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ミミック・ワールド ~宝箱の魔物は能力を喰らい、世界を喰らう~  作者: シンパチ
第一章 ダンジョンの王
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第十二話 ヒュドラ遭遇

下層へ続く扉の前に立つ、上層の扉よりも大きい。


 表面には、長い蛇が絡み合うような彫刻が刻まれている。


 彫刻の蛇には、いくつもの頭があった。


 扉の隙間から、冷たい空気が漏れ出している。


 炎獣の部屋とは違う。


 熱くもない。


 臭いもしない。


 だが、何かがおかしい。


 近づいただけで、触手が小さく震えていた。


「……いるな。」


 扉の向こうに、強い魔物がいる。


 間違いない。


 俺は触手を扉へ伸ばした。


 一瞬、開けるのをためらう。


 ゴブリンキングを倒した。


 以前は逃げるしかなかった魔物も、次々と倒した。


 上層のボスさえ、一撃で仕留めた。


 今の俺なら大丈夫だ。


 そう自分へ言い聞かせ、扉を押し開ける。


 重い音を立てながら、巨大な扉が開いていく。


 その先は、薄暗い部屋だった。


 天井が見えないほど高い。


 奥行きも、音波探索の範囲を超えている。


 壁や床は湿っており、どこからか水滴の落ちる音が響いていた。


 静かだ。


 魔物の鳴き声もない。


 足音もない。


 それでも、確かに何かがいる。


 部屋の中へ進む。


 触手を床へ伸ばし、慎重に身体を運ぶ。


 一歩。


 もう一歩。


 部屋の奥に、巨大な塊が見えた。


 岩山かと思った。


 だが、その表面がゆっくりと蠢いている。


「なんだ、あれ……。」


 塊の一部が持ち上がる。


 長い首。


 その先に、大きな蛇の頭。


 巨大な蛇の魔物。


 暗い部屋で赤く光る目が俺を見た。


 目が合った。


 ただ、それだけだった。


「――っ!?」


 身体が動かない。


 触手が石になったように固まる。


 箱の蓋すら開けられない。


 殺された。


 一瞬、本気でそう思った。


 まだ何もされていないのに、自分が死ぬ光景が頭の中へ流れ込んでくる。


 圧倒的な死の恐怖。


 これまでの敵とは、何もかもが違う。


 ゴブリンキングも強かった。


 だが、戦えば勝てるかもしれないと思えた。


 目の前の怪物には、勝てる姿が想像できない。


 逃げろ。


 頭の中で何かが叫んでいる。


 今すぐ扉を閉めろ。


 背を向けて逃げろ。


 こいつは、喰らう側ではない。


 喰われるのは俺だ。


 箱の身体が小刻みに震える。


 その時。


『【闘争心・中】が発動しました。』


 身体の奥から、熱い力が湧き上がる。


 恐怖は消えない。


 それでも、固まっていた触手が少しずつ動き始めた。


 一本の触手を床へ伸ばす。


 さらにもう一本。


 震えながら、俺は身体を持ち上げた。


 間違いない。


 こいつは、今までで最も強い。


 俺よりも遥かに格上の相手だ。


 なら。


 こいつを喰えば、俺はもっと強くなれる。


 恐怖で震える身体を無理やり前へ進める。


 触手へ武器を持たせる。


 体内の魔力を練り上げる。


 口を大きく開いた。


「いくぞ。」


「お前も、喰らい尽くしてやる!」


ーーーーーーーーーーーーーー


圧倒的な威圧感を放つ蛇の魔物と対峙する。


 まず問題なのは、この部屋の暗さだ。


 相手の姿すらまともに見えない状態では、戦いようがない。


《索敵・下級》


索敵によって敵の位置を把握する。


 だが、レーダーのように敵の位置が分かるだけだ。見えている訳ではないので、暗闇からの攻撃に対して瞬間的に対応は出来ない・・・


 俺は箱の中から木の棒を取り出す。


「ファイヤー!」


 魔法で火をつけると、わずかに視界が広がった。


 よし。このまま灯りを増やしていけば――。


『ダークネス』


「なっ!?」


 蛇の魔物が魔法を唱えた。


 次の瞬間、棒の炎を飲み込むように、周囲の暗闇が一気に濃くなる。


「魔法で暗くしたのか!? 妨害系の魔法か?」


 だが、これだけ暗いなら、相手だってこちらの姿は見えないはずだ。


 ゾクッ。


「ヤバい!」


 本能が警報を鳴らす。


 俺は触手を地面へ叩きつけ、後方へ跳び退いた。


 直後、蛇の巨大な牙が目の前をかすめる。


「クソッ! 完全な暗闇なのに、こっちの位置が分かってやがる!」


 噛みつきは回避できた。


 だが、蛇はその勢いのまま突進してきた。


 巨体に弾き飛ばされ、俺の身体は激しく壁へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 何とか相手の位置を把握しながら戦わなければならない。


 俺は箱の中から木の盾や棍棒など、大量の木材を周囲へばら撒いた。


「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」


 敵を警戒しながら、周囲の木材へ次々と火をつける。


『ダークネス』


 だが、辺りは一瞬にして再び暗闇へ閉ざされた。


「多少、火を増やしたところで無駄なのか……。」


 このままでは戦いにならない。


 次の手を考えなければ。


 その時――。


 バキッ!!


「……ん?」


 今、何かを攻撃した?


 耳を澄ませる。


 燃えていた木材を砕いたような音だった。


「木材の灯りを、俺と勘違いしたのか?」


 何かが引っかかる。


 前世の記憶が、頭の奥から浮かび上がった。


 蛇は熱を探知する。


「そうか!」


 暗闇の中では、熱に反応して俺を追っているのか。


 それなら――。


「ウォーター!」


 水魔法で自分の身体を冷やす。


 さらに木材を周囲へばら撒いた。


「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」


 再び、あちこちへ炎を灯す。


《索敵:下級》《音波探知》


 スキルで敵の位置を探る。


 蛇は俺を探すように周囲を見回し、最も近くにあった燃える木材へ噛みついた。


「やっぱりだ! 暗闇では熱で俺を追ってる!」


 俺はゴブリンキングから手に入れた大棍棒を取り出す。


 四本の触手でしっかりと握り、木材へ噛みついた蛇の頭へ向けて、一気に振り下ろした。


 ドゴォン!!


 完全な不意打ち。


 大棍棒が蛇の頭部へ直撃する。


 頭は原形を失うほど潰れ、そのまま動かなくなった。


「なかなか苦戦したな……。完全な暗闇で戦うのが、こんなに大変だとは。」


 索敵と音波探知が無ければ一方的に負けていたかも知れない。


 おかしい、敵を倒したはずなのに、嫌な感覚が消えない。


「さっさと捕食してしまおう。」


 俺が蛇の死体へ近づいた、その瞬間。


「なっ――!」


 横から別の蛇の頭が突っ込んできた。


 凄まじい勢いで吹き飛ばされ、再び壁へ叩きつけられる。


「もう1匹いたのか!?」


 いや、索敵には1体しか反応は無かった。


 俺はすぐさま火魔法を放った。


「ファイヤー!」


 暗闇の中に、巨大な影が浮かび上がる。


「う、嘘だろ……。」


 今まで眠っていた首が、一本ずつ起き上がっていく。


 潰した一頭を除き、今まで眠っていた八本の首が次々と起き上がる。


「一本でも、あれだけ苦戦したのに……。」


 戦意が折れかける。


 だが、闘争心が発動し、沈みかけた心を無理やり奮い立たせた。


 俺は大蛇と向かい合う。


「ダークネスを使ってこない……?」


 もしかすると、先ほど潰した首が闇魔法を使っていたのかもしれない。


「暗闇での戦闘じゃなければ、一本ずつ確実に倒せる。」


 大丈夫だ。


 まだ勝機はある。


 そう思った時だった。


 潰したはずの首が、ぴくりと動いた。


「……は?」


 まるで映像を逆再生するかのように、砕けた頭が元の形へ戻っていく。


 潰れた肉が盛り上がり、骨が繋がり、鱗が再生する。


「嘘だろ……。冗談じゃねぇ。」


 再生した頭を含め、首は全部で九本。


 九つの頭と、驚異的な再生能力を持つ蛇の怪物。


 その姿を見た瞬間、前世の記憶が呼び起こされた。


「ヒュドラ……。」


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