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この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


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14/22

話したくなった、その時でいい。

金曜日。


朝から教室は、いつもより少し騒がしかった。


昨日、莉奈が言い出した日曜日の予定について、朝からみんなで話しているからだ。


『ねえ、結局どこ行く?』


莉奈がスマホを見せてくる。


『ここ、駅の近くに新しいカフェできたんだって!』


『また食べ物?』


美月が呆れたように言う。


『いいじゃん。カフェ行って、そのあと買い物とか』


結衣が予定を考えていく。


『私は賛成』


玲奈も頷いた。


透子はスマホの画面を覗き込みながら、


『この辺なら駅から近いし、時間も大丈夫そう』


と答える。


『じゃあ決まり!』


莉奈が嬉しそうに笑った。


私はその会話を聞きながら、なんとなく不思議な気持ちになっていた。


少し前まで、休日に誰かと出かける予定なんてなかった。


予定がないことが普通だった。


「日曜日、何しよう」


そう考えて、結局家で過ごす。


それが私の日常だった。


それなのに今は、


「日曜日、何着て行こう」


なんて考えている。


自分でも少し笑ってしまう。


『由奈、どうしたの?』


莉奈が覗き込んできた。


『なんでもないよ』


『なんか嬉しそう』


『……そう?』


『うん』


『そっか』


そう言われると、余計に恥ずかしくなった。


***


昼休み。


六人でお弁当を食べていると、莉奈が突然言った。


『そういえばさ、由奈って中学のとき何部だったの?』


箸が止まった。


ほんの一瞬。


本当に一瞬だった。


でも、自分では分かる。


胸の奥が冷たくなった。


『……部活?』


『うん。運動苦手って言ってたから、文化部かなって』


『あー……』


どう答えよう。


中学のことは、できるだけ話したくない。


だけど、ここで黙ったら不自然だ。


『私は……帰宅部だったよ』


『へえ!』


莉奈は特に気にした様子もない。


『私も帰宅部だったらよかったなー』


『なんで?』


結衣が聞く。


『部活って疲れるじゃん』


『莉奈らしい』


みんなが笑う。


私は笑いながら、そっと息を吐いた。


よかった。


誰も深く聞かなかった。


でも――。


向かい側に座っていた玲奈だけは、何も言わなかった。


ただ、私を見ていた。


その視線に気づいて、目が合う。


玲奈はすぐに視線を逸らした。


午後の授業が終わる。


放課後は、みんなで駅まで歩く予定だった。


ところが、昇降口に着いたところで、透子が立ち止まった。


『ごめん。私、先生に呼ばれてる』


『じゃあ先に行ってるね!』


莉奈が言う。


『うん』


透子が教室へ戻っていく。


すると美月も、


『私、部活の時間だから』


と言った。


『じゃあ、また月曜日』


『うん』


美月と別れる。


結衣も途中の道で家が反対になる。


気づけば、最初は六人だったのに、駅へ向かう頃には四人になっていた。


莉奈、玲奈、私。


そして少し後ろを歩く結衣。


四人で歩く帰り道。


莉奈が突然、コンビニを指差した。


『ねえ、寄っていい?』


『また?』


結衣が笑う。


『だって新作のお菓子があるんだもん!』


『私は飲み物だけ買おうかな』


私もコンビニに入る。


店内を見ていると、莉奈が新作のお菓子を手に取った。


『由奈、これ半分こしよ!』


『いいよ』


『やった!』


その横で、玲奈が小さく笑っている。


『玲奈も食べる?』


莉奈が聞く。


『……少しなら』


『じゃあ三人で食べよ!』


結衣が呆れながら、


『私はいらないからね』


と言う。


そんな何気ない時間が、妙に楽しかった。


コンビニを出ると、空が少し赤くなっていた。


駅までの道を歩きながら、私は空を見上げる。


『今日、なんか早かったね』


『学校?』


玲奈が聞く。


『うん』


『そうだね』


隣を歩く玲奈を見る。


昨日より。


先週より。


少しずつ、この人たちとの距離が変わっている。


それが嬉しい。


でも同時に、少し怖い。


大切になればなるほど、失うのが怖くなる。


そんなことを考えていると、玲奈がぽつりと言った。


『由奈』


『ん?』


『……中学の話、無理にしなくていいから』


足が止まりそうになった。


『……え?』


玲奈は前を向いたままだった。


『話したくなったら、そのときでいい』


『……』


何も言えなかった。


どうして玲奈がそんなことを言ったのか。


聞きたかった。


でも、聞けなかった。


『……ありがとう』


やっとそれだけ言う。


玲奈は小さく頷いた。


『うん』


それ以上は、何も言わなかった。


駅が見えてくる。


莉奈たちは少し前を歩いている。


私はその背中を見ながら思った。


高校に入ってから、私はずっと「過去を知られたくない」と思っていた。


でも。


全部を知られなくても、今の私を見てくれる人がいる。


そのことが、少しだけ嬉しかった。


そして同時に――。


いつか、この人たちにはちゃんと話したい。


そう思った。


まだ、その日は来ていない。


でも。


いつかは。


そんな未来を、初めて想像できた帰り道だった。

第14話、ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回は、六人で過ごす時間が少しずつ増えていく中で、由奈の過去にも少し触れるお話でした。


まだ全部を話すことはできないけれど、いつか由奈が自分から過去を話せる日が来るのか。


そして、玲奈が由奈の過去について何か知っているのか。


そのあたりも、これから少しずつ描いていけたらと思っています。


次回も、由奈たちの何気ない日常を楽しんでもらえたら嬉しいです。

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