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ミミック・ワールド ~宝箱の魔物は能力を喰らい、世界を喰らう~  作者: シンパチ
第一章 ダンジョンの王
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第二十四話 求めたもの

【エレナ視点】


目を覚ます。


「あれ……ここ、どこだっけ……。」


――って!


化け物が!


慌てて身体を起こそうとする。


だが、まったく力が入らない。


意識すると、全身に鈍い痛みが走った。


何があったんだろう……。


私は、あの化け物に殺されたはずじゃ……。


それなのに、なんでベッドで寝ているの?


殺風景な部屋に……ベッドだけが置かれてる……。


……ここは、天国なのか?


「目が覚めたか。」


「えっ! は、はい!」


隣の部屋からだろうか。


誰かの声が聞こえてきた。


「あ、あの……ここはどこなのでしょうか?」


「ここはダンジョンの中の部屋だ。今は安全だから……心配しなくていい。」


やっぱり、まだダンジョンの中なんだ。


「あの……貴方が私を助けてくださったのでしょうか?」


もしかして、私たちより先にダンジョンを攻略していたパーティーが助けてくれたのだろうか。


「そこに薬がある。飲んでくれ。まだ身体……かなり辛いだろ。」


質問には答えず、薬を飲むよう促された。


確かに身体は重く、鈍い痛みが全身に残っている。


私は何とか手を伸ばし、ベッド横の小さなテーブルに置かれた薬を手に取った。


「って……これ!」


「体力回復薬じゃないですか!」


「それも、かなり上位の高級品ですよね!?」


思わず声が大きくなる。


「あ、あの! これを譲っていただけませんか!?」


「私じゃなくて、娘に飲ませてあげたいんです!」


「その薬なら、まだある。」


「娘の分も譲ってやるから、あんたも飲め。」


「でも……。」


「体力が戻らないと、このダンジョンからも出られないぞ。」


「誰が薬を持って行ってやるんだ。」


「……そうですね。」


「すみません!」


「ありがたく頂きます!!」


ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。


身体がぽかぽかと温かくなり、全身の痛みが一気に引いていく。


こ、これ……。


まさか特級の回復薬じゃないの……?


これがあれば、ルシアの病気も少しは良くなるかもしれない。


――いや、それよりも。


もしこの人が私たちより先にダンジョンを攻略していたパーティーなら……。


ヒュドラを討伐している可能性もある!


「あ、あの……。」


「本当にありがとうございます。」


「あんなに強い魔物に襲われて、生きていられるとは思っていませんでした。」


「……。」


返事はない。


「もしかして、私たちより先にダンジョンを攻略していたパーティーの方なのでしょうか?」


「本当に、ここまで良くしていただいて……何とお礼を言えばいいか……。」


「……礼は、不要だ。」


「そんな!」


「助けていただいた上に、こんな高価な薬までいただいて……。」


「……助けてなどいない。」


「えっ……?」


「そんなこと……。」


短い沈黙のあと、男は静かに告げた。


「俺が……お前たちを襲った、箱の化け物だ。」



ーーーーーーーーーーーーーー



「え、あはは……。やめてくださいよ。」


「笑えないですよ……。」


「本当だ。だから俺に感謝なんてしなくていい。」


「嘘つかないでください。」


「今だって普通に話を……。」


「あ……。」


「そういえば、あの魔物も言葉を……。」


………………。


え……うそ、そんなわけ… …


「そんな、なんで……。」


「貴方が魔物なら!なんで私たちを襲って、その後で助けるようなことをするんですか!」


「あの時、初めて人に会ったんだ。」


「その瞬間、身体の奥底から『ニンゲンを殺せ』『ニンゲンを壊せ』って感情が湧き上がってきて……どうすることも出来なかった。」


「あんた達を襲うつもりなんて、なかったんだ。」


「……信じても、信じなくてもいい。」


「とにかく今は、身体を休めてくれ。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



私はベッドの上で目を覚ました。


昨日はあまりにも異常な出来事ばかりだった。


あんな状況で眠れるはずがないと思っていたのに、よほど疲れていたのだろう。


気が付けば、ぐっすり眠ってしまっていた。


特上の体力回復薬のお陰だろうか。


身体の調子も、とても良い。


……あんな目に遭ったのに。


あの恐ろしい化け物に、全身の骨を折られて――。


思い返しただけで、身体が震えてくる。


横の部屋にいる声の主は、本当にあの化け物なのだろうか……。


身体は問題ない。


大丈夫。


動ける。


今なら、逃げ出せるかもしれない……。


逃げて……。


逃げて……私はどうするんだ?


ルシアのために、命を懸けてここまで来たんだろ。


怖い目に遭ったからって、逃げ帰ってどうする!


アイツが……本当にあの化け物なら……。


私に負い目を感じている今なら、交渉次第では利用できるかもしれない。


だが、もし怒らせてしまったら……。


また、あんな目に遭うかもしれない。


恐怖で身体がすくむ。


ルシア……。


お母さん、頑張るから!


絶対にあなたを助けるから!!


ーーーーーーーーーーーーーー


隣の部屋から声が聞こえた。


「目が覚めたのか?」


「ええ、バッチリ目が覚めたわ。あなたに貰った薬、よく効いたみたい。」


「そうか。それは良かった。」


「ねぇ、貴方って本当にあの箱の魔物なの?」


「実は冗談でしたー、とか言わない?」


「冗談じゃない。本当だ。」


「キース達……私の仲間が死んだのも……夢じゃないのよね。」


「くっ……。」


「す、すまない……。謝って許されるとは思っていない。だが、俺に出来ることなら何でもしたいと思っている。」


「な、何でも……。」


「貴方って、本当に強いのよね。」


「私達、手も足も出なかったもの。」


「ねぇ、貴方ならヒュドラも倒せる?」


「ヒュドラ?」


「ああ、倒せるぞ。」


「一度倒したことがある。もう何度やっても俺が勝つだろう。」


「ほ、本当に!?」


「あのね、私、ヒュドラの心臓が欲しくてこのダンジョンに来たの!」


「今はいないみたいだけど、時間が経てばリポップするはずなの!」


「私にお詫びをしてくれるなら……。」


「お願い!」


「一緒にヒュドラを倒して!」


「ヒュドラの心臓?」


「これのことか?」


ひょいっと、まるで枕でも投げるような気軽さで――


ヒュドラの心臓がベッドの上へ放り投げられた。


「えぇぇぇぇぇっ!!」


「こ、これ!」


「これ、ヒュドラの心臓!!」


「欲しいのか?」


「こんなものが詫びになるなら、持って帰っていいぞ。」


「い、いいの!? 本当にいいの!?」


「ヒュドラの心臓ぉぉぉ!!」


「る、ルシアぁぁぁぁ!」


「お母さん、やったよぉ!」


「うっ……うぅっ……。」


「うわぁぁぁぁぁん!!」


ヒュドラの心臓を手に入れた安心感からだろう。


張り詰めていた糸が切れ、涙が止まらなくなった。


心臓を抱き締めたまま、子供のように泣きじゃくる。


ミミックはエレナが落ち着くのをただ静かに待っていた。


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