だった。


 柄が手のひらへ吸い付くように収まる。


 ゆっくり構える。


 踏み込む。


 振る。


 重さが腕だけではなく、腰から肩まで一本に繋がる。


 振り終えても姿勢は崩れない。


 もう一度。


 さらにもう一度。


 余計な力を入れなくても、武器が素直についてくる。


 店主は腕を組み、小さく頷いた。


「……決まりだな」


 続いて丸盾を並べる。


 何枚も腕へ通し、構え、外す。


 大きすぎれば動きが鈍る。


 小さすぎれば守りが足りない。


 最後に選んだ革張りの丸盾は、構えた瞬間から違和感がなかった。


 ミリアが嬉しそうに微笑む。


「自然に振れていましたよ」


「今までで一番、力が抜けていました」


 グランも小さく笑みを返す。


 店主はメイスと盾を見つめる。


「武器は長く付き合う相棒だ」


「手入れだけは怠るな」


「はい」


 力強く頷く。


 店を出ると、午後の日差しが新しいメイスを照らしていた。


 右手にはメイス。


 左腕には丸盾。


 どちらも、まだ使い込まれてはいない。


 それでも、その重みは不思議と心地よかった。


 グランは静かにメイスを握り直す。


 五層は、もうすぐそこだ。


 その先には、まだ見ぬ景色が待っている。

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