第五話 ゴブリンの巣
金属スライムを倒してから、一か月ほどが過ぎたと思う。
正確なところは分からない。
相変わらず、このダンジョンには昼も夜もなかった。
腹が減れば狩りをして、傷つけば休み、動けるようになったらまた探索する。
それを繰り返しているうちに、俺は以前とは比べものにならないほど強くなっていた。
今、俺の目の前には四体のスケルトンがいる。
敵はこちらを囲むように、じりじりと間合いを詰めていた。
ただの骨のくせに、それぞれ錆びた剣を持っている。
多少の攻撃では怯まず、痛みも感じない。
力任せに斬りつけても、骨の隙間をすり抜けてしまう。
少し前の俺なら、かなり厄介な相手だっただろう。
だが、今は違う。
俺は箱の中から四本の触手を伸ばした。
一本には槍。
一本には棍棒。
一本には短剣。
最後の一本には盾。
ドスッ!
槍が一直線に伸び、1体目の頭蓋を貫く。
金属スライムを倒した時に手に入れた槍だ。
今の俺が持つ武器の中では、最も威力が高く、射程も長い。
二体目が剣を振り上げる。
盾を持った触手で腕ごと押さえ込み、棍棒で頭蓋を叩き潰した。
三体目の剣を短剣で受け流す。
そのまま首の骨へ刃を滑り込ませ、頭を切り落とす。
最後の1体が背後から斬りかかってきた。
音は聞こえている。
槍を持った触手を後ろへ突き出す。
振り返るまでもなく、槍の穂先が頭蓋の中央を貫いた。
四体のスケルトンは、ほとんど抵抗らしい抵抗もできずに崩れ落ちた。
「こんなもんか。」
四本の触手を同時に操る戦い方にも、随分と慣れてきた。
以前なら、敵1体へ喰らいついて、力尽きるまで我慢比べをするしかなかった。
今は複数の敵を同時に攻撃できる。
武器も使える。
我ながら、かなりの進歩だ。
散らばった骨の中には、剣と小さな魔石が残されていた。
俺はそれらを触手で拾い上げ、そのまま箱の中へ放り込む。
武器も魔石も、今すぐ使う予定はない。
だが、何かに役立つかもしれない。
使えそうな物も、使えなさそうな物も、とりあえず入れておく。
そうして集め続けてきた結果、俺の中には既に相当な量の物が収納されていた。
「……やっぱり、おかしいよな。」
明らかに、この箱の大きさでは収まらない。
武器だけでも数十本。
魔石や薬草。
鉱石。
魔物の骨。
何に使うのか分からないガラクタまで入っている。
それでも箱の中がいっぱいになる感覚はなかった。
レベルが上がるたびに、収納できる空間も広がっている気がする。
「俺の身体の中、異空間にでもなってるのか?」
確かめる方法はない。
便利なのだから、今はそれでいい。
俺は戦利品を回収し、再び探索を始めた。
金属スライムを倒してから、様々な魔物と戦ってきた。
もちろん、いつも勝てたわけではない。
というより、このダンジョンには俺より強い魔物の方が明らかに多かった。
巨大な蜘蛛。
岩のような皮膚を持つ獣。
少し離れた場所を通っただけで、全身が震えるような何か。
勝てないと感じたら、戦わない。
物陰へ隠れる。
宝箱のふりをする。
息を潜め、相手が立ち去るまで何時間でも待ち続ける。
生き残ることが最優先だ。
強くなるために死んだら意味がない。
そうして探索を続けていたが、出口らしきものは一向に見つからなかった。
「このダンジョン、どれだけ広いんだよ。」
同じ場所を回っているわけではない。
少しずつ、確実に行動範囲は広がっている。
それでも終わりが見えない。
そんなことを考えながら通路を進んでいると、前方に小さな影が見えた。
緑色の肌。
小柄な人型。
手には粗末な短剣。
「ゴブリンか。」
前世の記憶にある、典型的な雑魚モンスターだ。
だが、1匹ではない。
奥には何体ものゴブリンがいた。
どうやら集団で行動しているらしい。
武器を持つ個体。
弓を持つ個体。
盾を構える個体。
そして、その中に杖を持ったゴブリンがいた。
「ゴブリンメイジ……。」
俺は岩陰へ身を隠す。
あいつを捕食すれば、魔法を使えるようになるかもしれない。
狙う価値は十分にある。
だが、目の前の群れへそのまま突っ込むのは危険だ。
ゴブリンたちの奥には、洞穴のような入り口がある。
ここは連中の巣穴なのだろう。
中に何匹いるか分からない。
十匹や二十匹程度なら負ける気はしない。
しかし、百匹いたら話は別だ。
「慎重にいくか。」
巣穴へ続く道は途中で二つに分かれていた。
俺は片方の通路脇へ隠れ、作戦を考える。
出入りするゴブリンを待ち伏せする。
一度に相手にするのは五匹まで。
倒した死体や戦利品は、痕跡が残らないよう箱の中へ収納する。
それを繰り返して群れの数を減らし、最後に巣穴へ突入する。
ミミックらしくて良い作戦だ。
しばらく待つと、巣穴から五匹のゴブリンが出てきた。




