第二十三話 人か、魔物か
「え、え、えーーーっ!?」
この世界にもニンゲンがいたんだ!!
やった!
やったぞ!!
俺は一人じゃなかった!!
……あ、でもどうしよう。
今の俺は見た目がミミックだし……。
まずは、こちらに敵意がないことを伝えないと。
一人のニンゲンが近づいてくる。
(こちらに敵意はありませんよー。)
(……あ、俺、ニンゲンの言葉分からないわ。)
男は俺のすぐ横まで来ると、宝箱の蓋へ手を掛けた。
ああ、俺のことを本物の宝箱だと思ってるんだな。
違うんだよ。
本当は魔物なんだ。
どうすれば、自分が敵じゃないと分かってもらえるんだろう。
……でも、待てよ。
なんで俺はじっとしてるんだ?
動けば宝箱じゃないって、すぐ分かるじゃないか。
これじゃ、まるでミミックが餌を待ってるみたいじゃないか。
男が宝箱を開け、中を覗き込む。
凄まじい形相のニンゲンに「俺は安全だ」と伝えようとして――
気が付くと、俺はその身体を喰っていた。
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スキル
《人言語》
《盾戦闘》
《挑発》
を取得しました。
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「あれ……?」
「なんで……?」
「全員、逃げろーーーっ!!」
他のニンゲンが叫ぶ。
やってしまった……。
みんなを怖がらせてしまったみたいだ。
待ってくれ!
そんなに逃げないで!
俺は敵じゃない!
仲良くなりたいんだ!
なんとか誤解を解かなくては。
慌ててニンゲンたちを追い掛ける。
先頭を走る戦士らしき男へ追いつく。
「なんなんだ!てめぇ!」
長剣が振り下ろされる。
触手で受け止める。
そして――
パクリ。
「あーあ。」
「抵抗するから……。」
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スキル
《剣戦闘》
《闘気》
《体術》
を取得しました。
—
「死ね!化け物!!」
すぐ横からもう一人のニンゲンの声が聞こえた
魔術師の男の両手から、2つの巨大が火球が放たれる。
「直撃したか・・・、ざまあ見やがれ!」
《魔法耐性:大》
「む、無傷だと・・・・」
パクリ。
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スキル
《火魔法:上級》
を取得しました。
—
もう一人のニンゲンへ近づく。
完全に戦意を失っているようだ。
あー良かった。これなら落ち着いて話し合いが――
その瞬間。
【喰らいたい。】
【殺したい。】
【凌辱したい。】
【八つ裂きにしたい。】
【泣き叫ぶ声が聞きたい。】
【ニンゲンを殺したい。】
気が付くと、目の前のニンゲンも喰らっていた。
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スキル
《結界魔法》
《神聖魔法》
を取得しました。
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「あはははは……。」
「ニンゲンを喰らうのって、こんなに気持ちいいのかぁーー!!」
あと一人。
ニンゲンがいたな。
近づく。
……動かない。
いや、動けないのか。
背中に大きな傷がある。
触手でそっと身体を持ち上げる。
「……っ。」
痛むのか、小さく苦悶の声を漏らした。
その声が、あまりにも美しくて――
もっと聞きたくなった。
触手へ少しだけ力を込める。
すると応えるように、美しい悲鳴を聞かせてくれた。
このニンゲンは、特に美味しそうだ。
喰おうとした、その時。
思い留まる。
身体から、新たな触手を一本伸ばした。
赤黒く、粘液でどろどろと濡れた触手。
このニンゲンは……
雌なのだろうか?
『オッ……ン、ナァ……』
聞いてみたかった。
だが、まだ上手く言葉にならない。
その時、触手へ温かい液体が掛かった。
このニンゲンが失禁したようだ。
ああ……。
この美しいニンゲンを、もっと壊したい。
どろどろの触手を雌の身体へ這わせる。
また、美しい声を聞かせてくれた。
「ごめん……ごめんね、ルシア……。」
「お母さん……あなたを助けてあげられなかった……。」
あ……あれ?
えっ……?
「う、嘘……。」
「嘘だろ……。」
「俺、いったい何をやってるんだよ……!!」
我に返る。
だが、目の前の雌を喰らいたい。
凌辱したい。
その欲望が、心の奥底から溢れ続ける。
食事や睡眠と同じように。
生きるための、本能そのもののように。
ニンゲンを壊せ。
そう訴え続けてくる。
「ふざけんなよ!!」
「俺は俺だ!!」
「誰にも縛られねぇ!!」
「こんなふざけた欲求に、飲み込まれてたまるかぁぁぁ!!」
《底力》
《闘争心》
《状態異常耐性:中》
「う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
自由になる触手で、自らの触手を引きちぎる。
一本。
また一本。
全ての触手を引きちぎり、そのまま地面へ倒れ込んだ。
心の奥底にある欲望が消えたわけじゃない。
それでも、何とか正気だけは取り戻せた。
「4人……。」
「俺が……殺してしまった……。」
「ぐっ……。」
「ごふっ……。」
目の前の女が血を吐く。
絶望してる場合か!!
せめて、この人だけでも助けないと!!
《ヒール》
《ヒール》
《ヒール》
《ヒール》
《ヒール》
駄目だ。
こんな弱い回復魔法じゃ、全然足りない。
――そうだ。
ヒュドラを倒した時に手に入れたアイテム。
【体力回復薬:特】
「お願いだ……。」
「これを飲んでくれ……。」
「死なないでくれ……。」
女は少しだけ薬を口にした。
ヒュドラから手に入れた最高級の回復薬だけあって、その効果は絶大だった。
呼吸が、少し落ち着いてきた。
だが、まだ予断は許さない。
絶対に死なせない。
この人だけは、何としてでも助ける!!
頭の中がぐるぐると回る。
この人を死なせてはいけない理由は――
この人のためじゃない。
俺自身のためだ。
俺の心が人のままでいられるか。
それとも魔物へ堕ちるのか。
今がその瀬戸際なんだ。
この人が死んだら――
俺は、もう戻れないだろう。




