第二十話 神代の遺産
「サンダーボルト!!」
「爆炎!」
挨拶代わりに魔法を叩き込む。
ギロッ――。
ゴーレムの目が鋭く光る。
……見たところダメージはない。
この程度の魔法、防ぐまでもないってことか。
ゴーレムはゆっくりと立ち上がった。
この階層でゴーレムとは何度も戦ってきた。
俺とゴーレムの相性は悪くない。
相手がボスだろうと、勝てるはずだ。
ゆっくりと距離を詰める。
……油断するな。
中には異常に素早いゴーレムもいた。
警戒を解かず、慎重に相手の動きを観察する。
――解析
名前:精霊石ゴーレム
太古に死んだ精霊王の身体が、長い年月をかけて化石化した宝石である、精霊石より作られた特別なゴーレム。
解析が進み、少しだけ情報が開示される。
精霊王から生まれたゴーレム……。
特別だろうが、やることは変わらない。
……ん?
瞬きほどの一瞬でゴーレムの姿勢が変わっていた。
肘を大きく引き、拳を握り締めた。
あっ、ヤバ――。
ドゴォォォォッ!!
緑の雷のような一撃。
巨大な身体から放たれたとは思えない速度で、右ストレートが突き出される。
「グッ、あぁァァァァ!!」
強烈な一撃が箱の身体を大きく変形させ、そのまま壁まで吹き飛ばされた。
クソッ!
あの巨体で、あの速度はおかしいだろ!
辛うじて目で追えたのは、奴の身体が巨大だったからだ。
見えていても、速すぎて反応できない。
一旦距離を――
なっ!?
もう目の前まで迫ってきている!
弓のように引き絞られた巨大な拳が、俺へ向かって振り下ろされる。
《攻撃強化》
《速度強化》
《硬質化》
迎え撃つ!
雷のような速さで振り下ろされる拳。
ギリギリ目では追える!
回避はしない。
口を大きく開く。
眼前まで迫る巨大な拳。
ここだーーーー!!
《悪食》
捉えた!
完璧なタイミングで悪食を合わせ、奴の右拳へ噛みつく!!
ガリッッッ!! バキッ、バキッ!!
砕けたのは……
俺の歯の方だった。
「なっ……はぁ!?」
多くのゴーレムを一撃で仕留めてきた、防御を無視する俺の最強技が……!?
ゴーレムの拳は止まらない。
そのまま口の中へ拳を突っ込まれ、勢いのまま壁へ叩きつけられた。
《ヒール》
《回復強化》
ダメージがデカすぎる……!
なんとか持ち直さなければ――。
――解析
名前:精霊石ゴーレム
保有スキル
物理無効
魔法無効
特殊能力無効
状態異常無効
身体能力向上・特大
自動回復・特大
……嘘だろ。
魔法も物理も無効…
それに《特殊能力無効》だと…
悪食には防御力無視の効果がある。
それでも、ダメージが入らないのはこのスキルのせいか!?
初見殺しのヒュドラの次は、無敵のゴーレムかよ……。
こいつは……攻略法もなしに挑んじゃいけない相手だ!
《底力》
《ダークネス》
暗闇を発生させる。
俺の熟練度じゃ、顔の周囲に靄をかける程度しかできない。
それでも、一瞬でも気を逸らせれば――。
しかし闇は、ゴーレムの周囲で一瞬にして霧散した。
妨害魔法まで無効か……!
だが!
《収納展開》
まだ口の中に突っ込まれている拳を触手で掴み、収納していた物を一気に吐き出しながら無理やり引き抜く。
そのまま目くらまし代わりに、ゴーレムの顔へ向かって吐き出した。
ダメだ!
一旦撤退する!
何か攻略法を見つけないと勝てない!
《速度強化》
《フライ》
速度強化、フライ、触手移動。
使える移動手段をすべて重ね、一気に出口へ駆ける。
最速で入ってきた扉まで――!
次の瞬間、緑の稲妻が俺を追い越していった。
……。
扉の前には、緑に光るゴーレムが仁王立ちしていた。
は、早すぎんだろ……。
「クソッ……」
「逃がす気はないってことだな。」
――解析
名前:精霊石ゴーレム
弱点:胸部中央のゴーレムコア
よし!
解析が進んで弱点も判明した。
だが……。
悪食すら防がれる相手に、どうやってコアまで攻撃を通すかだな……。
ゴーレムは入口で仁王立ちしたままだ。
一つ、試してみるか。
触手を伸ばす、柱や壁へ絡ませる。
そして身体を限界まで後方へ引き絞る。
スリングショットのように、触手が千切れそうになるほど全身を引き絞る。
……ここが限界か。
《攻撃強化》
《速度強化》
《体表変化:千本針》
《硬質化》
《フライ》
発射!!
限界まで伸ばした触手を縮めて、反動で身体を撃ち出す。
ウニのように全身を無数の棘で覆い、硬質化を重ねる。
一本でもいい。
針がコアまで届けば――!
高速で放たれた一撃。
ゴーレムは防御する暇もなく、胸へ直撃した。
……だが。
俺の全力の突撃でさえ、僅かな傷ひとつ付けられなかった。
ゴーレムは両腕を大きく広げる。
まるで空中を飛ぶ蚊でも叩くように、巨大な掌が左右から迫る。
《ダークネス》
《脱皮》
衝突の瞬間。
一瞬だけ闇で視界を遮り、硬質化した殻を脱ぎ捨てた。
脱ぎ捨てた殻は、ゴーレムの両手で挟まれ、棘を撒き散らす。
なんとか……ギリギリ回避した!
脱皮、使い道無いと思ったが役に立ったな。少し、身体が小さくなった気がするが……
そのまま地面に着地し、ゴーレムの死角へ潜り込み、床を滑るように走る。
攻撃は上手く行けばラッキーぐらいに考えていた。
本命は逃げるための隙を作ること!
今のうち、お前の足の間を抜けさせてもらう。
足の間を駆け抜ける。
出口まで、あと少し!
だが。
上から降ってきた二本の腕が、通せんぼするように入口を塞いだ。
「クソッ! あと少しなのに!」
両腕は、俺の囮を潰すために使ってるはずだろ!?
見上げる。
ゴーレムの背中から、新たな二本の腕が生えていた。
「あぁ……手も増やせるのかよ……。」
そのまま増えた腕に捕まり、軽々と持ち上げられる。
顔の前まで運ばれ――
「グッ、ああああああああああ!!」
まるで人形遊びでもするように、身体を左右へ引き裂こうとしてくる。
《底力》
《痛覚耐性》
《闘争心》
ヤバい!
本当にバラバラにされる!
《回復強化》
《ヒール》
《攻撃強化》
《硬質化》
触手を身体へ何重にも巻き付ける。
とにかく、使えるものは全部使え!
耐えるんだ!!
《収納展開》
身体の中身をすべて吐き出す!
雪崩のような勢いで、収納していた物がゴーレムへ襲い掛かる。
一瞬でも隙ができればいい!
その隙に、この部屋から――!
一瞬でいい……。
一瞬だけでいい……。
すべて吐き出した。
雪崩は止まる。
それでも……。
ゴーレムは俺を掴んだまま離さない。
まるで面白い玩具でも見つけたかのように、ニヤリとこちらを見下ろしていた




