第八話 ゴブリンキング①
巣穴の最奥。
広く開けた空間の中央に、一際大きな椅子が置かれていた。
そこへ悠然と腰掛けているのは、ゴブリンキング。
俺は最後に倒したホブゴブリンの頭を、キングの足元へ放り投げた。
ゴロリ。
頭が床を転がる。
「よう、王様。」
「あんたの国民は全滅したぜ。」
「いつまで椅子に座ってるつもりだ?」
キングがゆっくりとこちらを睨みつける。
額には青筋が浮かび、頬の筋肉が小さく痙攣していた。
随分とご立腹らしい。
キングが椅子から立ち上がる。
その身体はホブゴブリンよりも遥かに大きい。
全身を覆う筋肉。
手には、人間一人ほどの大きさがある巨大な棍棒。
向こうも、ようやく戦う気になったようだ。
俺は戦いの中で手に入れた新しいスキルを発動する。
「魔力操作。」
ゴブリンメイジを倒して得た能力。
このスキルを手に入れたことで、狙い通り魔法を使えるようになった。
複数のメイジを捕食した結果、いくつかの属性魔法も覚えている。
体内の魔力を練り上げる。
「くらえ!」
「ファイヤー!」
小さな火球が真っ直ぐに飛び、キングの胸へ命中した。
ボンッ!
「よし!」
炎が消える。
キングは、焦げた胸を軽く手で払った。
「……あんまり効いてない?」
なら、次だ。
「ストーン!」
岩の塊が飛び、キングの肩へ直撃する。
キングは避けようともしない。
岩だけが砕け散った。
「無傷かよ。」
俺は少し考え、すぐに魔法を諦めた。
「付け焼き刃の魔法に頼るもんじゃないな。」
触手を五本伸ばす。
ゴブリンたちとの戦いでレベルが上がり、扱える触手も一本増えていた。
槍。
盾。
棍棒。
短剣。
剣。
それぞれに武器を持たせる。
「気を取り直して、正面から行く!」
床を蹴る代わりに、触手で地面と壁を引っ張り、一気に加速する。
対するキングは、巨大な棍棒を振り上げた。
次の瞬間。
ズドォン!!
「速っ!」
見た目からは想像もできない速度で棍棒が振り下ろされる。
攻撃を中断。
四本の触手で持つ武器を交差させ、棍棒を受け止める。
バキッ!
盾が割れた。
剣と短剣も折れる。
触手だけでは勢いを止め切れず、棍棒が箱の身体へ叩き付けられた。
「ぐあっ!」
武器は破壊されたが、四本の触手を棍棒に巻き付ける。
「捕まえた!」
キングが棍棒を引き戻せない一瞬。
残った五本目の触手を伸ばす。
その手にあるのは、金属スライムから得た槍。
「くらえっ!」
筋肉の薄そうな脇腹を狙い、槍を突き立てる。
穂先が皮膚を破る。
だが、浅い。
「硬すぎるだろ!」
直後。
ドゴッ!!
キングの蹴りが箱の身体へめり込んだ。
「なっ――!」
箱が軋み、真横へ吹き飛ばされる。
壁へ激突する寸前、触手を伸ばして身体を支える。
「箱がバラバラになるかと思った……。」
「なんて威力だよ。」
急いで体勢を整えようとする。
キングは待ってくれない。
すぐさま距離を詰め、巨大な棍棒を全力で振りかぶる。
「まず――」
ズガァン!!
まともに直撃した。
箱の身体へ、メキメキと大きな亀裂が走る。
「このままじゃ……!」
俺は吹き飛ばされながら、体内の魔力を練った。
「ファイヤー!」
火球がキングの顔面へ命中する。
炎が視界を覆った。
その一瞬。
俺は箱の中から、以前拾った普通の宝箱を取り出して床へ落とす。
同時に触手を天井へ伸ばし、自分の身体を一気に持ち上げた。
炎で視界を奪われたキングには、俺が壁へ吹き飛ばされたようにしか見えなかったはずだ。
俺は天井へ張り付き、息を潜める。
床では、普通の宝箱が壁際に転がっていた。
炎が消える。
キングは警戒を解かない。
棍棒を構えたまま、ゆっくりと宝箱へ近づいていく。
大きく亀裂の入った箱。
動かない。
キングは一番大きな破片に見える部分へ、棍棒を振り下ろした。
ドゴン!!
普通の宝箱が粉々に砕ける。
「残念だったな。」
俺は天井から飛び降りた。
「それは、俺の中に収納してた普通の宝箱だ!」
キングの背中へ着地する。
五本の触手を全身へ巻き付け、絶対に離れないよう締め上げる。
「捕まえた!」
「悪食!!」
牙がキングの右肩へ食い込む。
強靭な皮膚。
分厚い筋肉。
硬い骨。
すべてを無視して、右腕から肩、胸の一部まで一気に抉り取った。
血が噴き出す。
キングが初めて苦痛の声を上げた。
「効いた!」
勝った。
そう思った瞬間。
ドゴッ!!
残った左腕が、俺を殴り付けた。
「ぐあっ!」
触手を巻き付けたまま、何度も拳を叩き込まれる。
「まだ、こんな力が……!」
もう一度、悪食を使えば終わる。
だが、すぐには使えない。
悪食には、およそ三十秒のクールタイムがある。
今までは一撃で仕留めることが多く、問題にならなかった。
だが、キングは一撃では倒れない。




