少しずつ、ちょっとずつ…
こんにちは、汐音 月風です!
第4話を読みに来てくださって、ありがとうございます!
今回は、由奈の高校生活が少しずつ変わっていくお話です。
まだまだ始まったばかりの高校生活。由奈がどんな毎日を過ごしていくのか、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです
それでは、第4話をどうぞ!
入学してから、まだ数日しか経っていない。
それなのに、私の中では少しだけ時間の流れが変わったような気がしていた。
朝、教室に入ると『おはよう』と言ってくれる人がいる。席に座れば、後ろから声をかけてくれる人がいる。休み時間になれば、昨日の続きを話せる相手がいる。
中学生の頃には、当たり前だったこと。
でも、私にとってはずっと遠くにあったものだった。
『由奈、おはよー!』
教室に入った瞬間、聞き慣れてきた声が飛んできた。
『お、おはよう、莉奈ちゃん』
『もう、莉奈でいいってば!』
水野莉奈は、そう言って笑った。
小柄で、いつも明るくて、教室のどこにいても自然と目に入る。まだ知り合って数日なのに、ずっと前から友達だったような感覚さえあった。
『今日ね、朝から眠いのー』
『それ、昨日も言ってなかった?』
私がそう返すと、莉奈は少しだけ頬を膨らませた。
『だって眠いんだもん』
『ふふっ』
思わず笑ってしまう。
すると、後ろから声がした。
『朝から楽しそうだね』
振り返ると、美月が立っていた。
長い黒髪を整えながら、いつもの落ち着いた表情でこちらを見る。
『美月、おはよ!』
『おはよう、莉奈』
『由奈もおはよう』
『うん、おはよう』
そんな何気ないやり取りをしているだけなのに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
私は今、ちゃんと友達と朝の挨拶をしている。
それだけのことが、嬉しかった。
『そうだ、今日のお昼どうする?』
莉奈が机に手をついて、私たちを見る。
『また三人で食べよ!』
『私はいいよ』
美月がすぐに答える。
『由奈は?』
『私も……もちろん』
『やった!』
莉奈が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ながら、私は小さく息を吐いた。
高校に入る前、私はずっと考えていた。
今度こそ、友達を作らなきゃ。
一人にならないようにしなきゃ。
嫌われないようにしなきゃ。
そんなことばかり考えていた。
でも、実際に友達ができてみると、思っていたよりもずっと普通だった。
一緒に笑って、話して、くだらないことを言って。
それだけでよかった。
――私、ちゃんと高校生活を始められてるのかもしれない。
そう思った。
昼休み。
いつものように三人で机を寄せて、お弁当を広げる。
『由奈のお弁当、今日も美味しそう』
『普通だよ?』
『その普通が美味しそうなの!』
莉奈は私のお弁当を覗き込みながら、楽しそうに言った。
『莉奈のは?』
『じゃーん!』
蓋を開けると、色とりどりのおかずが並んでいた。
『……すごい』
『でしょ?』
『これ、自分で作ったの?』
美月が尋ねる。
『ううん。お母さん』
『だと思った』
『なんで!?』
二人のやり取りを見て、また笑ってしまった。
こういう時間が楽しい。
昨日もそうだった。
一昨日も。
ほんの数日前まで、私は高校で一人になることばかり考えていたのに。
今は、明日もこうして三人でお昼を食べられたらいいなと思っている。
そんなふうに思える自分が、少し不思議だった。
『そういえばさ』
莉奈が箸を止める。
『この前言ってたんだけど、由奈って料理する?』
『料理? 少しだけかな』
『私、全然できないんだよねー』
『卵焼きくらいなら簡単だよ』
『じゃあ今度教えて!』
『え?』
『由奈先生!』
『ふふっ、先生って……』
『だって由奈、なんか料理できそうだもん』
『そうかな』
そんな話をしていると、教室の前のほうから声が聞こえてきた。
『水野さん、これ職員室に持っていってもらえる?』
『あ、はーい!』
莉奈が返事をして立ち上がる。
そのとき、教室の入り口に一人の女の子が立っていた。
長い髪を後ろに流し、柔らかい雰囲気をまとっている。
見た瞬間、綺麗だと思った。
でも、それだけじゃない。
どこか安心するような、落ち着いた空気があった。
『莉奈、そのプリントなら私が持っていくよ』
『え? いいの?』
『うん。ついでだから』
『ありがと、結衣!』
桜井結衣。
その名前を聞いたのは、このときが初めてだった。
『じゃあお願い!』
『任せて』
結衣は笑って、プリントを受け取った。
そのまま教室を出ようとしたところで、ふと私たちのほうを見る。
『あれ?』
『どうしたの?』
莉奈が聞く。
『この子、新しく友達になったって言ってた子?』
『そうそう! 小野寺由奈ちゃん!』
突然名前を出されて、少しだけ緊張した。
『は、初めまして。小野寺由奈です』
『初めまして。桜井結衣です』
結衣は優しく笑った。
『莉奈から話は聞いてるよ』
『えっ、何を!?』
私より先に莉奈が反応する。
『新しく友達ができたって、嬉しそうに話してた』
『もう! 言わなくていいのにー!』
『ふふ』
結衣が笑う。
その笑顔を見て、私は少しだけ肩の力が抜けた。
『じゃあ、またね』
『うん、またねー!』
結衣が教室を出ていく。
『結衣って優しいでしょ?』
莉奈が嬉しそうに言った。
『うん。なんか……すごく大人っぽい』
『そうなの! 料理もめっちゃ上手なんだよ!』
『へえ……』
『今度お菓子作ってきてもらおうかな』
『自分で頼みなよ』
美月が呆れたように言う。
『えー、美月も食べたいでしょ?』
『……まあ』
『ほら!』
三人で笑う。
私はその光景を眺めながら、少しだけ不思議な気持ちになっていた。
まだ数日しか経っていないのに、こうして新しい人と話す機会が増えている。
友達の友達。
そのまた友達。
そうやって、人との繋がりが少しずつ広がっていく。
中学生の頃には、途中から完全に途切れてしまったものだった。
だからこそ、今の私はその一つ一つを大切にしたかった。
放課後。
帰り支度をしていると、莉奈が私の机までやってきた。
『由奈、一緒に帰ろ!』
『うん』
『美月も!』
『いいよ』
三人で教室を出る。
廊下を歩いていると、少し前に結衣の姿が見えた。
『結衣ー!』
莉奈が手を振る。
結衣も振り返った。
『あ、三人とも今帰り?』
『そう!』
『じゃあ途中まで一緒に帰ろうかな』
『やった!』
気づけば、四人で歩いていた。
まだ四人で集まっているというほどではない。
ただ、帰る方向が少し同じだったから、一緒に歩いているだけ。
それなのに私は、何度も周りを見てしまった。
四人で歩いている。
それがなんだか嬉しかった。
『由奈、高校楽しい?』
隣を歩いていた結衣が、ふいに聞いてきた。
『え?』
『まだ始まったばかりだけど』
私は少し考えた。
楽しい。
そう答えるのは簡単だった。
でも、胸の奥にはまだ少しだけ怖さが残っている。
いつまでこの関係が続くんだろう。
また突然、誰かが離れていったら。
そんな考えが頭をよぎった。
それでも私は笑った。
『……うん。楽しいよ』
『そっか』
結衣はそれ以上、何も聞かなかった。
ただ、優しく笑ってくれた。
そのことが、なぜか嬉しかった。
家に帰ってから、私はベッドの上でスマホを眺めていた。
通知欄には、莉奈からメッセージが届いている。
『今日は楽しかったー! 明日もお昼一緒に食べよ!』
その下には、美月からも短いメッセージがあった。
『また明日』
たったそれだけ。
でも、私は何度も画面を見返した。
『……また明日、か』
その言葉が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
スマホを胸元に置いて、天井を見る。
私はまだ、高校生活を始めたばかりだ。
友達だって、まだ少ない。
それでも。
昨日より今日。
今日より明日。
少しずつ、何かが増えていく。
そう思えた。
その頃。
誰もいなくなった教室で、一人の少女が窓の外を眺めていた。
白石玲奈。
彼女の視線の先には、もう誰もいない。
それでも、さっきまでそこにいた少女のことが頭から離れなかった。
小野寺由奈。
どうしてなのかは、まだ分からない。
ただ、あの子を見ていると、胸の奥に引っかかるものがある。
どこかで見たことがあるような気がする。
でも、思い出せない。
『……どこで、会ったんだろう』
小さく呟いた声は、誰もいない教室に消えていった。
第4話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、由奈の高校生活が少しずつ広がっていくお話でした。
こうやって少しずつ友達が増えていく時間って、振り返ってみるとすごく大切だったりしますよね。
由奈もまだまだ始まったばかりの高校生活。これからどんな毎日になっていくのか、ゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。
次のお話も、ぜひよろしくお願いします!




