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この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


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4/22

少しずつ、ちょっとずつ…

こんにちは、汐音(しおね) 月風(るか)です!

第4話を読みに来てくださって、ありがとうございます!


今回は、由奈の高校生活が少しずつ変わっていくお話です。


まだまだ始まったばかりの高校生活。由奈がどんな毎日を過ごしていくのか、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです


それでは、第4話をどうぞ!

入学してから、まだ数日しか経っていない。


それなのに、私の中では少しだけ時間の流れが変わったような気がしていた。


朝、教室に入ると『おはよう』と言ってくれる人がいる。席に座れば、後ろから声をかけてくれる人がいる。休み時間になれば、昨日の続きを話せる相手がいる。


中学生の頃には、当たり前だったこと。


でも、私にとってはずっと遠くにあったものだった。


『由奈、おはよー!』


教室に入った瞬間、聞き慣れてきた声が飛んできた。


『お、おはよう、莉奈ちゃん』


『もう、莉奈でいいってば!』


水野莉奈は、そう言って笑った。


小柄で、いつも明るくて、教室のどこにいても自然と目に入る。まだ知り合って数日なのに、ずっと前から友達だったような感覚さえあった。


『今日ね、朝から眠いのー』


『それ、昨日も言ってなかった?』


私がそう返すと、莉奈は少しだけ頬を膨らませた。


『だって眠いんだもん』


『ふふっ』


思わず笑ってしまう。


すると、後ろから声がした。


『朝から楽しそうだね』


振り返ると、美月が立っていた。


長い黒髪を整えながら、いつもの落ち着いた表情でこちらを見る。


『美月、おはよ!』


『おはよう、莉奈』


『由奈もおはよう』


『うん、おはよう』


そんな何気ないやり取りをしているだけなのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。


私は今、ちゃんと友達と朝の挨拶をしている。


それだけのことが、嬉しかった。


『そうだ、今日のお昼どうする?』


莉奈が机に手をついて、私たちを見る。


『また三人で食べよ!』


『私はいいよ』


美月がすぐに答える。


『由奈は?』


『私も……もちろん』


『やった!』


莉奈が嬉しそうに笑った。


その笑顔を見ながら、私は小さく息を吐いた。


高校に入る前、私はずっと考えていた。


今度こそ、友達を作らなきゃ。


一人にならないようにしなきゃ。


嫌われないようにしなきゃ。


そんなことばかり考えていた。


でも、実際に友達ができてみると、思っていたよりもずっと普通だった。


一緒に笑って、話して、くだらないことを言って。


それだけでよかった。


――私、ちゃんと高校生活を始められてるのかもしれない。


そう思った。


昼休み。


いつものように三人で机を寄せて、お弁当を広げる。


『由奈のお弁当、今日も美味しそう』


『普通だよ?』


『その普通が美味しそうなの!』


莉奈は私のお弁当を覗き込みながら、楽しそうに言った。


『莉奈のは?』


『じゃーん!』


蓋を開けると、色とりどりのおかずが並んでいた。


『……すごい』


『でしょ?』


『これ、自分で作ったの?』


美月が尋ねる。


『ううん。お母さん』


『だと思った』


『なんで!?』


二人のやり取りを見て、また笑ってしまった。


こういう時間が楽しい。


昨日もそうだった。


一昨日も。


ほんの数日前まで、私は高校で一人になることばかり考えていたのに。


今は、明日もこうして三人でお昼を食べられたらいいなと思っている。


そんなふうに思える自分が、少し不思議だった。


『そういえばさ』


莉奈が箸を止める。


『この前言ってたんだけど、由奈って料理する?』


『料理? 少しだけかな』


『私、全然できないんだよねー』


『卵焼きくらいなら簡単だよ』


『じゃあ今度教えて!』


『え?』


『由奈先生!』


『ふふっ、先生って……』


『だって由奈、なんか料理できそうだもん』


『そうかな』


そんな話をしていると、教室の前のほうから声が聞こえてきた。


『水野さん、これ職員室に持っていってもらえる?』


『あ、はーい!』


莉奈が返事をして立ち上がる。


そのとき、教室の入り口に一人の女の子が立っていた。


長い髪を後ろに流し、柔らかい雰囲気をまとっている。


見た瞬間、綺麗だと思った。


でも、それだけじゃない。


どこか安心するような、落ち着いた空気があった。


『莉奈、そのプリントなら私が持っていくよ』


『え? いいの?』


『うん。ついでだから』


『ありがと、結衣!』


桜井結衣。


その名前を聞いたのは、このときが初めてだった。


『じゃあお願い!』


『任せて』


結衣は笑って、プリントを受け取った。


そのまま教室を出ようとしたところで、ふと私たちのほうを見る。


『あれ?』


『どうしたの?』


莉奈が聞く。


『この子、新しく友達になったって言ってた子?』


『そうそう! 小野寺由奈ちゃん!』


突然名前を出されて、少しだけ緊張した。


『は、初めまして。小野寺由奈です』


『初めまして。桜井結衣です』


結衣は優しく笑った。


『莉奈から話は聞いてるよ』


『えっ、何を!?』


私より先に莉奈が反応する。


『新しく友達ができたって、嬉しそうに話してた』


『もう! 言わなくていいのにー!』


『ふふ』


結衣が笑う。


その笑顔を見て、私は少しだけ肩の力が抜けた。


『じゃあ、またね』


『うん、またねー!』


結衣が教室を出ていく。


『結衣って優しいでしょ?』


莉奈が嬉しそうに言った。


『うん。なんか……すごく大人っぽい』


『そうなの! 料理もめっちゃ上手なんだよ!』


『へえ……』


『今度お菓子作ってきてもらおうかな』


『自分で頼みなよ』


美月が呆れたように言う。


『えー、美月も食べたいでしょ?』


『……まあ』


『ほら!』


三人で笑う。


私はその光景を眺めながら、少しだけ不思議な気持ちになっていた。


まだ数日しか経っていないのに、こうして新しい人と話す機会が増えている。


友達の友達。


そのまた友達。


そうやって、人との繋がりが少しずつ広がっていく。


中学生の頃には、途中から完全に途切れてしまったものだった。


だからこそ、今の私はその一つ一つを大切にしたかった。


放課後。


帰り支度をしていると、莉奈が私の机までやってきた。


『由奈、一緒に帰ろ!』


『うん』


『美月も!』


『いいよ』


三人で教室を出る。


廊下を歩いていると、少し前に結衣の姿が見えた。


『結衣ー!』


莉奈が手を振る。


結衣も振り返った。


『あ、三人とも今帰り?』


『そう!』


『じゃあ途中まで一緒に帰ろうかな』


『やった!』


気づけば、四人で歩いていた。


まだ四人で集まっているというほどではない。


ただ、帰る方向が少し同じだったから、一緒に歩いているだけ。


それなのに私は、何度も周りを見てしまった。


四人で歩いている。


それがなんだか嬉しかった。


『由奈、高校楽しい?』


隣を歩いていた結衣が、ふいに聞いてきた。


『え?』


『まだ始まったばかりだけど』


私は少し考えた。


楽しい。


そう答えるのは簡単だった。


でも、胸の奥にはまだ少しだけ怖さが残っている。


いつまでこの関係が続くんだろう。


また突然、誰かが離れていったら。


そんな考えが頭をよぎった。


それでも私は笑った。


『……うん。楽しいよ』


『そっか』


結衣はそれ以上、何も聞かなかった。


ただ、優しく笑ってくれた。


そのことが、なぜか嬉しかった。


家に帰ってから、私はベッドの上でスマホを眺めていた。


通知欄には、莉奈からメッセージが届いている。


『今日は楽しかったー! 明日もお昼一緒に食べよ!』


その下には、美月からも短いメッセージがあった。


『また明日』


たったそれだけ。


でも、私は何度も画面を見返した。


『……また明日、か』


その言葉が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。


スマホを胸元に置いて、天井を見る。


私はまだ、高校生活を始めたばかりだ。


友達だって、まだ少ない。


それでも。


昨日より今日。


今日より明日。


少しずつ、何かが増えていく。


そう思えた。


その頃。


誰もいなくなった教室で、一人の少女が窓の外を眺めていた。


白石玲奈。


彼女の視線の先には、もう誰もいない。


それでも、さっきまでそこにいた少女のことが頭から離れなかった。


小野寺由奈。


どうしてなのかは、まだ分からない。


ただ、あの子を見ていると、胸の奥に引っかかるものがある。


どこかで見たことがあるような気がする。


でも、思い出せない。


『……どこで、会ったんだろう』


小さく呟いた声は、誰もいない教室に消えていった。

第4話、ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回は、由奈の高校生活が少しずつ広がっていくお話でした。


こうやって少しずつ友達が増えていく時間って、振り返ってみるとすごく大切だったりしますよね。


由奈もまだまだ始まったばかりの高校生活。これからどんな毎日になっていくのか、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。


次のお話も、ぜひよろしくお願いします!

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