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この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


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6/22

一人でいること…

こんにちは、汐音(しおね) 月風(るか)です。

第6話を読みに来てくださって、ありがとうございます!


今回は、少しだけいつもと違うお話です。


高校生活の中で感じることや、ふと昔を思い出す瞬間。由奈の中にあるいろいろな気持ちを、ゆっくり描いてみました。


楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、第6話をどうぞ!

昼休みのチャイムが鳴った。


先生が教室を出ていくと、あちこちから椅子を動かす音や、友達を呼ぶ声が聞こえてくる。


『由奈、お昼食べよー!』


莉奈がいつものように声をかけてきた。


『うん』


私はお弁当を持って立ち上がる。


最近は、昼休みになると自然に三人で集まるようになっていた。美月も自分の席からやってきて、昨日と同じように机を寄せる。


『今日、卵焼きある?』


『あるよ』


『やった!』


『なんで莉奈が喜ぶの』


『由奈の卵焼き、美味しいから』


『まだ一回しか食べてないじゃん』


『一回食べれば分かるの!』


『ふふっ』


くだらない話をして、笑う。


それだけのことなのに、最近は昼休みが楽しみになっていた。


けれど、その日は少しだけ違った。


『あ、そうだ』


莉奈が突然、スマホを取り出した。


『今日、放課後どうする?』


『私は部活見に行くけど』


美月が答える。


『あ、そうだった』


『莉奈は?』


『私は友達と約束してるんだった』


『そっか』


『由奈は?』


『私は……まだ決めてない』


そう答えたときだった。


教室の後ろから、別の女の子が莉奈を呼んだ。


『莉奈ー! 今日一緒に帰るんでしょ?』


『あ、そうだった! ごめん、今行く!』


莉奈が振り返る。


『じゃあ由奈、また明日ね!』


『うん。また明日』


莉奈はそのまま友達のところへ走っていった。


美月も少しして、


『私も部活行ってくる』


と言って席を立った。


『うん。頑張ってね』


『由奈もまた明日』


『また明日』


気づけば、さっきまで賑やかだった机の周りには私一人だけが残っていた。


別に、何も悪いことは起きていない。


莉奈にも予定がある。


美月にも部活がある。


当たり前のことだ。


それなのに。


『……あ』


胸の奥が、ほんの少しだけ冷たくなった。


私は自分のお弁当を鞄にしまった。


教室に残っている人もいるけれど、みんなそれぞれ友達と話している。


誰かと一緒に食べなきゃいけないわけじゃない。


そう思って、私は教室を出た。


向かったのは、図書室だった。


中学の頃も、昼休みはよく図書室にいた。


あの頃の私は、最初から一人だったわけじゃない。


中学一年生の頃は、友達と一緒にお弁当を食べていた。


休み時間にくだらない話をして、放課後には一緒に帰った。


だから、いつから一人になったのか、今でもはっきりとは分からない。


ある日、突然全員がいなくなったわけじゃない。


少しずつだった。


『今日、一緒に帰らない?』


そう聞いたら、


『ごめん、今日は予定あるんだ』


と言われた。


次の日も、また別の日も。


いつの間にか、自分から誘うことが怖くなっていた。


「また断られたらどうしよう」


そう考えるだけで、声が出なくなった。


昼休みも、最初は教室にいた。


でも、周りが楽しそうに話している中で、自分だけ何もすることがない時間が苦しくなって、図書室へ逃げるようになった。


本を開いていれば、誰かに「一人なの?」と思われなくて済む気がした。


本当に読書が好きだった時期もある。


誰にも邪魔されない静かな場所で、好きな本を読む。


それは、それで悪くなかった。


窓際の席に座って、ページをめくっている時間だけは、自分が誰かに嫌われていることも、友達がいないことも忘れられた。


雨の日なんて、特に好きだった。


雨音が教室や廊下の音を全部包んでくれるから。


誰かの笑い声も、運動部の掛け声も、いつもより遠くに聞こえた。


そんな日は、一人でいることが少しだけ楽だった。


「一人って、意外と楽かも」


そう思ったこともある。


誰かの顔色を気にしなくていい。


帰りたいときに帰れる。


休みの日だって、自分の好きなことを好きなだけできる。


誰にも予定を合わせなくていい。


そう考えているうちに、本当に一人でいることに慣れていった。


――でも。


図書室で本を読んでいて、ふと顔を上げる。


窓の外では、友達同士で笑いながら歩いている子たちがいる。


その姿を見ると、胸が痛くなった。


羨ましかった。


楽しそうだった。


私もあっちに行きたかった。


でも、自分から行く勇気はなかった。


だからまた、本に目を戻す。


「別に、羨ましくなんかない」


何度も自分にそう言い聞かせた。


そのうち、本当にそう思えるようになった日もあった。


……たぶん。


思えるようになったふりをしていただけだったのかもしれない。


「……懐かしいな」


私は図書室の椅子に座りながら、ぼんやり窓の外を見た。


高校に入ってから、まだ一週間も経っていない。


それなのに、昔のことを思い出すことが増えた。


今まで忘れていたわけじゃない。


ただ、思い出さないようにしていただけだった。


私はスマホを取り出した。


通知はない。


当たり前だ。


莉奈は友達と帰っている。


美月は部活。


私は一人。


――それだけ。


なのに、なぜか少し寂しかった。


「……嫌だな」


自分でも驚くくらい、小さな声が出た。


中学の頃は、一人でいることに慣れていた。


一人で帰ることも、一人で休日を過ごすことも、何度もあった。


それなのに今は。


一人になると、前より寂しい。


どうしてだろう。


私はしばらく考えて、ようやく気づいた。


一度知ってしまったからだ。


誰かと一緒にいる楽しさを。


『由奈、おはよ!』


『今日も一緒に食べよ!』


『また明日ね』


そんな言葉を、知ってしまった。


だから、一人の時間が昔より寂しく感じるのかもしれない。


それは少し怖いことだった。


友達ができることは嬉しい。


でも、友達ができたからこそ、失うことが怖くなる。


私はスマホを握ったまま、深く息を吐いた。


「……考えすぎ」


そう呟いて、立ち上がる。


帰ろう。


今日は一人で帰ればいい。


そう思った。


校門を出て、いつもの道を歩く。


一人で歩く道は、静かだった。


でも、不思議と嫌ではなかった。


イヤホンをつけて、好きな曲を流す。


コンビニに寄って、気になっていた新しいお菓子を買う。


誰にも合わせなくていい。


自分の好きな速度で歩ける。


「……こういうのも、悪くないか」


思わず笑った。


一人でいることが全部嫌なわけじゃない。


寂しいこともある。


楽なこともある。


楽しいこともある。


そして、寂しくないふりをしていたこともある。


高校に入ってから、私は「一人になりたくない」とばかり思っていた。


でも、本当は違うのかもしれない。


一人の時間も嫌いじゃない。


ただ――。


「一人しかいない」のは、嫌だった。


その違いに気づいた瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。


家に着く頃には、空が夕焼けに染まっていた。


スマホを見ると、莉奈からメッセージが届いていた。


『今日はごめんね! 明日は一緒に帰ろー!』


私は少し迷ってから、返信する。


『うん。楽しみにしてる』


送信して、スマホをしまった。


明日は一緒に帰る。


でも、今日は一人で帰った。


そのどちらも、今の私には大切だった。


高校生活は、まだ始まったばかり。


楽しい日もあれば、寂しい日もある。


誰かと笑える日もあれば、一人で静かに過ごしたい日もある。


きっと、それでいい。


私はそう思いながら、夕焼けの道を歩いた。

第6話、ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回は、由奈が一人で過ごした頃のことを少し思い出すお話でした。


「一人でいることは寂しい。でも、一人だからこそ気楽なこともある」


そんな由奈の中にある、ちょっと複雑な気持ちを描いてみました。


これからも、由奈の過去や今の高校生活を通して、いろいろな感情を少しずつ描いていけたらと思っています。


次のお話も、よろしくお願いします!

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