↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/22

2人きりだと…少し、

土曜日の午後。


今日は珍しく、莉奈から連絡が来ていなかった。


六人のグループには昨日の夜からいくつかメッセージが届いているけれど、今日はそれぞれ予定があるらしい。


私は家で課題を片付けてから、近所の本屋へ向かうことにした。


一人で出かけるのは嫌いじゃない。


むしろ、気楽で好きなほうだ。


好きなものを好きなだけ見て、疲れたら帰る。誰かに合わせる必要もない。


中学の頃も、休日はそんなふうに過ごしていた。


ただ――最近は、一人でいる時間が少し増えると、みんなのことを思い出すようになった。


本屋に着いて、適当に棚を見ていると、


『……あれ? 由奈?』


聞き覚えのある声。


振り返ると、そこには美月がいた。


『美月?』


『やっぱり由奈だ』


制服じゃない美月を見るのは初めてだった。


白いシャツに薄い色のカーディガン。髪も学校にいるときより少しだけラフに下ろしている。


『なんか……新鮮』


『それ、こっちの台詞』


『え?』


『由奈も私服だと雰囲気違う』


『そ、そう?』


『うん。似合ってる』


さらっと言われて、どう返せばいいのか分からなくなる。


『……ありがとう』


『何見てたの?』


『漫画』


『意外』


『なんで?』


『もっと真面目な本読んでそう』


『それ、美月のほうじゃない?』


『確かに』


二人で笑った。


そのあと、美月が本屋に来た理由を聞くと、参考書を探しているらしい。


『じゃあ、邪魔しちゃ悪いね』


『別にいいよ』


『でも勉強の邪魔になるでしょ』


『由奈といるほうが楽しいし』


『……え?』


美月は首を傾げた。


『何か変なこと言った?』


『いや……』


私は目を逸らした。


学校ではいつも五人と一緒にいる。


だから、二人きりになることなんてほとんどなかった。


でも今は、美月と二人しかいない。


それだけで、いつもと少し違って見える。


『ねえ、由奈』


『なに?』


『このあと、時間ある?』


『あるけど』


『じゃあ、少しだけ一緒に歩かない?』


『……うん』


本屋を出る。


特に目的地があるわけじゃない。


ただ駅前を歩いて、途中の公園で少し休んだ。


『六人でいるのも楽しいけど』


美月がベンチに座りながら言った。


『こういうのも悪くないね』


『……うん』


私も隣に座る。


少しだけ間を空けて。


それでも、前よりその距離が気にならなかった。


『由奈ってさ』


『うん?』


『六人の中だと、一番無理してない気がする』


思わず美月を見る。


『……私が?』


『うん』


美月は少し考えてから続けた。


『最初はもっと緊張してたでしょ』


『……してた』


『今は、ちゃんと笑ってる』


その言葉に、胸の奥が小さく揺れた。


私は笑う。


『みんながいるからかな』


美月も笑った。


『そっか』


夕方の風が吹く。


それ以上、特別なことは話さなかった。


でも帰り道、私は何度も思い出していた。


――二人きりだと、こんなふうに話せるんだ。


知らなかった。


美月にも。


私にも。


まだ知らない顔が、たくさんあるみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
高校入学を機に出会った仲間たちのおかげで、由奈が少しずつ変わっていく姿が微笑ましく、とても印象的でした。莉奈たちと過ごす温かな日常も、一つひとつが素敵です。 楽しい時間の裏で見え隠れする不安や、過去の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。