ちょっと…格好悪くても、
こんにちは、汐音 月風です。まだまだ初心者で、足りないとこあるかと思います。なのでアドバイスがあればくださいっ!お願いいたします。❀·̩͙꙳。
第7話を読みに来てくださって、ありがとうございます!
今回は、由奈の学校生活の中で起こる、ちょっとした出来事のお話です。
いつもの毎日の中で、少しずつ変わっていくものもあるのかもしれません。
それでは、第7話をどうぞ!
五時間目は体育だった。
黒板に書かれた文字を見た瞬間、私は小さくため息をついた。
――体育。
高校に入ってから何度目だろう。この時間だけは、どうしても好きになれそうにない。
『由奈、体育好き?』
隣の席から莉奈が聞いてくる。
『……苦手』
『私も!』
『莉奈はなんか得意そうだけど』
『全然だよ。走るの遅いし』
『この前、廊下走ってたじゃん』
『あれは急いでただけ!』
『それを走るって言うんだよ』
美月が淡々と突っ込む。
『美月は体育得意そう』
『普通』
『絶対うそ』
そんな話をしながら、私たちは体育館へ向かった。
今日の授業はバレーボールだった。
二人組になってパスの練習をするらしい。
先生が説明を終えると、あちこちで組ができていく。
『由奈、一緒にやろ!』
莉奈が手を上げる。
『うん』
私は少し安心して、莉奈と向かい合った。
『じゃあ、いくよー』
莉奈がボールを軽く投げてくる。
私は両腕を出した。
――次の瞬間。
ボールは私の腕に当たることなく、顔の横を通り過ぎていった。
『あっ』
ボールが体育館の床を跳ねる。
『……』
『……』
莉奈と目が合った。
『今のは、ノーカンね』
『ノーカンって何?』
『まだ準備できてなかったから』
『最初から準備してたよね』
『してない』
『してたよ』
『してない』
『してたって』
笑いながら莉奈がボールを拾う。
『もう一回!』
『うん』
今度こそ。
そう思って構える。
ボールが飛んでくる。
私は腕を出した。
パンッ。
今度はちゃんと当たった。
けれど、ボールは綺麗な軌道を描くことなく、体育館の天井へ向かって飛んでいった。
『……』
『……』
『由奈』
『何?』
『才能あるよ』
『絶対嘘』
莉奈が吹き出した。
私もつられて笑ってしまう。
『もう、莉奈!』
『ごめん、ごめん!』
体育館に笑い声が響いた。
その後も何度か練習したけれど、私は最後まで上手くできなかった。
一方、少し離れたところでは美月が綺麗にボールを返している。
『美月、上手……』
思わず見とれてしまう。
『小野寺、よそ見してるとボール来るぞ』
先生の声。
『え?』
振り返った瞬間。
ボールが飛んできた。
『わっ――』
避けようとして足がもつれる。
次の瞬間、私は体育館の床に尻もちをついていた。
ボールは私の頭の上を通り過ぎていった。
一瞬、体育館が静かになった気がした。
『……』
恥ずかしい。
顔が熱くなる。
『大丈夫?』
近くにいた美月が駆け寄ってきた。
『う、うん……大丈夫』
『立てる?』
『大丈夫だって』
私は急いで立ち上がった。
そのとき、どこかから小さな笑い声が聞こえた。
別に悪意があるわけじゃない。
ただ、転んだのだから笑ってしまう人がいるのも当然だ。
分かっている。
でも、胸の奥がざわついた。
中学生の頃。
教室で何か失敗したときも、周りが笑っていたことがあった。
そのとき私は、笑われるのが怖くて、できるだけ目立たないようにしていた。
間違えないように。
失敗しないように。
変なことを言わないように。
そうすれば、嫌われないと思っていた。
だから高校に入ってからも、なるべく失敗しないようにしていた。
可愛く見えるようにして。
明るく振る舞って。
ちゃんと笑って。
「今の、変じゃなかったかな」
そんなことばかり気にしていた。
『由奈』
美月の声で我に返る。
『……何?』
『足、大丈夫?』
『うん。ちょっと痛いけど平気』
『無理しないほうがいい』
『大丈夫だよ』
そう言って笑った。
でも、美月は少しだけ私の顔を見ていた。
『……そっか』
それ以上は何も言わなかった。
授業が終わる頃には、足の痛みもほとんどなくなっていた。
更衣室で着替えて教室に戻ると、莉奈が私の机の横で待っていた。
『由奈、大丈夫?』
『もう平気』
『本当に?』
『うん』
『よかった』
莉奈は安心したように笑う。
『でも、さっきの転び方は面白かった』
『やっぱり笑ってたんじゃん!』
『ごめん!』
『もう……』
私も笑った。
さっきまであんなに恥ずかしかったのに、今は少しだけどうでもよくなっていた。
五時間目が終われば、次は普通の授業だ。
そう思っていた。
けれど、六時間目が始まる直前。
美月が私の机の横に来た。
『これ』
差し出されたのは、小さな絆創膏だった。
『え?』
『さっき、膝擦ってたから』
見ると、制服のスカートから少しだけ見える膝に、小さな擦り傷ができていた。
『あ……』
『貼っといたほうがいい』
『ありがとう』
絆創膏を受け取る。
『……美月って、意外と優しいよね』
『意外とって何』
『いや、なんとなく』
『失礼』
そう言って、美月は自分の席に戻っていった。
私は絆創膏を見つめた。
それから、少しだけ笑った。
放課後。
今日は莉奈と一緒に帰る約束をしていた。
昇降口で待っていると、莉奈が走ってくる。
『ごめーん! 遅れた!』
『大丈夫』
『先生に捕まってた』
『何したの?』
『何もしてないよ!』
『本当に?』
『本当!』
二人で歩き出す。
しばらくして、莉奈が突然言った。
『ねえ、由奈』
『ん?』
『今日、体育で転んだときさ』
『……忘れて』
『まだ何も言ってないよ』
『絶対面白かったって言うじゃん』
『言おうと思った』
『ほら!』
笑いながら歩く。
『でもね』
莉奈が少しだけ真面目な声になった。
『由奈、あんまり気にしなくていいと思うよ』
『……え?』
『転んだくらい』
『うん』
『私なんて、去年もっとすごい転び方したし』
『そうなの?』
『階段三段くらい落ちた』
『危ないじゃん!』
『でも無傷だった』
『なんで……』
二人で笑った。
『だからさ』
莉奈が前を向いたまま言う。
『ちょっとくらい格好悪くても、別にいいんじゃない?』
私は何も言わなかった。
ただ、その言葉が妙に残った。
格好悪くてもいい。
失敗してもいい。
笑われてもいい。
中学生の頃の私は、そんなふうには思えなかった。
失敗したら嫌われる。
変なところを見られたら、離れていかれる。
だから、できるだけ完璧に見せようとしていた。
高校デビューだって、そうだった。
髪型を変えて、コンタクトにして、メイクを覚えて。
「今度こそ」
そう思っていた。
でも、本当に必要だったのは、見た目を変えることだけじゃなかったのかもしれない。
『由奈?』
『え?』
『ぼーっとしてた』
『ごめん』
『疲れた?』
『ううん』
私は笑った。
『ちょっと考え事してただけ』
『そっか』
莉奈はそれ以上聞かなかった。
ただ、歩く速度を少しだけ落としてくれた。
私はその隣を歩いた。
今日は体育で転んだ。
恥ずかしかった。
悔しかった。
でも、最後には笑えた。
それでいいのかもしれない。
完璧じゃなくても。
少しくらい格好悪くても。
そんな自分を見せても、一緒に帰ってくれる人がいる。
それだけで、今日は十分だった。
第7話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、由奈のちょっとした失敗をきっかけに、少しだけ違った一面を描いてみました。
いつも上手くできる必要なんてなくて、失敗したり、恥ずかしい思いをしたりしながら過ごすのも青春なのかなと思います。
由奈も少しずつ、肩の力を抜いて高校生活を楽しめるようになっていったらいいなと思っています。
次のお話も、ぜひよろしくお願いします!




