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第22話 初めての実戦

 ホーンラビットが地面を蹴った。


 一瞬で間合いが消える。


「っ!」


 グランは反射的に鉄の剣を振り下ろした。


 しかし。


 剣は虚しく空を切る。


 ホーンラビットは跳躍の途中で身をひねり、剣先をかわすと、そのまま横をすり抜けた。


「しまっ――」


 ドンッ!


 脇腹に強烈な衝撃が走る。


「ぐっ!」


 角による体当たりだった。


 グランの身体が浮き、草の上を転がる。


 肺の空気が一気に押し出され、息ができない。


 たった一撃。


 それだけで体勢を崩された。


「立て。」


 後方からレイナの声が飛ぶ。


 グランは歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がる。


 ホーンラビットは距離を取り、赤い瞳でじっとこちらを見据えていた。


 逃がさない。


 その意思だけが、ひしひしと伝わってくる。


(速い……。)


 父と狩りをした獣とはまるで違う。


 目の前にいるのは魔物。


 油断した相手を容赦なく仕留める存在だった。


 ホーンラビットが再び低く身を沈める。


 次の瞬間。


 再び弾丸のように飛び出した。


「はあっ!」


 グランは迎え撃つ。


 剣を振る。


 また当たらない。


 ホーンラビットは空中で軌道を変え、剣の届かない場所へ着地する。


 そして、その勢いのまま突進した。


 ガッ!


「くっ!」


 角が脛を切り裂く。


 焼けるような痛みが走り、グランは片膝をついた。


 血が草を濡らしていく。


「剣を振るな。」


 レイナの声は静かだった。


「当たる時だけ振れ。」


 グランは荒い息を整える。


 焦っていた。


 当てたい。


 倒したい。


 その思いばかりが先走り、相手の動きを見失っていた。


 深く息を吸う。


 剣を構え直す。


 視線は剣ではない。


 ホーンラビットだけを見る。


 耳が伏せられる。


 後ろ足に力が溜まる。


 肩がわずかに沈んだ。


(来る。)


 ホーンラビットが飛び出す。


 グランは剣を振らなかった。


 一歩だけ横へ踏み込む。


 角が頬のすぐ横をかすめていく。


 避けた。


 初めてだった。


 だが、反撃には届かない。


 ホーンラビットは着地すると、再び距離を取る。


「……そうだ。」


 レイナが小さく呟く。


「その目だ。」


 グランは剣を握り直した。


 息は乱れ、足の痛みも消えない。


 勝てる保証など、どこにもない。


 それでも。


 目の前で身構えるホーンラビットの動きは、最初よりほんの少しだけ見えるようになっていた。

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