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ミミック・ワールド ~宝箱の魔物は能力を喰らい、世界を喰らう~  作者: シンパチ
第一章 ダンジョンの王
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第十七話 ヒュドラ再戦

惨めに敗走してから、一か月――。


 俺は再び、ヒュドラの部屋の前まで戻ってきた。


 このダンジョンはかなり広い。


 だが、ほとんどの魔物を狩り尽くし、フライと触手を使って全力で移動すれば、入り口からでも半日とかからなかった。


 長く身体を蝕み続けたヒュドラの猛毒も、修行の間に大量の毒を喰らい続けたことで、毒耐性を手に入れた今では完全に治っている。


 体調は万全。


 疲労もない。


 魔力もほぼ満タンだ。


「よし……行くか。」


 扉を押し開け、ヒュドラの部屋へ足を踏み入れる。


 箱から松明を取り出し、火を灯す。


 さらに索敵・下級でヒュドラの位置を確認し、そのまま一直線に距離を詰めた。


《ダークネス》


 俺の接近に気付いたヒュドラが、さっそく闇魔法で視界を奪ってくる。


 音波探知も使いヒュドラの様子を伺う。


 やはりだ。


 今回も最初に動いているのは、闇魔法を使う首だけ。


 他の首は、まだ眠ったままだ。


 舐めているのか。


 それとも、そういう習性なのか。


 悪いが、こっちは最初から全力でいかせてもらう。


 お前の戦い方は、もう学習済みだ。


 俺は箱の中から大量の木材をばら撒く。


「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」


 次々と火をつけ、一帯を炎で照らした。


 囮の熱源を作ったが、隠れるつもりはない。


 この暗闇では、下手に距離を取る方が危険だ。


 見失う前に、一気に勝負を決める。


 音波探知で距離を測る。


 あと数メートル。


「今だ!」


 箱の中に収納していた巨岩を吐き出す。


 突如目の前へ現れた岩へ、ヒュドラは反射的に喰らいついた。


 一息で巨岩を噛み砕く。


 その隙を逃さない。


 俺はフライで跳び上がり、一気にヒュドラの背後へ回り込んだ。


 周囲には囮の炎がいくつも燃えている。


 熱源が多すぎて、こちらを捕捉するのが僅かに遅れた。


 一瞬の隙。


 それだけで十分だ。


「悪食!」


 後頭部へ喰らいつく。


 そのまま一気に首を喰い千切り、丸ごと飲み込んだ。


 ドクンッ!!


「ガッ……ぐぅぅ……!」


 全身が焼けるように熱い。


《毒耐性・大》


 だが――耐えられる!


 毒耐性・大を得てなお、この苦痛。


 やはりヒュドラの毒は格が違う。


《底力・大》


 普通なら、激痛と震えで戦闘どころではなかっただろう。


 だが底力がある。


 身体の奥から力が湧き上がってくる。


「よし!」


 喰らった首は再生しない。


 その瞬間、眠っていた残り八本の首が一斉に持ち上がり、こちらを睨みつけた。


「少し起きるのが遅かったんじゃないか?」


「もう一本、戻らないぞ。」


「キィィィシャアアアアア!!」


 ヒュドラが怒りの咆哮を上げる。


 感情までは分からない。


 だが、首が再生しないことに強い怒りを抱いているのだけは伝わってきた。


 俺はヒュドラが体勢を立て直している間に距離を取り、燃え盛る木材の陰へ身を隠す。


 一つの首がこちらを見る。


 すると、それに続いて他の首も一斉にこちらへ視線を向けた。


「やっぱりな。」


 一本だけ、何らかの探知能力を持つ首がいる。


 その首が見つけた情報を他の首へ共有しているのだ。


 炎で囮を作ろうが、隠れようが関係ない。


 探知役が生きている限り、こちらの位置は筒抜けだ。


「なら、隠れる意味はない。」


 俺は堂々とヒュドラの正面へ立った。


「さぁ……続きをやろうぜ。」


《攻撃強化》


《速度強化》


《表皮変化・一角針》


 ヒュドラが強化スキルを発動する。


 当然、攻撃してくるのは皮膚を角へ変化させた首だ。


 強化された突進は、隕石のような速度と威力で襲いかかってくる。


 だが――


「その技は、一度見ている!」


 暗闇でもない。


 真正面から突っ込んでくる攻撃が、二度も当たると思うな!


《ストーン》


 土魔法で足場を隆起させ、一気に位置を変える。


 当然、ヒュドラも軌道を修正し、真上から押し潰そうとしてきた。


 勝負は衝突の瞬間。


《フライ!》


 身体を浮かせる。


 触手はすでに周囲へ伸ばしてある。


「ハァァァァァッ!!」


 角が届く寸前、身体をひねりながら上昇。


 角の先端を紙一重でかわした。


 それでもヒュドラは無理やり軌道を変え、頭を押し付けてくる。


 箱の側面をかすめただけで、大きく削られた。


 激しい衝撃が全身を襲う。


 だが――避け切った!


 轟音とともに、ヒュドラの頭が地面へ激突する。


《スパイダーネット》


 何重もの蜘蛛の糸が絡みつく。


 蜘蛛の魔物から得たスキルだ。


 長時間は拘束できない。


 だが、一瞬止められれば十分。


 地面へめり込んだ首へ、大きく口を開く。


 悪食が届く距離だ。


 だが、それを阻止しようと他の首が一斉に突っ込んでくる。


 天井を掴む触手に力をこめる。先ほどヒュドラの突進を躱した時から、天井に伸ばした触手は離していない。


《フライ!!》


 風魔法で飛び上がり、一気に触手で身体を持ち上げる。


 悪食と見せかけたフェイント。


 飛び込んできた首をかわし、そのまま大きく跳び上がる。


 本当の狙いは――


「後ろで探知してる、お前だ!!」


「ハァァァァァッ!!」


 探知役の首を守ろうと、二本の首が前へ割り込んできた。


 だが、この好機は逃さない。


 俺は二本の首へ、それぞれ二本ずつ触手を伸ばす。


 迎え撃つように、首は大きく口を開いた。


 俺はその口の中へ、触手を一気に突っ込む。


「喰いたきゃ……喰ってみろ!!」


 二本の首は触手へ牙を突き立て、猛毒を流し込んできた。


《底力!!》


「ぐあああああぁぁぁっ!!」


 激痛が全身を駆け巡る。


 それでも止まらない。


 牙を刺された触手を支えにして、前へ。


 前へ。


 眼前には、探知能力を持つ首。


 首が後ろへ下がる。


 距離を取るつもりか。


「逃がさねぇ!」


 触手を伸ばし、首を掴む。


《底力》


「もう……捕まえたぜ!」


「悪食!!」


 探知役の首を、一片残らず喰らい尽くした。


「ギャァァァァァッ!!」


 ヒュドラが苦痛の咆哮を上げる。


 その瞬間、触手へ喰らいついていた二本の首も口を離した。


《フライ!》


 触手を引き抜き、一気に空へ跳ぶ。


《ヒール》


 傷を癒やしながら距離を取る。


「これで二本目。」


「残る首は……あと七本だ。」


 《攻撃強化》


 《速度強化》


 《表皮変化・一角針》


 《硬質化》


 ヒュドラが再び強化スキルを発動する。


 しかも今度は二本の首を同時に強化した。


 脅威だ。


 だが、前回の消極的な戦い方とはまるで違う。

 

 なりふり構わず攻めに転じてきたということは、それだけ追い詰められている証拠でもある。


 すでに二本の首を失い、再生もしない。


 いくらヒュドラでも、相当なダメージが蓄積しているはずだ。


 しかも――。


「こっちには毒が効かない。」


 ここが正念場だ。


 何としても押し切る。


 二本の首が大きく持ち上がる。


 次の瞬間。


 二つの隕石が落ちてくるかのような勢いで、同時に突進してきた。


「さぁ、来い!」


 轟音が響く。


 地面が揺れ、部屋全体が崩れそうなほどの衝撃。


 地面には巨大なクレーターが二つ刻まれる。


 その中心で粉々になっていたのは――。


 ファイヤーで火をつけた木材だった。


 …………。


 やっぱりな。


 薄々、感じていた。


 ヒュドラは極端に視力が悪いんだ。


 熱感知は、おそらく首ごとの能力ではなく、ヒュドラ全体で共有している感覚なのだろう。


 そして、その熱源を正確に補足していた探知役の首も、もういない。


 炎の囮が無数に散らばるこの状況では、ヒュドラは完全に俺を見失っている。


 初戦とは真逆だ。


 あの時は、暗闇の中で一方的に俺が狩られた。


 だが今は違う。


 一方的に相手を補足しているのは、俺の方だ。


「……何だろうな。」


 攻略本を読んで、レベルを上げて、ボスへ挑んでいるような気分だ。


 本当に、これで良かったのかと思ってしまう自分もいる。


 でも――。


「悪いな。」


「勝ち方にこだわれるほど、俺は強くない。」


 ヒュドラ。


 その首、全部喰らわせてもらう。


 俺は他の首から少し離れた場所で攻撃を続けている一本へ、一気に突っ込んだ。


「悪食!」


 三本目。


 一瞬で首を喰い千切る。


 そこからは、一方的だった。


 だが探知役を失った今、その攻撃はことごとく空を切る。


 俺は音波探知で位置を把握し、炎を囮にしながら確実に死角へ回り込む。


 そして悪食。


 一本ずつ。


 確実に喰らい尽くしていく。


 ついに残る首は一本だけとなった。


「悪いな。」


「こんな終わり方で。」


「でも、ここまで苦戦させられたのは初めてだった。」


「やっぱり、お前は強かったよ。」


 最後の首へ飛びかかる。


「悪食!!」


 一片も残さず、最後の首を喰らい尽くした。


今度は――


俺の勝ちだ。


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