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第15話 クラン試験

 夜風が静かに吹いていた。


 星塔の旅団の庭。


 空を見上げれば。


 無数の星が輝いている。


 その中央には。


 どこからでも見える巨大な塔。


 願いの塔。


 夜空を貫くように聳え立っていた。


 グランは思わず見上げる。


 村にいた頃から見ていた塔だ。


 だが。


 こうして近くで見ると違う。


 圧倒的だった。


 遥か高く。


 遥か遠い。


 頂など見えない。


 人が本当に辿り着けるのか。


 そう思わせるほどだった。


「綺麗じゃろ」


 不意にエルドが言った。


「はい」


 グランは頷く。


 エルドも塔を見上げる。


 しばらく二人は何も言わなかった。


 ただ。


 塔だけがそこにあった。


 夜空を貫くように。


 静かに。


 揺るがずに。


「さて」


 やがて。


 エルドが振り返る。


「クラン試験じゃ」


 グランは姿勢を正した。


「何をすればいいんですか?」


 エルドは少しだけ笑う。


「簡単じゃ」


 そして。


 ゆっくりと言った。


「諦めた人間を探して来い」


 グランは目を瞬かせる。


「諦めた人間……ですか?」


「そうじゃ」


 エルドは頷く。


「夢を諦めた者」


「塔を諦めた者」


「願いを失った者」


 夜風が吹く。


 静かな時間だった。


「何故諦めたのか」


「何を失ったのか」


「何を得たのか」


「自分の目で見て来い」


 グランは黙って聞いていた。


「そして」


 エルドは続ける。


「それでも諦めきれない人間がおるなら」


「その者も見て来い」


 静かな声だった。


「何故歩き続けるのか」


「何故立ち上がるのか」


「何故願いを捨てられないのか」


 グランは息を呑む。


 その言葉は。


 不思議なほど胸の奥へ届いた。


 父を失った日。


 母が病に倒れた日。


 何度も思った。


 冒険者になる夢なんて諦めようと。


 願いの塔なんて忘れようと。


 母が生きていてくれるなら。


 それで良かった。


 狩りをして。


 働いて。


 薬を買って。


 母を支える。


 それだけで良かった。


 夢など。


 とっくに捨てたつもりだった。


 だが。


 最後の日。


 母は微笑みながら言った。


『もう十分よ』


『これからは自分のために生きなさい』


 だから。


 ここにいる。


 だから。


 塔を目指している。


「試験の答えは何ですか?」


 グランは尋ねた。


 エルドは笑った。


「知らん」


 即答だった。


「え?」


「知らん」


 もう一度言う。


 レイナが小さく溜息を吐く。


 ミリアは苦笑していた。


 どうやらいつもの事らしい。


「儂は答えを持っとらん」


 エルドは肩を竦める。


「答えはお前さんが見つけるものじゃ」


 そして。


 再び願いの塔を見上げた。


「願いの塔はの」


 その声は静かだった。


「願いを叶える場所ではない」


 グランは顔を上げる。


 エルドは続ける。


「願いを試す場所じゃ」


 夜風が吹く。


 誰も言葉を発しない。


 ただ。


 塔だけがそこにあった。


 夜空を貫くように。


 静かに。


 揺るがずに。


「諦めた人間とは何か」


「それでも諦めきれない人間とは何か」


「探して来い」


「見つけて来い」


 そして。


 エルドはゆっくりと振り返った。


「自分の答えを持って帰って来い」


 グランは塔を見上げる。


 夜空を貫く巨大な塔。


 その頂は見えない。


 だが。


 今の自分には。


 その頂よりも遠いものがあった。


 答えだ。


 自分は何故塔を目指すのか。


 何故諦めなかったのか。


 何故ここまで来たのか。


 その答え。


 グランは静かに頷く。


「分かりました」


 エルドは満足そうに笑った。


「うむ」


「行って来い」


 こうして。


 グランのクラン試験が始まった。


 それは。


 剣を振る試験ではない。


 力を競う試験でもない。


 願いを知るための試験。


 そして。


 自分自身と向き合う試験だった。

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