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この青春に、名前をつけるなら、なんて付ければいいのー!  作者: 汐音 月風


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12/22

6人目の女の子。

水曜日。


朝の教室は、いつもより少しだけ騒がしかった。


『ねえ、由奈。昨日の数学の宿題やった?』


莉奈が机を寄せてくる。


『一応やったよ』


『見せて』


『自分でやりなよ』


『ちょっとだけ!』


『ダメ』


『ケチー!』


そんなやり取りをしていると、美月が横から口を挟んだ。


『莉奈、昨日も同じこと言ってた』


『美月は厳しいなあ』


『自分でやったほうが覚えるから』


『うぅ……』


結衣が笑いながら、


『じゃあ、分からないところだけ教えてあげる』


と言う。


いつもの朝。


少し前までなら、こんな光景を眺めている側だった。


今は、その中に自分もいる。


それが当たり前になりつつあることが、最近は少し怖いくらいだった。


当たり前になると、失うことが怖くなる。


そんなことを考えていると、教室の前の扉が開いた。


先生と一緒に、一人の女の子が入ってくる。


肩より少し長い髪。


細いフレームの眼鏡。


制服はきちんと着ていて、手には教科書が何冊か入った鞄を持っている。


先生が黒板の前に立った。


『今日からこのクラスに入る高橋さんだ』


女の子が一歩前に出る。


『高橋透子です。よろしくお願いします』


短い挨拶。


それだけだった。


教室から小さな拍手が起こる。


『席は……小野寺の後ろが空いてるな』


『はい』


透子は私の後ろの席へ向かって歩いてくる。


すれ違う瞬間、目が合った。


『……よろしく』


『う、うん。よろしく』


それだけ。


透子は席に座ると、さっそく教科書を取り出した。


休み時間。


莉奈が真っ先に透子のところへ行った。


『ねえねえ、高橋さん!』


『……はい?』


『私、莉奈! よろしくね!』


『よろしく』


『敬語じゃなくていいよ!』


『分かった』


透子は少しだけ困ったような顔をした。


その様子を見て、結衣が笑う。


『莉奈、いつも通りだね』


『だって友達増えるじゃん!』


『まだ友達とは決まってないけど』


美月が言う。


『えー、細かい!』


私は思わず笑ってしまった。


すると、透子がこちらを見る。


『小野寺さん』


『え?』


『さっきから、よく笑うんだね』


『……そうかな?』


『うん』


透子はそれだけ言って、また教科書に目を戻した。


なんとなく変な感じがした。


褒められたのか。


それとも、ただ思ったことを言っただけなのか。


判断できない。


昼休み。


いつものように、私たちは机をくっつけてお弁当を広げた。


今日は透子も一緒だ。


『高橋さん、お弁当ちっちゃ!』


莉奈が驚く。


『そう?』


『足りる?』


『足りる』


『私の卵焼きあげようか?』


『いらない』


『即答!?』


みんなが笑う。


透子は少しだけ口元を緩めた。


その笑顔は、本当に一瞬だった。


でも、私はなんとなく気づいた。


(……笑うんだ)


もっと無表情な子なのかと思っていた。


『透子って、普段何してるの?』


結衣が聞く。


『本読んでることが多い』


『私も本好き!』


莉奈が手を挙げる。


『莉奈は漫画でしょ』


美月が言う。


『漫画も本じゃん!』


『そうだけど』


また笑い声が起こる。


透子はその輪を眺めながら、少しだけ考えるようにしていた。


『……楽しそうだね』


『楽しいよ!』


莉奈が即答する。


『高橋さんも一緒にどう?』


『……いいの?』


『もちろん!』


その言葉に、透子は少し驚いた顔をした。


そして、


『じゃあ……よろしく』


小さく笑った。


その日の放課後。


私は教室に忘れ物をして、一人で戻ってきた。


すると、まだ透子が席に座っていた。


『あれ? 高橋さん、まだいたの?』


『うん。少し勉強してた』


机の上には数学の問題集。


『数学、得意なの?』


『好き』


『すごい……』


『小野寺さんは?』


『私は……普通』


『昨日、宿題をちゃんとやってたから、得意なのかと思った』


『見てたの?』


『後ろの席だから』


そう言って、透子は問題集を閉じた。


『でも』


『ん?』


『小野寺さんって、意外と負けず嫌いだよね』


『え?』


『莉奈に宿題見せてって言われたとき、絶対見せなかったから』


『……あれは』


思わず言葉に詰まる。


『自分でやったほうがいいかなって』


『うん』


透子が頷く。


『そういうところ、私は好きかも』


『……え?』


透子は一瞬だけ黙った。


『……考え方が、って意味』


『あ、そういうこと……』


なんだか妙に恥ずかしくなった。


透子はそんな私を見て、少し笑う。


『じゃあ、また明日』


『うん。また明日』


教室を出る。


廊下を歩きながら、私は思った。


高橋透子。


まだよく知らない。


でも、少し変わった子かもしれない。


そして――。


これから、この子とも一緒に過ごす時間が増えていく。


そんな気がした。


まだ六人目は、私たちの中に完全に馴染んだわけじゃない。


でも、その距離は少しずつ縮まり始めていた。

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