第七話 ゴブリン軍
左右から同時に矢が飛んできた。
槍で一本を薙ぎ払い、もう一本は盾で弾く。
「厄介な奴らだ……。」
挟み撃ちにしておきながら、一気に攻めてくる気はないらしい。
弓兵とゴブリンメイジが後方から攻撃し、その前を盾持ちが固めている。
短剣を持ったゴブリンたちは、俺が隊列を崩した瞬間を狙っていた。
明らかに統率の取れた動きだ。
ただ数が多いだけではない。
役割を分担して戦っている。
「このままじゃ埒が明かない。」
俺は武器を箱の中へしまい、四本の触手を壁へ伸ばした。
触手で身体を持ち上げ、一気に壁を駆け上がる。
床だけを走る必要はない。
壁。
天井。
触手で掴める場所すべてが、俺の足場だ。
立体的に移動しながら、ゴブリンたちとの距離を詰める。
ゴゴッ!
巨大な岩塊が飛んできた。
ゴブリンメイジの土魔法。
触手で岩を叩き、軌道を逸らそうとする。
だが、勢いまでは殺し切れない。
岩が触手を押し潰し、そのまま箱の身体をかすめた。
「ぐっ!」
少なくないダメージ。
それでも止まらない。
短剣を持ったゴブリンたちが、壁を進む俺へ跳びかかってくる。
触手を伸ばして天井へ移動し、攻撃をかわす。
「全員を相手にしてられるか!」
俺の狙いは決まっている。
ゴブリンメイジとの距離が縮まる。
すると、盾持ちのゴブリンたちが壁となるように前へ出た。
やはり統率されている。
後衛を守ることまで徹底している。
だが。
「今の狙いは、お前らじゃない!」
盾持ち。
その後ろのゴブリンメイジ。
さらにその頭上まで飛び越える。
四本の触手をすべて前へ伸ばした。
「捉えた!」
触手が、その先にいたホブゴブリンへ絡み付く。
触手を一気に縮め、自分の身体ごと引き寄せる。
ホブゴブリンが棍棒を構えるより早く、俺はその肩へ喰らいついた。
「悪食!」
硬い皮膚も、分厚い筋肉も関係ない。
悪食の牙が身体へ食い込み、そのままホブゴブリンを箱の中へ引きずり込む。
大した抵抗もできないまま、巨大な身体が消えた。
[スキルを取得しました]
・獲得スキル:『身体能力向上:小』
「よし!」
「ホブゴブリンを倒した!」
親玉を潰せば、群れは統率を失う。
後は混乱したところを、1匹ずつ仕留めていけばいい。
「があっ!」
背中へ鋭い痛みが走る。
俺がホブゴブリンを捕食する瞬間を狙い、一本の矢が箱の身体へ深く突き刺さっていた。
「統率が……乱れてない?」
直後。
巣穴の奥から、さらに多くのゴブリンが現れる。
その中には、先ほど倒したものと同じホブゴブリンが何体もいた。
「はは……。」
「あれが親玉じゃなかったのか。」
ホブゴブリンは、ただの上位兵。
本当の統率者は別にいる。
俺はたった1体のホブゴブリンを倒すために、かなりのダメージを負ってしまった。
それでも、このままやられるつもりはない。
「この状況で、まずやるべきことは――。」
金属スライムの槍を取り出す。
触手を一本、真っ直ぐに伸ばす。
狙いは、最初に俺を発見したゴブリン。
「そこだ!」
槍が胸を貫いた。
そのまま触手を引き戻し、ゴブリンを目の前まで引き寄せる。
一口で捕食。
[スキルを取得しました]
・獲得スキル:『索敵:下級』
「すぐ使う!」
取得したばかりの索敵を発動する。
周囲に存在する魔物の気配が、ぼんやりと頭の中へ浮かんできた。
ゴブリン。
ホブゴブリン。
メイジ。
弓兵。
そして。
巣穴の最奥。
他とは比べものにならない、巨大な反応。
「見つけた。」
玉座のような場所に座り、一歩も動かない。
ゴブリンキング。
「あいつが本当の統率者か。」
キングは自分から出てくる気がない。
部下を送り続け、俺が力尽きるのを待っている。
左右から大量のゴブリンに挟撃される状況は、何も変わっていない。
だが、方針は決まった。
俺はキングのいる巣穴へ続く道を見据え、大きく口を開く。
「全部、吐き出せ!」
箱の中へ溜め込んでいた物を、一気に放出した。
武器。
魔石。
薬草。
鉱石。
魔物の骨。
壊れた防具。
使い道の分からないガラクタ。
自分の身体より遥かに大きな量の戦利品が、雪崩のように吐き出される。
ゴブリンたちが悲鳴を上げながら押し流された。
大量の物資が片方の通路を埋め尽くし、完全な壁となる。
「これで挟み撃ちは終わりだ。」
戦利品の壁を背にする。
狭い通路なら、一度に襲ってこられる数は限られる。
ゴブリンキングがいるのは、壁の反対側。
「まずは、お前たちを全滅させる。」
「キングは、そのあと喰らう。」
そこから先は、長い戦いになった。
剣を振るうゴブリンを盾で押し返し、槍で後ろの弓兵ごと貫く。
魔法が飛んでくれば、敵の身体を盾にする。
触手を壁や天井へ伸ばし、敵の頭上から棍棒を叩き付ける。
倒した相手は、すぐに捕食する。
傷を負う。
敵を倒す。
レベルが上がる。
身体が回復する。
また戦う。
何度も。
何度も繰り返す。
ゴブリンたちは決して弱くなかった。
盾兵が前へ出る。
弓兵がその隙間から狙う。
メイジが足場を崩す。
負傷した個体は下がり、新しい個体が前へ出る。
キングの統率は、巣穴の奥にいながらも群れ全体へ行き届いていた。
だが、俺も倒れるわけにはいかない。
「我慢比べなら、負けねぇ!」
1匹ずつ。
確実に数を減らす。
やがて矢が飛んでこなくなった。
魔法も止まった。
最後のホブゴブリンが棍棒を振り上げる。
俺は正面から攻撃を受け止め、脇腹へ喰らいついた。
「悪食!」
巨体が箱の中へ消える。
静寂が戻った。
「はぁ……。」
疲れた。
少人数ずつとはいえ、何十匹と連続で戦った。
触手は傷つき、箱のあちこちには矢や刃物による傷が残っている。
それでも、勝った。
戦利品の壁の向こうから、敵の気配は感じない。
残っているのは1体だけ。




