知らない顔を、知っていく、
週の終わりが近づくと、教室の空気も少しだけ軽くなる。
昼休み、莉奈が机に身を乗り出してきた。
『ねえねえ、今度みんなで何する?』
『また遊ぶの?』
美月が呆れたように言う。
『だって楽しいじゃん!』
『まあ、私はいいけど』
結衣も笑いながら頷いた。
透子はお弁当を食べながら、
『私は勉強する時間も欲しいんだけど』
『じゃあ勉強してから遊ぼ!』
『そういう問題じゃない……』
そのやり取りを聞いて、私は思わず笑った。
少し前まで、こんな光景を自分が眺めているなんて想像もしていなかった。
六人でいることにも、だいぶ慣れてきた。
でも――。
『由奈』
玲奈の声に振り向く。
『なに?』
『今日、一緒に帰らない?』
『……うん』
自然に返事をした。
それだけなのに、莉奈がニヤッとする。
『おー? 二人で帰るの?』
『たまたまだよ』
『はいはい』
『ほんとだから』
笑いながら言い返す。
以前なら、こういうやり取りすら怖かったかもしれない。
何か言い方を間違えたら、また誰かが離れていく。
そんなことばかり考えていた。
でも今は、少しくらいからかわれても平気だった。
放課後。
昇降口で靴を履き替えていると、玲奈が隣に立った。
『今日はどこか寄る?』
『うーん……』
私は少し考えてから、
『コンビニ行きたい』
『いいね』
二人で歩き出す。
特別な話をするわけでもない。
今日の授業がどうだったとか、莉奈がまた騒いでいたとか、透子のノートが綺麗すぎるとか。
そんな話ばかりだった。
コンビニで飲み物を買って、店を出る。
そのとき、玲奈がふと足を止めた。
『……由奈』
『ん?』
『私ね』
玲奈は少し迷うように視線を落とした。
『中学の頃、今みたいに友達と帰ることって、あんまりなかったんだ』
意外だった。
『玲奈も?』
『うん』
『……なんか、意外』
『よく言われる』
玲奈が笑う。
その笑顔を見て、私は少し驚いた。
教室で見る玲奈とは、ほんの少し違う。
『玲奈って、いろんな顔あるんだね』
『そう?』
『うん。学校だともっと静かな感じするし』
『由奈の前だと、少し楽なのかも』
その言葉に、私は返事ができなかった。
胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
玲奈は気にした様子もなく歩き出す。
『帰ろう』
『……うん』
その背中を追いかける。
知らないことばかりだ。
玲奈の中学時代も。
美月のことも、莉奈のことも、結衣のことも、透子のことも。
私はまだ、みんなのことを全部知っているわけじゃない。
でも。
知らないからこそ、これから知っていける。
そう思うと、少しだけ楽しみだった。
――そして私はまだ知らなかった。
私がみんなのことを知っていくのと同じように。
みんなも少しずつ、私のことを知っていくことになるなんて。




