第二十五話 エレナとルーク (1章最終話)
「使うか?」
ベッドの上にタオルが投げ込まれた。
「ありがとう……。」
「ご、ごめんね。みっともないところ見せて。」
「構わない。」
「目的のものが手に入って良かったな。」
「うん、ありがとう!」
「助けてくれたことも、ヒュドラの心臓をくれたことも、本当にありがとう。」
「ねぇ、気になってたんだけど。」
「私が気を失う前、貴方、自分の触手を引きちぎって無かった?」
「ああでもしないと壊したい衝動を抑えれなかった」
「ニンゲンを・・・あー、まああんたはエルフだけどな」
「そっかぁ、そこまでしてくれてたんだ・・・」
「あ、ごめんね。私そろそろ行くよ。」
「急いでこれを娘に届けたいの。」
「ヒュドラの心臓、ほんとにありがとう!!」
「待て。」
「身体は治っても、体力は消耗したままだ。」
「あと三、四日は休んでいてくれ。」
「娘が病気なの。」
「そんなに休んでいられないわ。」
「そうか。」
「一人でダンジョンの入口まで行けるか?」
「……正直、無理そう。」
「……助けは必要か?。」
「貴方が力を貸してくれると助かる」
「.......ああ、分かった。任せろ。」
「だが、その……。」
「俺の姿を見ることになるが、大丈夫か?」
「う、うん。」
「大丈夫よ。」
部屋の扉が開き、触手の生えた宝箱が入ってきた。
「あれ?」
「貴方、もっと禍々しくなかった?」
「なんだか普通のミミックに見えるね。」
「そうか。」
「怖くないなら、それでいい。」
「早速、出口へ向かうがいいか?」
「あっ、でも色々準備しないと。」
「食料とかも。」
「食料は俺が持っている。」
「入口まで半日も掛からん。」
「行くぞ。」
ミミックは触手を伸ばし、私の身体を抱え上げると、そのまま箱の上へ座らせた。
「えっ!?」
「も、もしかして、この格好で行くの?」
「そうだ。」
「俺が運んだ方が絶対に早い。」
さらに触手が身体へ巻き付いてくる。
「な、な、何!?」
「なんで!?」
「そんなにビビるな。」
「落ちないように支えてるだけだ。」
「じゃあ、行くぞ!」
《フライ》
《速度強化》
風魔法と触手を駆使した立体高速移動。
いつも通りの速度で、ダンジョンを一気に駆け抜けていく。
「怖くはないか?」
「こ、怖いに決まってるでしょ!!」
「何なの、この移動!!」
「なら、速度を落とすか?」
「だ、大丈夫。」
「だいぶ慣れてきたわ。」
「貴方、凄いわね。」
「馬車より速いのに、揺れも全然少ない。」
「飛んでいるからな。」
「それに風魔法で、あんたの身体へ掛かる風の影響も極力減らしている。」
「この調子なら、予定より早く入口へ着けそうだな。」
「そっかぁ。」
「じゃあ、入口まで飛ばして行きましょ!!」
「あんた、朝から思っていたが、口調が昨日とだいぶ違うな。」
「そう?」
「こっちが素の私よ。」
「そうか。」
「少しは打ち解けられたみたいで良かった。」
「じゃあ、飛ばすから、もうしばらくは大人しくしていてくれ。」
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気が付けば、もうダンジョンの入口へ着いてしまった。
数日かけて攻略するはずだったS級ダンジョン。
それなのに、三時間も掛かっていない。
「着いたな。」
「そうね。」
「貴方のお陰で、きっと娘は助かるわ。」
「本当にありがとう!!」
「そうか。」
「役に立てたなら良かった。」
「娘さんが無事に良くなるよう、俺も祈っている。」
「ねぇ。」
「貴方はこれからどうするの?」
「俺はここから出て、ダンジョンの外を見たいと思っていた。」
「人がいるなら、会ってみたいとも思っていた。」
「だが……。」
「どうやら俺は、人とは相容れない存在らしい。」
「またダンジョンの奥へ戻るよ……。」
彼の言う通りだ。
人への暴力的な本能を持つ彼は、ダンジョンの奥へ戻るべきなのかもしれない。
でも……。
だけど……。
ダンジョンに戻ると言う彼の姿が……。
私を心配させないように、病気で苦しいのを我慢してる時のルシアと重なって見えた。
そう、見えてしまったんだ……。
「あーー、そのね。」
「ごめん。」
「やっぱり私、娘のいる街まで無事に帰れる自信がないわ。」
「頼りになるボディガードがいてくれると助かるんだけど……。」
「お前……。」
「何を言い出すんだよ。」
「本当にいいのか?」
「私は、一緒にいてくれると助かるけど?」
「…………はぁ。」
「分かった。」
「街までのボディガード、引き受けよう。」
「やったぁ!」
「ありがとう!」
「えーっと……。」
「私、貴方のこと何て呼んだらいい?」
「俺はミミックだ。」
「ミミックと呼んでくれ。」
「それって種族名でしょ?」
「自分の名前はないの?」
「そんなものはない。」
「でも、不便でしょ?」
「私が付けてあげる。」
「ルーク、なんてどうかな?」
「ルークかぁ……。」
「いい。」
「いいんじゃないか、それ!」
「あはは。」
「じゃあ、今日からキミはルークだね。」
「私はエレナ。」
「改めてよろしくね。」
「ああ、よろしく。」
「じゃあ、行こっか!」
エレナとルーク。
二人は並んでダンジョンの外へ向かう。
外では、太陽の光が世界を眩しく照らしていた。
ここから、新しい旅が始まる。
ダンジョンしか知らなかった1匹のミミックが――
世界を知るための、長い旅が始まった。
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ミミックワールド
第一章 『ダンジョンの王』 完




