いつも明るい君のこと。
月曜日の昼休み。
『由奈ー! 今日、一緒に購買行こ!』
お弁当を取り出そうとしていた私は、莉奈の声に顔を上げた。
『購買? お弁当は?』
『今日はお弁当作るのサボっちゃった!』
『サボったって……』
『だって、朝起きたらあと十分しかなかったんだもん!』
『それ、間に合ったの?』
『間に合ったよ! 髪の毛だけはちゃんとした!』
莉奈は得意げに笑った。
美月が隣から小さくため息をつく。
『その十分で髪を整える前に、朝ご飯を食べなさい』
『美月ママだ……』
『誰がママよ』
二人のやり取りに、私は吹き出した。
結局、私もお弁当を持って購買についていくことにした。莉奈は焼きそばパンといちごミルクを買い、満足そうに袋を抱えている。
『由奈は何買うの?』
『私は飲み物だけ』
『えー、せっかくだから何か買おうよ! 半分こしよ!』
『もう焼きそばパン買ったじゃん』
『だから半分こ!』
『理屈が分からないんだけど』
『いいからいいから!』
押し切られる形で、私は小さなチョコパンを一つ買った。
教室に戻る途中、莉奈が急に歩く速度を落とした。
『……ねえ、由奈』
『ん?』
『私って、うるさい?』
思いがけない質問に、足が止まりかけた。
『え? なんで?』
『いや、なんとなく!』
いつもの明るい笑顔。でも、さっきまでとは少し違って見えた。
『……うるさいって思ったことはあるよ』
『えっ! ひどい!』
『だって、声大きいし』
『うわーん、美月に言いつけてやる!』
『でも』
私は笑いながら続けた。
『莉奈が静かだったら、逆に心配するかも』
莉奈が目を丸くする。
『……ほんと?』
『うん。莉奈がいると、みんな話しやすいし』
『……そっか』
莉奈は少しだけ視線を落としたあと、すぐにいつもの顔に戻った。
『じゃあ、これからもいっぱい話しかけるね!』
『ほどほどにね』
『えー!』
教室に戻ると、結衣が私たちを見て笑った。
『二人とも、仲いいね』
『でしょー!』
莉奈が胸を張る。
私はその横で、買ったチョコパンの袋を開けた。
いつも明るくて、誰とでもすぐに仲良くなれる莉奈。
私がこの輪の中に入れたのも、莉奈が何度も声をかけてくれたからだ。
だから、莉奈は寂しくなることなんてないんだと思っていた。
でも、さっきの質問が少しだけ引っかかっていた。
うるさいかどうか。
そんなことを、わざわざ聞く理由があるんだろうか。
放課後、帰り支度をしていると、莉奈が私の机にやってきた。
『由奈、今日一緒に帰れる?』
『うん。大丈夫だよ』
『やった!』
昇降口を出て、二人で駅まで歩く。
途中、莉奈がコンビニの新作スイーツを見つけて騒いだり、道端の猫に話しかけたりする。私はそのたびに笑って、莉奈はさらに楽しそうに話した。
駅に着くころには、さっきの質問のことも忘れかけていた。
別れ際、莉奈がふいに言った。
『由奈と二人で帰るの、なんかいいね』
『いつもみんなで帰ってるもんね』
『うん。みんなといるのも好きだけどさ』
莉奈は少し考えてから、笑った。
『二人だと、いつもよりいっぱい話せる気がする!』
『……そうなの?』
『そうなの!』
大げさなくらい元気な返事だった。
けれど、その笑顔を見ながら、私は思った。
みんなといるときの莉奈も、二人きりの莉奈も、どちらも本当の莉奈なんだろう。
私はまだ、その全部を知らない。
『じゃあ、また明日ね!』
『うん。また明日』
手を振って別れたあと、私は少しだけ振り返った。
莉奈はもう、改札の向こうに消えていた。
明るい人にも、考えることはある。
当たり前なのに、私はそれをちゃんと分かっていなかったのかもしれない。
そう思いながら、私は家へ向かった。
明日は、誰の知らない顔を知ることになるんだろう。




