知っている人、知らない人
翌日の昼休み。
いつものように、六人で机を寄せてお弁当を食べていた。
『ねえ由奈、昨日の帰り、玲奈と一緒だったよね?』
莉奈が唐揚げを頬張りながら聞いてくる。
『うん。ちょっと話してた』
『何話してたの?』
『えっと……』
一瞬、言葉に詰まった。
玲奈が中学時代のことを知っている。
その事実を、まだみんなには話していない。
『……ちょっと昔の話』
『ふーん?』
莉奈は不思議そうに首を傾げたけれど、それ以上は聞かなかった。
『まあ、いいや! それよりさ、次の日曜日――』
話題はすぐに別の方向へ流れていった。
そんな何気ないやり取りをしながら、私は向かいに座る玲奈を見る。
玲奈は何も言わず、お弁当を食べていた。
目が合う。
ほんの一瞬。
玲奈は小さく笑った。
それだけだった。
なのに、私は少しだけ安心した。
昨日の話を、みんなの前で話すつもりはない。
玲奈も、それを分かってくれている。
それがありがたかった。
放課後。
今日は珍しく、みんなの予定がバラバラだった。
美月は部活、莉奈は委員会、結衣は用事があるらしい。透子も図書室に寄っていくらしく、教室に残っているのは私と玲奈だけになった。
『……由奈』
帰り支度をしていると、玲奈に呼ばれた。
『なに?』
『昨日のことだけど』
手が止まる。
『……うん』
『急がなくていいから』
玲奈はそれだけ言った。
『私が知ってることも、由奈が話したいことも。全部、今すぐじゃなくていい』
『……玲奈』
『だから、無理に笑わなくてもいいよ』
胸の奥が、少しだけ痛くなった。
私は別に、無理して笑っていたつもりはなかった。
高校では普通に過ごしたかった。
友達と笑って、くだらない話をして、帰り道に寄り道して。
そんな毎日が欲しかった。
中学の頃とは違う自分になりたかった。
『……私ね』
気づけば、口が動いていた。
『中学のこと、あんまり話したくない』
『うん』
玲奈は急かさない。
『でも……いつか話してもいいって思えるかもしれない』
『うん』
『そのときは、聞いてくれる?』
玲奈は少しだけ目を細めた。
『もちろん』
それだけだった。
それだけなのに、なぜか心が軽くなった。
教室を出る。
廊下の窓から差し込む夕方の光が、床をオレンジ色に染めていた。
『……ねえ、玲奈』
『なに?』
『昨日、私のことを「あのときの子」って言ってたよね』
玲奈が少し黙る。
『うん』
『……私、玲奈と中学で話したことあった?』
玲奈はすぐには答えなかった。
そして、
『……たぶん、話したことはない』
そう言った。
『たぶん?』
『うん』
玲奈は前を向いたまま続ける。
『でも、私は由奈のことを覚えてる』
その言葉だけが、夕方の廊下に残った。
私は何も聞けなかった。
ただ、玲奈の横を歩いた。
昨日より少しだけ近い距離で。
そして私はまだ知らない。
玲奈が、あの日の私をどこから見ていたのか。
――その答えを知るには、もう少し時間が必要だった。




