2人きりだと…少し、
土曜日の午後。
今日は珍しく、莉奈から連絡が来ていなかった。
六人のグループには昨日の夜からいくつかメッセージが届いているけれど、今日はそれぞれ予定があるらしい。
私は家で課題を片付けてから、近所の本屋へ向かうことにした。
一人で出かけるのは嫌いじゃない。
むしろ、気楽で好きなほうだ。
好きなものを好きなだけ見て、疲れたら帰る。誰かに合わせる必要もない。
中学の頃も、休日はそんなふうに過ごしていた。
ただ――最近は、一人でいる時間が少し増えると、みんなのことを思い出すようになった。
本屋に着いて、適当に棚を見ていると、
『……あれ? 由奈?』
聞き覚えのある声。
振り返ると、そこには美月がいた。
『美月?』
『やっぱり由奈だ』
制服じゃない美月を見るのは初めてだった。
白いシャツに薄い色のカーディガン。髪も学校にいるときより少しだけラフに下ろしている。
『なんか……新鮮』
『それ、こっちの台詞』
『え?』
『由奈も私服だと雰囲気違う』
『そ、そう?』
『うん。似合ってる』
さらっと言われて、どう返せばいいのか分からなくなる。
『……ありがとう』
『何見てたの?』
『漫画』
『意外』
『なんで?』
『もっと真面目な本読んでそう』
『それ、美月のほうじゃない?』
『確かに』
二人で笑った。
そのあと、美月が本屋に来た理由を聞くと、参考書を探しているらしい。
『じゃあ、邪魔しちゃ悪いね』
『別にいいよ』
『でも勉強の邪魔になるでしょ』
『由奈といるほうが楽しいし』
『……え?』
美月は首を傾げた。
『何か変なこと言った?』
『いや……』
私は目を逸らした。
学校ではいつも五人と一緒にいる。
だから、二人きりになることなんてほとんどなかった。
でも今は、美月と二人しかいない。
それだけで、いつもと少し違って見える。
『ねえ、由奈』
『なに?』
『このあと、時間ある?』
『あるけど』
『じゃあ、少しだけ一緒に歩かない?』
『……うん』
本屋を出る。
特に目的地があるわけじゃない。
ただ駅前を歩いて、途中の公園で少し休んだ。
『六人でいるのも楽しいけど』
美月がベンチに座りながら言った。
『こういうのも悪くないね』
『……うん』
私も隣に座る。
少しだけ間を空けて。
それでも、前よりその距離が気にならなかった。
『由奈ってさ』
『うん?』
『六人の中だと、一番無理してない気がする』
思わず美月を見る。
『……私が?』
『うん』
美月は少し考えてから続けた。
『最初はもっと緊張してたでしょ』
『……してた』
『今は、ちゃんと笑ってる』
その言葉に、胸の奥が小さく揺れた。
私は笑う。
『みんながいるからかな』
美月も笑った。
『そっか』
夕方の風が吹く。
それ以上、特別なことは話さなかった。
でも帰り道、私は何度も思い出していた。
――二人きりだと、こんなふうに話せるんだ。
知らなかった。
美月にも。
私にも。
まだ知らない顔が、たくさんあるみたいだった。




