この距離、なんて呼べばいいんだろう
月曜日。
昨日の遊園地の疲れが残っているのか、朝から少しだけ体が重かった。
それでも学校へ向かう足取りは、以前より軽い。
校門を抜けて教室へ向かう途中、スマホを見ると、昨日のグループメッセージには写真が何枚も送られていた。
『昨日の写真、めっちゃある!』
『誰か一番いいやつ選んでー!』
『私はこれ好き』
画面をスクロールしていると、観覧車の写真で指が止まった。
五人で写っている写真。
その中で、私は少し端に立っている。
昨日までなら、「ちゃんと笑えてるかな」とか、「変じゃないかな」とか、そんなことばかり気にしていたと思う。
でも、今は違った。
写真を見て、普通に笑ってしまった。
『……楽しかったな』
小さく呟いてから、教室へ入る。
『おはよー、由奈!』
一番に声をかけてきたのは莉奈だった。
『おはよう、莉奈』
『昨日楽しかったね! また行こうよ!』
『うん。今度は別のところも行きたい』
『じゃあ次は水族館!』
『気が早いな』
後ろから美月が言う。
『いいじゃん! 水族館!』
『私は賛成。静かなところのほうが好きだし』
結衣も会話に加わった。
三人の声を聞きながら、私は鞄を机の横に掛ける。
昨日のことを思い出してしまった。
観覧車の中。
玲奈が言いかけた言葉。
『実はさ、私、由奈のこと――』
そこから先は聞けなかった。
というより、聞くことができなかった。
あれから何度考えても、続きが分からない。
(……なんだったんだろう)
『由奈?』
『え?』
気づくと、結衣がこちらを見ていた。
『ぼーっとしてたけど、大丈夫?』
『う、うん。大丈夫』
『昨日疲れた?』
『ちょっとだけ』
そう答えると、莉奈が楽しそうに笑った。
『じゃあ今日はゆっくりしよ!』
『学校でどうやってゆっくりするの?』
美月が呆れたように言う。
そんなやり取りをしていると、教室の前を玲奈が通った。
一瞬だけ目が合う。
玲奈は少しだけ立ち止まって、それからこちらへ歩いてきた。
『……おはよう』
『お、おはよう、玲奈』
昨日のことを意識してしまって、少しだけ声が上ずった。
玲奈はそれに気づいたのか、気づいていないのか分からない。
ただ、私の隣に立って、小さく言った。
『昨日、楽しかったね』
『……うん』
『また、行こう』
『うん。行こう』
それだけだった。
それだけなのに、昨日より玲奈との距離が近くなったような気がした。
『あ、そうだ!』
莉奈が突然手を叩いた。
『今日の放課後、みんなで帰らない?』
『私は部活があるから途中までなら』
美月が答える。
『私も大丈夫』
結衣が続く。
玲奈は少し考えてから、
『……私も』
と頷いた。
『由奈は?』
『私も大丈夫』
答えてから、少しだけ笑う。
以前の私なら、こういう誘いにどう返せばいいのか分からなかった。
嬉しいのに、嬉しいと言うのが怖かった。
断られたらどうしよう。
迷惑だったらどうしよう。
そんなことばかり考えていた。
でも今は、違う。
『じゃあ、決まりね!』
莉奈が笑った。
放課後。
五人で校門を出る。
昨日の遊園地の話をしたり、次に行きたい場所を話したり。
特別なことは何もない。
ただ、一緒に歩いているだけ。
それなのに、ふと気づく。
私はもう、「誰かと帰る」ということを特別な出来事だと思わなくなっていた。
それが少し不思議だった。
駅へ向かう途中、信号で足を止める。
莉奈と美月、結衣が前で話している。
私は少し後ろ。
隣には玲奈。
赤信号を見ながら、玲奈がぽつりと言った。
『……昨日のこと、まだ気になってる?』
心臓が跳ねた。
『……え』
『観覧車』
『……うん』
玲奈は前を向いたまま続ける。
『ごめんね。途中で話せなくなって』
『ううん』
『でも、ちゃんと話すから』
『……いつ?』
思わず聞いてしまった。
玲奈は少しだけこちらを見る。
『もう少しだけ、待って』
『分かった』
信号が青になる。
みんなが歩き出す。
私も歩き出した。
だけど、さっきまでより少しだけ、玲奈との距離が気になった。
友達だから。
きっと、そうなんだと思う。
でも――。
昨日からずっと、胸の奥に残っているこの感覚を、私はまだ上手く説明できなかった。
(友達って……こんなに、相手のことが気になるものなのかな)
答えは、まだ分からない。
ただ一つ分かっているのは。
私たちの関係は、昨日までと少しだけ違ってしまったということだった。
第10話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、昨日の遊園地をきっかけに、由奈と玲奈の距離が少しだけ変わるお話でした。
「友達だから」で片づけられるような、でも少しだけ気になってしまう距離感。
由奈自身も、まだその気持ちに名前をつけられていません。
そして玲奈が観覧車で言いかけた言葉も、もう少しだけお待ちください。
これから五人との関係がどう変わっていくのか、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです
次回もよろしくお願いします!




