この関係ほんとに友達なの…
日曜日。
待ち合わせ場所に着くと、すでに莉奈が大きく手を振っていた。
『由奈ー! こっちこっち!』
『おはよう、莉奈』
『おはよ! 今日はいっぱい遊ぼうね!』
『うん』
今日は、いつもの制服とは違う。
私服で友達と遊園地に来るなんて、中学の頃の私からしたら考えられないことだった。
少しして、美月と結衣もやってきた。
『お待たせ』
『おはよう』
『玲奈ちゃんは?』
『もう来てるよ』
結衣が指差した先を見る。
玲奈が少し離れたところで、静かにこちらを見ていた。
『おはよう』
『おはよう、玲奈』
五人が揃う。
莉奈がパンフレットを広げながら、楽しそうに言った。
『よーし! 今日は全部乗るよ!』
『全部は無理じゃない?』
美月が冷静に返す。
『じゃあ、乗れるだけ!』
『それならいい』
そんなやり取りを聞きながら、私は笑った。
今日はきっと、楽しい一日になる。
そんな気がした。
***
午前中は、いくつものアトラクションを回った。
莉奈が怖がる美月を無理やりジェットコースターに誘ったり、結衣が写真を撮ってくれたり。
玲奈は思っていたよりも遊園地を楽しんでいて、普段より少しだけ表情が柔らかかった。
『玲奈、これ一緒にやろ!』
『うん』
莉奈に誘われてゲームに挑戦する玲奈を見ながら、私は思わず笑ってしまう。
『玲奈って、意外と負けず嫌いなんだね』
『……そうかな』
『今、絶対本気だったよ』
『……ちょっとだけ』
そんな会話をしているうちに、お昼になった。
みんなで食事をして、午後もいくつかアトラクションを回る。
そして夕方。
最後に残ったのは、大きな観覧車だった。
『乗ろうよ!』
莉奈が言う。
『五人だから、一人余るね』
結衣が言うと、莉奈が少し考えてから笑った。
『じゃあ二人ずつで乗ろう!』
『私は一人でもいいけど』
玲奈が言う。
『だめー! せっかくだから二人で乗ろ!』
結局、くじ引きで組み合わせを決めることになった。
そして。
『……由奈と玲奈ちゃんだね』
『えっ』
思わず玲奈を見る。
玲奈も少し驚いた顔をしていた。
『じゃあ、行ってらっしゃーい!』
莉奈に背中を押されるようにして、私たちは観覧車へ向かった。
***
ゴンドラの扉が閉まる。
外の音が少し遠くなった。
二人きり。
さっきまで五人で騒いでいたから、余計に静かに感じる。
『……なんか、緊張するね』
私が言うと、玲奈が少し笑った。
『うん』
観覧車がゆっくりと動き始める。
窓の外を見ると、遊園地が少しずつ小さくなっていく。
『綺麗……』
『うん』
しばらく、二人で景色を眺めていた。
でも、沈黙は嫌じゃなかった。
玲奈といると、こういう静かな時間も不思議と落ち着く。
『由奈』
『なに?』
『今日は楽しい?』
『うん。すごく』
『よかった』
玲奈は窓の外を見ながら、小さく笑った。
『私も楽しい』
『玲奈も?』
『うん』
少しだけ間が空く。
玲奈がこちらを見る。
『……由奈と一緒に来られてよかった』
『……え?』
『ううん。なんでもない』
『そっか』
私はまた窓の外を見る。
どうしてだろう。
今の言葉が、妙に胸に残った。
少しして、玲奈が何か言おうとした。
『実はさ、私、由奈のこと――』
『……え?』
その瞬間だった。
ゴンドラが風を受けて、ふわっと揺れた。
『ひゃっ……!』
『わっ……!』
玲奈がバランスを崩す。
次の瞬間、玲奈がこちらに倒れ込んできた。
私はそのまま座席に押されるようにして、背中をつけた。
目の前に玲奈がいる。
近い。
さっきまで普通に話していた距離とは、まるで違う。
『…………』
『…………』
玲奈も動かない。
私も、どうしていいのか分からない。
ただ、心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
私は思わず視線を逸らした。
『……ご、ごめん』
玲奈が慌てて身体を起こす。
『う、ううん……大丈夫』
ようやく距離が戻る。
それなのに、私はしばらく玲奈のほうを見ることができなかった。
(……なんで、こんなに意識しちゃうんだろ)
友達なのに。
ただの友達だから。
そう思おうとするほど、胸の鼓動が気になってしまう。
『……さっきの話』
玲奈が小さく言った。
『え?』
『途中だったね』
『……うん』
玲奈は少しだけ黙った。
そして、
『……また今度、話す』
そう言った。
『そっか』
私はそれだけ返した。
観覧車はゆっくりと降りていく。
さっきまで綺麗だと思っていた景色も、今はあまり頭に入ってこない。
ただ隣にいる玲奈の存在だけが、妙に近く感じられた。
***
観覧車を降りると、莉奈たちが待っていた。
『おかえりー! どうだった?』
『楽しかったよ』
私はできるだけ普通に答えた。
玲奈も、
『うん』
と頷く。
『よかったー!』
莉奈は満足そうに笑った。
そのまま五人で帰ることになった。
帰り道、私はみんなと話しながらも、何度もさっきのことを思い出していた。
玲奈が言いかけた言葉。
観覧車が揺れた瞬間。
あまりにも近かった距離。
そして――。
自分が目を逸らしてしまったこと。
(……変なの)
私は小さく息を吐いた。
友達。
そう。
私たちは、友達だ。
だから、こんなことを気にする必要なんてない。
……そう思っているのに。
胸の奥に残ったドキドキだけは、なかなか消えてくれなかった。
第9話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、みんなで遊園地へ行くお話でした。
いつもとは少し違う場所で過ごすことで、由奈たちの距離も少しずつ変わってきたのかなと思います。
これから五人との関係がどう変わっていくのか、ゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです
次回もよろしくお願いします!




