一人でいること…
こんにちは、汐音 月風です。
第6話を読みに来てくださって、ありがとうございます!
今回は、少しだけいつもと違うお話です。
高校生活の中で感じることや、ふと昔を思い出す瞬間。由奈の中にあるいろいろな気持ちを、ゆっくり描いてみました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第6話をどうぞ!
昼休みのチャイムが鳴った。
先生が教室を出ていくと、あちこちから椅子を動かす音や、友達を呼ぶ声が聞こえてくる。
『由奈、お昼食べよー!』
莉奈がいつものように声をかけてきた。
『うん』
私はお弁当を持って立ち上がる。
最近は、昼休みになると自然に三人で集まるようになっていた。美月も自分の席からやってきて、昨日と同じように机を寄せる。
『今日、卵焼きある?』
『あるよ』
『やった!』
『なんで莉奈が喜ぶの』
『由奈の卵焼き、美味しいから』
『まだ一回しか食べてないじゃん』
『一回食べれば分かるの!』
『ふふっ』
くだらない話をして、笑う。
それだけのことなのに、最近は昼休みが楽しみになっていた。
けれど、その日は少しだけ違った。
『あ、そうだ』
莉奈が突然、スマホを取り出した。
『今日、放課後どうする?』
『私は部活見に行くけど』
美月が答える。
『あ、そうだった』
『莉奈は?』
『私は友達と約束してるんだった』
『そっか』
『由奈は?』
『私は……まだ決めてない』
そう答えたときだった。
教室の後ろから、別の女の子が莉奈を呼んだ。
『莉奈ー! 今日一緒に帰るんでしょ?』
『あ、そうだった! ごめん、今行く!』
莉奈が振り返る。
『じゃあ由奈、また明日ね!』
『うん。また明日』
莉奈はそのまま友達のところへ走っていった。
美月も少しして、
『私も部活行ってくる』
と言って席を立った。
『うん。頑張ってね』
『由奈もまた明日』
『また明日』
気づけば、さっきまで賑やかだった机の周りには私一人だけが残っていた。
別に、何も悪いことは起きていない。
莉奈にも予定がある。
美月にも部活がある。
当たり前のことだ。
それなのに。
『……あ』
胸の奥が、ほんの少しだけ冷たくなった。
私は自分のお弁当を鞄にしまった。
教室に残っている人もいるけれど、みんなそれぞれ友達と話している。
誰かと一緒に食べなきゃいけないわけじゃない。
そう思って、私は教室を出た。
向かったのは、図書室だった。
中学の頃も、昼休みはよく図書室にいた。
あの頃の私は、最初から一人だったわけじゃない。
中学一年生の頃は、友達と一緒にお弁当を食べていた。
休み時間にくだらない話をして、放課後には一緒に帰った。
だから、いつから一人になったのか、今でもはっきりとは分からない。
ある日、突然全員がいなくなったわけじゃない。
少しずつだった。
『今日、一緒に帰らない?』
そう聞いたら、
『ごめん、今日は予定あるんだ』
と言われた。
次の日も、また別の日も。
いつの間にか、自分から誘うことが怖くなっていた。
「また断られたらどうしよう」
そう考えるだけで、声が出なくなった。
昼休みも、最初は教室にいた。
でも、周りが楽しそうに話している中で、自分だけ何もすることがない時間が苦しくなって、図書室へ逃げるようになった。
本を開いていれば、誰かに「一人なの?」と思われなくて済む気がした。
本当に読書が好きだった時期もある。
誰にも邪魔されない静かな場所で、好きな本を読む。
それは、それで悪くなかった。
窓際の席に座って、ページをめくっている時間だけは、自分が誰かに嫌われていることも、友達がいないことも忘れられた。
雨の日なんて、特に好きだった。
雨音が教室や廊下の音を全部包んでくれるから。
誰かの笑い声も、運動部の掛け声も、いつもより遠くに聞こえた。
そんな日は、一人でいることが少しだけ楽だった。
「一人って、意外と楽かも」
そう思ったこともある。
誰かの顔色を気にしなくていい。
帰りたいときに帰れる。
休みの日だって、自分の好きなことを好きなだけできる。
誰にも予定を合わせなくていい。
そう考えているうちに、本当に一人でいることに慣れていった。
――でも。
図書室で本を読んでいて、ふと顔を上げる。
窓の外では、友達同士で笑いながら歩いている子たちがいる。
その姿を見ると、胸が痛くなった。
羨ましかった。
楽しそうだった。
私もあっちに行きたかった。
でも、自分から行く勇気はなかった。
だからまた、本に目を戻す。
「別に、羨ましくなんかない」
何度も自分にそう言い聞かせた。
そのうち、本当にそう思えるようになった日もあった。
……たぶん。
思えるようになったふりをしていただけだったのかもしれない。
「……懐かしいな」
私は図書室の椅子に座りながら、ぼんやり窓の外を見た。
高校に入ってから、まだ一週間も経っていない。
それなのに、昔のことを思い出すことが増えた。
今まで忘れていたわけじゃない。
ただ、思い出さないようにしていただけだった。
私はスマホを取り出した。
通知はない。
当たり前だ。
莉奈は友達と帰っている。
美月は部活。
私は一人。
――それだけ。
なのに、なぜか少し寂しかった。
「……嫌だな」
自分でも驚くくらい、小さな声が出た。
中学の頃は、一人でいることに慣れていた。
一人で帰ることも、一人で休日を過ごすことも、何度もあった。
それなのに今は。
一人になると、前より寂しい。
どうしてだろう。
私はしばらく考えて、ようやく気づいた。
一度知ってしまったからだ。
誰かと一緒にいる楽しさを。
『由奈、おはよ!』
『今日も一緒に食べよ!』
『また明日ね』
そんな言葉を、知ってしまった。
だから、一人の時間が昔より寂しく感じるのかもしれない。
それは少し怖いことだった。
友達ができることは嬉しい。
でも、友達ができたからこそ、失うことが怖くなる。
私はスマホを握ったまま、深く息を吐いた。
「……考えすぎ」
そう呟いて、立ち上がる。
帰ろう。
今日は一人で帰ればいい。
そう思った。
校門を出て、いつもの道を歩く。
一人で歩く道は、静かだった。
でも、不思議と嫌ではなかった。
イヤホンをつけて、好きな曲を流す。
コンビニに寄って、気になっていた新しいお菓子を買う。
誰にも合わせなくていい。
自分の好きな速度で歩ける。
「……こういうのも、悪くないか」
思わず笑った。
一人でいることが全部嫌なわけじゃない。
寂しいこともある。
楽なこともある。
楽しいこともある。
そして、寂しくないふりをしていたこともある。
高校に入ってから、私は「一人になりたくない」とばかり思っていた。
でも、本当は違うのかもしれない。
一人の時間も嫌いじゃない。
ただ――。
「一人しかいない」のは、嫌だった。
その違いに気づいた瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
家に着く頃には、空が夕焼けに染まっていた。
スマホを見ると、莉奈からメッセージが届いていた。
『今日はごめんね! 明日は一緒に帰ろー!』
私は少し迷ってから、返信する。
『うん。楽しみにしてる』
送信して、スマホをしまった。
明日は一緒に帰る。
でも、今日は一人で帰った。
そのどちらも、今の私には大切だった。
高校生活は、まだ始まったばかり。
楽しい日もあれば、寂しい日もある。
誰かと笑える日もあれば、一人で静かに過ごしたい日もある。
きっと、それでいい。
私はそう思いながら、夕焼けの道を歩いた。
第6話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、由奈が一人で過ごした頃のことを少し思い出すお話でした。
「一人でいることは寂しい。でも、一人だからこそ気楽なこともある」
そんな由奈の中にある、ちょっと複雑な気持ちを描いてみました。
これからも、由奈の過去や今の高校生活を通して、いろいろな感情を少しずつ描いていけたらと思っています。
次のお話も、よろしくお願いします!




