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この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


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17/22

知っている人、知らない人

翌日の昼休み。


いつものように、六人で机を寄せてお弁当を食べていた。


『ねえ由奈、昨日の帰り、玲奈と一緒だったよね?』


莉奈が唐揚げを頬張りながら聞いてくる。


『うん。ちょっと話してた』


『何話してたの?』


『えっと……』


一瞬、言葉に詰まった。


玲奈が中学時代のことを知っている。


その事実を、まだみんなには話していない。


『……ちょっと昔の話』


『ふーん?』


莉奈は不思議そうに首を傾げたけれど、それ以上は聞かなかった。


『まあ、いいや! それよりさ、次の日曜日――』


話題はすぐに別の方向へ流れていった。


そんな何気ないやり取りをしながら、私は向かいに座る玲奈を見る。


玲奈は何も言わず、お弁当を食べていた。


目が合う。


ほんの一瞬。


玲奈は小さく笑った。


それだけだった。


なのに、私は少しだけ安心した。


昨日の話を、みんなの前で話すつもりはない。


玲奈も、それを分かってくれている。


それがありがたかった。


放課後。


今日は珍しく、みんなの予定がバラバラだった。


美月は部活、莉奈は委員会、結衣は用事があるらしい。透子も図書室に寄っていくらしく、教室に残っているのは私と玲奈だけになった。


『……由奈』


帰り支度をしていると、玲奈に呼ばれた。


『なに?』


『昨日のことだけど』


手が止まる。


『……うん』


『急がなくていいから』


玲奈はそれだけ言った。


『私が知ってることも、由奈が話したいことも。全部、今すぐじゃなくていい』


『……玲奈』


『だから、無理に笑わなくてもいいよ』


胸の奥が、少しだけ痛くなった。


私は別に、無理して笑っていたつもりはなかった。


高校では普通に過ごしたかった。


友達と笑って、くだらない話をして、帰り道に寄り道して。


そんな毎日が欲しかった。


中学の頃とは違う自分になりたかった。


『……私ね』


気づけば、口が動いていた。


『中学のこと、あんまり話したくない』


『うん』


玲奈は急かさない。


『でも……いつか話してもいいって思えるかもしれない』


『うん』


『そのときは、聞いてくれる?』


玲奈は少しだけ目を細めた。


『もちろん』


それだけだった。


それだけなのに、なぜか心が軽くなった。


教室を出る。


廊下の窓から差し込む夕方の光が、床をオレンジ色に染めていた。


『……ねえ、玲奈』


『なに?』


『昨日、私のことを「あのときの子」って言ってたよね』


玲奈が少し黙る。


『うん』


『……私、玲奈と中学で話したことあった?』


玲奈はすぐには答えなかった。


そして、


『……たぶん、話したことはない』


そう言った。


『たぶん?』


『うん』


玲奈は前を向いたまま続ける。


『でも、私は由奈のことを覚えてる』


その言葉だけが、夕方の廊下に残った。


私は何も聞けなかった。


ただ、玲奈の横を歩いた。


昨日より少しだけ近い距離で。


そして私はまだ知らない。


玲奈が、あの日の私をどこから見ていたのか。


――その答えを知るには、もう少し時間が必要だった。

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