今度は、2人で、
月曜日。
朝の教室は、いつも通りだった。
莉奈が昨日撮った写真を見せてきたり、結衣が新しく見つけたお店の話をしたり、美月が小テストの範囲を確認したり。
昨日の休日が終わっただけで、またいつもの学校生活に戻っている。
でも、私の中には一つだけ引っかかっていることがあった。
昨日、玲奈が言いかけた言葉。
『今度は二人で――』
その続き。
授業中も、たまに思い出してしまう。
(……何だったんだろう)
気になってしまう自分が、少し嫌だった。
別に、急いで聞く必要なんてない。
そう思っているのに、休み時間になると玲奈のほうを見てしまう。
玲奈はいつも通り、静かに本を読んでいた。
目が合う。
玲奈が少しだけ首を傾げる。
私は慌てて視線を逸らした。
『由奈?』
隣から莉奈に呼ばれる。
『な、なに?』
『今、玲奈見てた?』
『……見てない』
『見てたじゃん』
『見てないって』
莉奈がニヤニヤする。
『ふーん』
『何その顔』
『別にー?』
そのまま莉奈は逃げるように自分の席へ戻っていった。
……絶対、何か勘違いされている。
***
放課後。
今日は部活のある美月と結衣が先に帰り、莉奈も委員会があるらしい。
気づけば教室には、私と玲奈と透子だけが残っていた。
透子は机に向かって勉強している。
私は帰る準備をしていた。
すると玲奈が鞄を持って立ち上がった。
『由奈』
『うん?』
『昨日の話なんだけど』
心臓が少し跳ねる。
『……うん』
『今から、少し時間ある?』
『あるよ』
『じゃあ……一緒に帰らない?』
私は頷いた。
『うん』
すると透子が顔を上げた。
『二人で?』
『うん』
玲奈が答える。
透子は少しだけ私たちを見た。
『分かった。じゃあ、また明日』
『うん。また明日』
教室を出る。
廊下には、放課後の静かな空気が流れていた。
校門を出て、駅とは反対方向へ少し歩く。
玲奈が選んだ道は、いつもの帰り道とは違った。
『どこ行くの?』
『少し歩きたいだけ』
『そっか』
それからしばらく、二人とも黙って歩いた。
気まずいわけじゃない。
でも、いつもみんなでいるときとは違う。
二人きりになると、玲奈の存在が少し大きく感じられた。
やがて小さな公園に着く。
玲奈がベンチに座った。
私も隣に座る。
『……昨日さ』
玲奈が口を開く。
『うん』
『二人で行きたいって言ったけど』
『うん』
『別に、変な意味じゃないから』
『……え?』
玲奈が少し困ったように笑った。
『昨日、話せなかったことがあったでしょ』
『観覧車のとき?』
『うん』
私は黙って玲奈を見る。
玲奈は少しだけ下を向いた。
『私、由奈に聞きたいことがあるの』
『……私に?』
『うん』
少し間があった。
『中学のとき、どこの中学校だった?』
胸が止まったような気がした。
『……え』
玲奈は私を見る。
その目は、いつもより真剣だった。
『やっぱり、そうなんだ』
『何が……?』
『私、由奈のこと……前に見たことがある』
頭の中が真っ白になる。
『……どこで?』
玲奈はすぐには答えなかった。
公園の木々が風で揺れる。
しばらくして、玲奈が小さく言った。
『中学』
その一言だけで、胸の奥にしまっていた記憶が一気に揺れた。
教室。
昼休み。
誰も自分を呼ばない時間。
帰り道。
卒業式の日。
私は膝の上で手を握った。
『……何で』
声が震えた。
『何で、今まで言わなかったの?』
玲奈は少し黙ってから、
『確信がなかったから』
と答えた。
『でも、最近になって分かった』
『……何が?』
玲奈は私を見る。
『由奈は、あのときの子なんだって』
心臓が大きく鳴った。
もう、逃げられない。
ずっと隠していた過去が、目の前にいる。
だけど玲奈は、それ以上何も言わなかった。
ただ、
『今日はここまでにする』
と言った。
『……え?』
『急に全部聞いたら、由奈が困ると思うから』
『……』
私は何も言えなかった。
帰り道。
玲奈と並んで歩く。
さっきまでより、少しだけ空気が違っていた。
でも、不思議と嫌ではなかった。
怖い。
知られたくなかった。
それなのに。
玲奈だけには、いつか全部話してもいいのかもしれない。
そんな気持ちが、ほんの少しだけ生まれていた。
第16話、ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、玲奈と由奈が二人で話す中で、少しだけ過去に触れるお話でした。
今まで由奈が隠してきた中学時代。
そして、玲奈がなぜ由奈のことを知っていたのか。
まだ分からないことはたくさんありますが、これから少しずつ明らかになっていきます。
由奈が過去と向き合うまで、もう少しゆっくり見守っていただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします!




